ちょろぽよくんはお友達が欲しい

日月ゆの

第1話

「おはよぉー!翼くん?聞いてぇ!今日はね、猫さんが中庭にいたんだよー!お花にお水上げてたらトコトコ歩いてきてねぇ!すっーごく可愛かったんだぁ!」


「おはよ。詩音?だからそんなに……、汚れてるの?制服……」

翼が机に頬杖つきつつ視線を上から下に這わせるように動かしながら呆れた様子で声をかける。

詩音のスラックスは所々に砂がついて汚れており、ブレザーはよれて肩からずり落ちそう。頭には葉っぱものせている。


「だって……、可愛い猫さんを抱っこしようとしたらにげちゃったから追いかけっこしたんだよぉ……」


詩音が眉をへにょりと下げ、下を向き罰が悪そうにしゅんと答える。

「ゔぅ……、可愛いいのは、お前だぁ……」


翼は思わず心の声とともに天を仰ぎだした。

話を聞いていたクラスメイトも天を仰ぎだしたり、顔を真っ赤にして机に突っ伏す。


詩音はそんな皆の様子を見て、突然の皆の挙動不審を不思議に思い首をコテンと傾げる。


「皆、どうしたのぉ?僕……、変な事しちゃったっ?」

「あっ!いやっ!詩音はいつも通りで良いんだよっ!

ほらっ!頭に葉っぱ乗ってる!」


あわあわと焦った様子で翼がフォローをしつつ、頭の葉っぱを取ってあげたり甲斐甲斐しく、詩音の世話を焼き出す。

スラックスの砂埃も払ってあげたり、ブレザーもしっかと直している。


「わぁ!ありがとう!翼くん!」

「あぁ……、俺がやりたくてやってるから大丈夫だ……」


詩音がゆるゆるとした笑みを浮かべ翼にお礼を言うと、翼は顔をプイッと背け口元を押さえて頰を赤らめた。


ガラガラ


音をたてて扉が開き担任が気怠そうに教室に入ってくる。詩音は慌てて自分の席につき、教壇に視線を向ける。

「おい、お前ら席付けよー。HRはじめるぞー」


高い背丈に金髪でスーツを着崩す見た目ホストな美丈夫な担任朝生清晴あそうきよはるだ。

朝生が教室に現れた途端にキャーと黄色い声が上がり、朝生は気怠そうに教室を一通り見渡すと返答する。



「おい。うるせーぞ。黙れよ……。」


その一言で黄色い歓声を上げていたチワワ達は頰を赤く染め黙り込む。

教壇に日誌をポイッと投げるように置いた朝生は扉の外に視線を向けながら口を開く。

「よし。入れ……」


数秒の間が空くと、扉の音を勢い良く立てながら転入生と思わしき人物が入室する。

彼が入室した途端に教室が再び騒がしくなる。

何故なら彼の格好が……、余りに奇抜過ぎた。

この学園では容姿が特に重要視される。そんな特殊な価値観を持つ生徒が大半のこの学園でこの転入生は――


――黒いモジャモジャアフロの髪型に瓶底メガネ。


殆ど表情も見えないため不気味さがさらに際立つ。

先程の黄色い声の様な騒ぎとは違いヒソヒソとした声が教室のあちこちから聞こえる。


そんな雰囲気の悪い教室内の空気に萎縮し詩音はつい視線が机に向かってしまう。


そんな教室内の雰囲気等気にせずに転入生は教室中に響き渡る様な大声で自己紹介を始める。


「俺の名前は!!百地遙ももちはるかだ!この俺がお前らと仲良くしてやるぞ!ありがたく思え!」


眉を潜めヒソヒソするくらいだった教室内の空気がその一言でガラリとかわり、皆の顔が一様に般若の顔になる。口々に聞こえよがしに罵詈雑言を浴びせる。


「あんたなんかとわざわざ仲良くしたくないわよ!」

「まりもの癖に何調子にのってんのっ?!」

「クソまりも潰すっ!!」

「マッチ棒みたいなその頭燃やすぞっ?!」


阿鼻叫喚の教室内の空気に朝生は舌打ちし気怠そうに髪をかきあげる。そして詩音の横の空席を指差しながら転入生に声をかける。


「ちっ!百地、お前の席はあの天使である詩音の隣だ……」


指さされた詩音は下を向いていたため、話を聞いておらず名前を呼ばれた朝生を戸惑いながら見つめる。

朝生が詩音からのその視線に気付くとパチリとウインクし、甘く優しい声で説明し始める。


「詩音?この転入生がお前の隣の席と言う幸運を掴んだ。無理して仲良くはしなくて良いぞ?」


「えっと……、僕……、お友達欲しいので仲良くなれるように頑張りますね!先生!」


詩音は転入生と仲良くなれるかもという期待に胸を膨らませ自然とゆるゆると顔を綻ばせた。


三度、教室内が違う意味でざわつくことになった。

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