サキュバスに経験値を搾取してもらい、わざとレベルを下げて転職しまくります。
椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞
第1話 冒険者 ~吸ってください、サキュバスさん~
大量に倒したモンスターの死体に囲まれながら、ボクはため息をつく。
「あー、リビルドしたいなぁ」
スキルを組み直したい。
今の近接ビルドも、特に悪くなかった。でも、大好きだったゲーム世界に生を受けたからには、あらゆる戦闘術をマスターして遊びつくしたいね、と。それだけ、今のスキル構築は完璧すぎる。たとえば……。
「お、また来たか」
増援のモンスタが、攻めてきた。人間大のトカゲに、ガイコツに、魔王を信仰する狂信者ね。
今ボクが戦っているモードは、最難関の【インフェルノモード】にしてもらっている。
だから、普通の人なら片手でも壊せるスケルトンだって、最上位種のリッチ並に固い。
それくらい、手応えがないとね。
ど真ん中を走っているのは、サキュバスか? なんか、JKみたいな制服を着ているけど?
サキュバスが、こっちに走ってくる。かと思えば、ボクの背中に隠れた。
「ゴメン、助けて。あたし、追われてるんだよ!」
「え? キミ魔物だよね? すると、このモンスターたちって」
「そう。あたしを殺しに来たんだよね。あたしが、魔王を裏切ったから」
なるほど。魔王軍でも、色々あるんだな。
「お願い、なんでもするから」
「ん? なんでもするって言ったよね?」
サキュバスはコクコクとうなずく。
「ボクはダンペー。キミは?」
「あたしミィナ。命令されたら、あたしはあんたのモノになるよ」
「よーし。じゃあミィナちゃんは、ボクの話し相手になって!」
「あ、はい」
ミィナちゃんは、あっさり承諾した。
モンスターといっても、誰かとしゃべるなんて久しぶりだ。
ここ最近レベル上げ三昧だったから、人とロクに話したこともない。まあ、ボクが人間に興味がないのもあるけど。
ボクは、ミッションなんてこなさない。ずっとソロ狩りである。ギルドの人と話すのも億劫で、クエストもこなせなかった。
それでも、レベル五〇まで上げて、ここまで生き残ってきた。
この世界に転生して、何万匹コイツらを狩ってきたか。
愛用の両手剣【フレイムタン】にも、火炎属性を付与して強化している。
トカゲにフレイムタンを振るう。
トカゲは炎の剣に触れただけで、蒸発していった。
続いてボクは、フレイムタンでスケルトンの大群を相手にする。
フレイムタンを振るって、炎の渦を作り出した。魔法にスキルポイントを振っていない、ボクなりの魔法攻撃である。
スケルトンも火に弱い。視界を埋め尽くすほどのスケルトンが、炎に飲み込まれて消滅していく。
最後は狂信者か。魔王と契約したコイツらは、魔術に耐性があったりするから厄介だ。
案の定、ボクの突きが効かない。炎を相手の肉体が吸収していった。
とはいえ、こっちだって無策ではない。
炎を飲み込んだ狂信者が、火に飲み込まれる。
火の色は、ブルーに染まっていた。
「これは【鬼火】だ。霊力を帯びた、魂を直接焼く炎だよ」
鬼火を食らった狂信者は、消し炭となる。骨すら残らない。
ボクの炎は、魂を直接攻撃する。死んだ敵は、スケルトンにもゾンビにもならない。
このようにボクは、火炎耐性のある敵にも、ダメージを貫通できるように構築している。
「随分と上位の存在のようだね」
気の抜けた声が、死体の山から聞こえた。
「改めて、あたしミィナ。助けてくれてありがと」
うん、やっぱりサキュバスじゃん。しかも、見た目がどストライクだ。
「じゃあ、行こっか」
手をつないでミィナちゃんと街へ。宿を探すためだ。
女性を手をつなぐなんて、産まれて初めてかも。ありがとう異世界転移。
ギルドに魔物討伐の報告を済ませる。無言で。
「そちらの方は? モンスターですか?」
「えっと」
ボクが回答に困っていると、ミィナちゃんがお腹を見せる。
「ちょっつ! ミィナちゃん!?」
「ちゃんと見て。お腹のトコ」
ミィナちゃんのヘソの下に、変な紋章があった。
「これって、まさか?」
サキュバスと言えば、あれだよね?
