第2話 審問官《インクイジター》ビルド

 目は醒めているんだが、気だるさで起きられない。


 それにしても、夢のような時間だった。


 あれは、夢だったんじゃないのか。


「ダンペー。起きなくていい? 朝だけど?」

「あ、うーん。起きるよ」


 夢じゃない。ボクの隣には、一糸まとわぬミィナちゃんが、シーツに包まってはにかんでいる。基本白ギャルなんだけど、ミィナちゃんはやや褐色が混じっている。ツメでくすぐられると、またエナジードレインを食らいそうだ。


 ボクは、ミィナちゃんとセンシティブなことをシてしまったんだなって。


「大体、何ラウンドやったっけ?」

「うーんとね、一〇ラウンドくらい。そっから先は、覚えてない」


 だとしたら一発でどれくらい経験値を吸われるのか、具体的な数値はわからないね。


「でも目安として、めっちゃレベル高いやつほど、吸う量が増えるの」


 鍛錬を積んだ相手の方が、おいしいんだって。


「じゃあ、ボクじゃなくても達人級の人がいたら……」


 ボクは、さよならされてしまうのかなあ。


「だーいじょうぶっ。あたしが吸うのは、ダンペーだけ」

「ホントに?」

「だって、隷属魔法がかかってるから」


 語尾にハートがつくくらい、ミィナちゃんは笑顔で返す。


「それにさ、魔族でもサキュバスでも、愛してくれたでしょ?」

「うん。なかよくなりたかったから」

「ありがと」


 ミィナちゃんが、ボクの頬に口をつけた。


 ボクのレベルがまた下がる。


 これ以上下げられる前に、食事にしよう。


 朝食は、いつものパン屋さんで済ませる。ここは、甘い卵焼きサンドがおいしいんだ。ミィナちゃんにも、ボクのおすすめを教えてあげた。


「うん。ダンペーの経験値もおいしいけど、これもなかなか」

「気に入ってもらえてよかったよ」

 

 冒険者ギルドで、ジョブの申請をし直す。

 

「ビルドの再構築の申請が、終わったよ」

「どんなビルドにしたの? 衣装もかっこいいね」


 ボクの着ているのは、紺色のロングコートだ。腰には二丁拳銃が。


「インクイジターだよ」

「チ●コイ●ッター?」


 どんな聞き間違いだよ?


「審問官のこと。インクイジターね」

「わかった。それで、●ンコ●ジッターってどんな感じなん?」


 わざと言い間違えてない?


「やってみるね」


 ミィナちゃんと二人で、ダンジョンへ。


「大丈夫、ミィナちゃんもついてきて?」

「あたしの能力って、魔物を寄せ付けるんだよね」


 敵を引き寄せる【アトラクト・フェロモン】のスキルって、結構なレベルじゃないと取得できない。


 ちなみに、道中や、街などの安全地帯では発動しない。ダンジョンや城、塔などで効果を発揮する。


「敵が来たよ!」

「よし、くらえ!」


 ボクは、二丁拳銃を構えて敵の群れに撃ち込む。


 銃から放たれるのは、オレンジ色の雷撃だ。


 審問官イクイジターは、魔法を放つ銃使いだ。銃身や弾丸に魔力を込めて、特殊な効果を持つ弾を放つのである。異端相手には異端の技術を、というわけだ。


 といっても、ボクの持っている銃は必要最低限の威力しかない。

 最初から高レベルの武器なんて装備しても、新鮮味は感じられないから。

 今持っている最高の武器より強い装備が出たら、儲けものだ。


「すごーい。レベル低いのに、ダンペーってマジすごい」


 どんどんレベルが上っていくボクを見て、ミィナちゃんが拍手する。

 


「今日は、あたしがお料理するから」


 家に帰って、ミィナちゃんが炊事をしてくれた。

 言われなくても、ボクも手伝う。


 このゲームには、お話らしいお話はない。

 ただ敵を倒して、ドロップアイテムを売って生計を立てるだけ。


 ビルドも自由度が高く、それが有利とかはない。使い道次第で、どのジョブでも最強になれる。


 その分、実に飽きやすい。ラスボス的な存在を倒すまで、虚無に陥る人もしばしば。人間を相手にするプレイヤー同士の争いもない。頂点を極めると大抵、することがなくなってしまう。


 しかし、ミィナちゃんのおかげで楽しい冒険ができそうだ。


 こんなイベントがあったなんて。


 でも、妙にリアルだ。


 特製の白いパンとシチューの味も、ホンモノに近い。


 ボクのを挟み込む、ミィナちゃんのおっぱいも。

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