MISSION12:未確認巨大構造体調査任務(3)
「それで、どう攻めますか。
その問いかけに応える前に、2射目のレーザー砲撃が放たれる。しかし、アイリスの駆るグロッソは余裕をもって回避した。
文字通りレーザーは光速で、放たれた後に避けることは不可能。だが発射前のチャージで熱量が増大するわかりやすい予兆があり、一度存在に気付いてしまえば避けることは難しくない。
無論、周囲にいる野生のレイブが連携して襲い掛かってくれば。並の
けれどイカロスのヴァルター
「距離を詰めながら、データを可能な限り集めたら撤退で」
「普段と比べて、積極的ではありませんが。理由は?」
「今すぐアレを潰せる装備も、今すぐ倒さなきゃいけない理由もないだろ?」
手段もなく、理由もないのに。命を懸けるほどディサイドは酔狂ではない。逆説的に手段と理由があれば、命を懸ける程度には酔狂なのだが。そこからはとりあえず目をそらしておく。
「……言われてみればその通りですね。これまでの無茶で感覚がずれていました」
「意味があれば、やってもいいのか?」
「意味がなくとも、やりたければやるのが人間でしょう?」
どうやらアイリスも、ディサイドと同レベルで頭のネジが外れているようだ。
むしろ
そんなことを考えていると、レーダー上の存在だったレーザーの照射源に鎮座する、未確認巨大構造体がズームしたウィンドウの中にその姿を現した。
火星と同じ赤茶けた色の構造体が、極冠の大地に脚を叩きつけて前に進む。
「全高100m、砲身400mを越える砲を背負った、…… ドローン、でしょうか?」
確かに、アイリスの言葉通りに。1本の砲と、4本の足を持つ姿は。ドローンと相似しているといえるのかもしれない。だが普段目にする3m前後の物と比較すると、目の前の構造体は――
「スケールが違いすぎる。月とすっぽんだ」
1辺300m、厚さ30mの正方形の板状に広がる胴体。そしてその対角線に、400m級のレーザー砲を据え付けてた巨躯が。太さ40m近い巨大な4本の脚で大地を砕きながらこちらに迫る。
四肢で稼働する機動兵器として最大級の代物であることは間違いない。いや人の手を離れ野生種と化したAIが作り出したものを兵器と呼べるのかは、判断が分かれるところだ。
「……しかし、
「なんだ、アイリス」
「この場合の月はフォボスですか? それともダイモスですか?」
そういわれてみれば、どちらなのだろう? そもそも、スッポンとは何か? 記憶が正しければ甲羅を持つ水性爬虫類のようなものだったはずだ。
まぁ、千年以上前の画像データの中でしか見たことが無いし。それがAIが作ったものではないという保証もどこにもありはしないのだけれど。
「あれがルナだろうが、フォボスだろうが、ダイモスだろうが。カメだろうが――」
そう、そこはどうだっていい。アイリスとこうやってテンポよく会話を続けるのは 楽しいのだが。今はアドレナリンが出ないタイプの仕事の時間だ。
「どうでもいい、ってことですね?」
「その通り、相手していて楽しくないタイプってのもある」
再び構造体が背負ったレーザー砲塔から閃光が放たれるが。アイリスは危なげなくその一撃を回避する。相対距離は既に数百メートルを切り、文字通り至近距離だが特に迎撃の類はなく。
間違いなく、背負ったレーザー砲塔以外の火力を持ってはいない。野生化したAIが生存競争の過程で体を巨大化させ、レーザーを背負っただけの代物でしかない。
強力なジャミングを発生して、ネットワークを遮断する能力故に今まで発見されていなかっただけであり。タネがすべて割れれば対処の仕方はいくらでもある。
「うし、十分にデータが取れた。離脱する!」
「了解、
アイリスの声が揺れる、表情は見えない。当たり前だ、今の彼女はモニターの向こうではなくディサイドの背後にいるのだから。