「そう。淫紋ー。あんた専門のエッチ相手になれるよ」
ミィナちゃんは、舌を出す。
「というわけで、わからされて、隷属されちゃいました。名前はミィナだよ」
清楚そうなギルドの職員が、ミィナちゃんに痴態を見せつけられて唖然としていた。
「それと、あの」
「まだなにか?」
「いえ。なんでもありません」
逃げるように、ギルドを後にする。
「どしたん、ダンペイ?」
「リビルドをお願いしようと思ってさ。でも、話せなかった」
「そうだったんだ。代わりに話してあげようか?」
ギルドへ戻ろうとするミィナちゃんを、「いいよ」といって連れ戻した。酒場の料理店で食事にする。
「リビルドって、めちゃお金かかるんだよ」
ミィナちゃんと共に、貝の酒蒸しを食べ合う。
「そうなん?」
「実際、リビルドは可能だよ。けど、コスパはめちゃくちゃ悪いんだ」
白身魚の切り身入りラーメンをシェアして、ボクはチュルチュルとすする。
毎回リビルドなんてすれば、破産は確実である。
「でもすっごいじゃん、ダンペーって。ソロで、これだけの魔物を蹴散らすなんて。リビルドしても装備には影響しないから、したいならすればいいのに」
「単に人と話すのが、苦手なんだ」
ネット小説だと、コミュ症の主人公でも普通に人と会話していたりするが、ボクはムリ。ガチのコミュ症を地で行く存在が、ボクである。
だからボクにできることと言えば、魔物の数を減らすことくらいだ。
人と話すくらいなら、魔物を狩っている方が楽だから。
しかし、そんなボクでも魅了されてしまうほど、この子は魅力的だった。
「じゃあ、これからは、ダンペーはひとりじゃないね」
「ありがとうミィナちゃん」
食事を終えて、ミィナちゃんは宿にチェックインしようとする。
「ちょっと待って、ミィナちゃん。ボク、家を買ってあるんだよ。そこへ行こうか」
ボクは、彼女を家に誘う。
「ゴハンは外で食べるけど、寝るトコロはあるよ」
家に人を、まして女性を上げるなんて、夢のようだ。
この家は、装備品を保管するために買った。部屋には、寝具以外はアイテムで埋め尽くされている。
「やるじゃん。さすがレベル五〇もある冒険者だね」
「え。ボクのステータス見えるの?」
「うん。だってサキュバスって、相手の経験値を奪う能力があるもん」
そういえばそうか。
「うん? 待てよ。そうか、エナジードレインだ!」
「ミィナちゃん、どうしたの?」
自分の胸に、ミィナちゃんは手を当てた。
「ダンペー。あたしと、エッチしない?」
突然のサプライズに、ボクはキョトンとなる。
「ちょっと待って。いきなり過ぎないか?」
「そうじゃなくて、あんたの経験値を吸ってるっての」
「え、いいの?」
もうボクは、このビルド構築では頭打ちだ。もう真新しい発見はない。経験値アップ専門の装備も、ホコリをかぶっている。
それを、ミィナちゃんは経験値を吸って奪ってくれるという。
サキュバスにエナジードレインしてもらえば、たしかにリビルドにはお金もかからない。
「どうしてミィナちゃんは、そこまでしてくれるの?」
「じゃあ逆に聞くけどさ、どうして襲ってこないん?」
ミィナちゃんの目が、マジだ。
「普通、サキュバスに目をつけられたらさ、理性を失っちゃうの。あたしにかかれば上位の魔物だってメロメロになっちゃう。でも、あんたは違った。アイテムとかで補強してるわけでもないのに、あたしに耐えられてる」
めっちゃガマンしているだけなんだけど。
「だからさ、興味持った。ぜーったい、骨抜きにしてやろうってさ」
「そっか、プライドを傷つけちゃったんだね。ゴメン」
「いいって。興味があるってこと。早くダンペーとしてみたい」
ボクは後ずさったが、なにかに足をとらえる。
ベッドの上に、背中から落ちてしまった。
いつの間にベッドに誘導されていたのか。
「あんたはリビルドできる。あたしは経験値をもらえてお腹いっぱい。どうWin-Winじゃね?」
「たしかに。キミさえよければ」
「じゃあ決まりー」
仰向けになっているボクに、ミィナちゃんがのしかかった。
女の子の身体って、すごく柔らかいな。
ミィナちゃんが、制服のボタンを外し始める。
ボクは思わず、反応してしまった。
「おっきくなっても、かわいい。ダンペーの」
お腹にのしかかられて動けないところに、ミィナちゃんはボクのを撫でる。
「ねえ、どれくらいもらっていい、経験値って?」
「二〇まで下げていいよ」
だいたいどのゲームも、二〇から四〇あたりまでが面白いから。それ以上は強すぎて相手にならない。
「二〇まで下げて、どれくらいで元のレベルまで復帰できるの?」
「一週間くらいかな」
本当ならもっと短時間で経験値は戻るだろうけど、こっちも新しいビルドを楽しみたいからね。だいたいそれくらいの猶予は欲しいかな。
「よーし。張り切っちゃお」
ミィナちゃんが、ボクの前でおもむろに服を脱ぐ。
ドルン、という効果音が聞こえてきそうなほど、豊満な光景が。
翌朝、ボクのレベルは二〇まで下がっていた。
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