スタンド・バイ・ミー

つくお

1、台風直撃

 来る来るいっていつも来ない台風が本当に来たある夏の終わりのことだった。村上から例のアレ予約取れたと連絡があって、おれたちは今日か今日今日今日これからマジでマジマジでもどうするなどとあたふたしたり、ためらうふりをしながら行かない手はなく、M駅で待ち合わせた。

 三両しかない単線はかろうじて動いていたが、乗客はおれの他に数人しかいなかった。別の路線を使っている村上は先に来ていて、改札を出たところで待っていた。駅舎の軒先から雨水がぼたぼた垂れ、ロータリー周辺の店の片付け忘れた幟がばたばたと風にあおられてうるさかった。

 おれたちはおうとか何とか挨拶もそこそこに歩きはじめた。指定されたのは、駅から徒歩七、八分くらいのところにある市の施設か何かだった。お城の裏手にあたる木々が鬱蒼と茂った一帯にぽつんと建っている、春頃に閉鎖された建物だ。繁華街とは反対方向になる。

 おれたちはぎりぎりまで駅舎伝いに歩き、線路脇にある広い駐車場を突っ切った。いつも八割がた埋まっているが今日に限ってはがらがらで、隅に置き去りにされた自転車がまとめて横倒しになり、バイクや原付まで風の力に負けていた。勢力のやたらでかい台風で直撃もいいところだった。

 おれの傘はほとんど一瞬でダメになった。家の最寄り駅までも強風で何度かめくれあがってはいたが、M駅に着くと雨風が一段と強さを増していた。一吹きで骨が何本も折れてしまい、おれは役に立たなくなった傘を駐車場の隅に投げ捨てた。村上みたいに合羽にすればよかったと後悔したが、そのスタイルは今回ばかりはダサいような気がしたのだ。

 何しろ、おしゃぶりちゃんの予約が取れたのだ。おしゃぶりちゃんというのは通称だが、してくれる行為が呼び名になったと言えば具体的に何をしてくれるかは伝わるだろう。彼女は地元の一部の男子高校生の間で知られている某私立女子高校の生徒で、おれは駅前のデパートで一度本物を見かけたことがあった。ふわふわした長い髪、垂れ目でぷっくらした唇。あの口が、と数メートル離れた距離から見るだけフル勃起だった。台風だろうが何だろうが、絶対に行くしかなかった。

 おれと村上はこの先に待っているもののことを考えるのに頭を占領され、ほとんど言葉を交わさなかった。洗面台であそこをよく洗って、パンツも新しいのをおろしてきたが、いざされているときにどうしたらいいかは少しばかり不安があった。立ってするのか、座ってするのか。声を出して反応した方がいいのか。それとも自然に出てしまうものなのか。されてる間、手はどこに置いておけばいいのか。腰に当てるのは偉そうか。おれと村上のどっちが先なのか。

 おれとしては、できれば先がよかった。その方が清潔な気がしたし、あとからだと比べられるということがあるからだ。形、サイズ、角度、色味、もち。みんな、どれくらいもつものなんだろう。早すぎと笑われたらどうすればいいのか。村上がどんなパンツを履いてきたのかだって気になった。そうやってあれこれ考えて全身に力が入りながらも、おれは家を出たときからずっと半勃ちだった。




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