何よりも今まで肉体がなかった故にデジタルで揺れのなかった彼女の声にこもった不安と困惑が。ディサイドの心にざわめきの波紋を広げる。
「どうした、アイリス?」
「いえ、何か。ノイズが――」
確かに目の前の未確認構造体。 いや、既にデータは揃って確認済みなのだから。名付けるのならばギガストラクチャが適当だろうか。とディサイドは思考する。
そのギガストラクチャから発せられているジャミングは、確かに距離を詰めたことで指数的に大きくなったが。電子的に外部から隔離されたAMの操縦席までそれが届くとも思えない。
何か、ギガストラクチャが発するジャミング以外に。アイリスに不調を与えている原因があるのかと。戦術データリンクと、これまで収集したデータを脳内で精査しようとした瞬間。
反射的にディサイドは、アイリスに声をかけずに。操縦桿を握りしめ、強引にコンツェルトに回避行動を取らせれば。
「ディサイ、——ド!?」
モニターの端で、
「……レーザー攻撃の影に隠れて、って事か」
ゆるり、と
「データの照合―― 該当機が、一機」
「ギガストラクチャと同じ、未知の機体じゃッ!?」
アイリスからの答えを聞く前に、ディサイドは大きく操縦桿を捻り。ギガストラクチャからのレーザー砲撃を回避した。確かに、単体でのレーザー砲撃はそう厄介なものではない。
だが、それに紛れて高性能のAMが襲い掛かってくるとなると話は別だ。
「150年前から存在が確認されている、野生種のAM…… 識別名
「騎士って割には、随分と――っ!」
『ギギュギギュュュギギュ、ギュュギュュギギュュュギギュ、ギギギュギギギギギュ!』
レーザーの砲撃に合わせて振るわれた長剣を受け止めると、ぐるぐると、壊れたように蠢くモノアイの動きと共に脳を抉るような高音が通信ポートに叩き込まれる。
「くぁっ――っ!」
「耳障りな音を、立てるなっ!」
ディサイドは引き金を押し込んで、グロッソの左手に持った
「アイリス、大丈夫か!?」
「かなり、不快です…… たぶん、あの声が」
火星極冠の、ところどころ雪の覆う大地の上で。
「こっちの、
その瞬間、ディサイドの脳内でパチりとピースが合わさる。そもそも、この
「野生種のAIが、武器を生産していた―― って事か、よっ!」
たった1機のAMによって、先ほどまで余裕すらあった状況が一転。死地に近い領域にまで押し込まれていく。
「アイリス…… 気分は?」
「だ、め…… です。意識を保つので。やっと」
更にレーダの上で、大量のレイブが迫っているのが分かる。このまま手をこまねいていれば。包囲され逃げることもままならなくなる。
「悪い、少し。無理をする。ヴァルター機関の追加起動。頼む」
「わか、った…… たぶん、あまり―― 持たない」
イカロスから受け継いだ主機を、アイリスが起動した瞬間。コンツェルト・グロッソに爆発的なエネルギーが満ちて。文字通り、通常の2倍に迫る圧倒的がシステムを駆け巡る。
意味のない過剰出力、あるいは別個に2機のAMを運用した方が効率が良い――
だが、ディサイドとアイリスのレベルでタイミングを合わせられるのであれば。他にはない強みとして機能させることが出来る。
「——つまるところ、こいつもお前たちが撒いた種だったって事なんだろうっ!?」
グロッソの鳩尾に砲門が開き、爆発的な閃光が放たれる。ギガストラクチャと比べれば月とスッポン、だがそれでも対AM戦でノーモーションで放たれればシールドすら貫通する文字通り必殺の一撃。
あの日、
「このまま、離脱する。アイリスっ!」
「ん……っ」
アイリスからのか細い声をどうにか耳に捉えながら、ディサイドはグロッソを操り戦域を離脱する。
依頼は十全にこなせたと言い切れるだろう。
だがそれよりもディサイドの胸中には、野生種のAIが見せる異常な動きと、何より体調を急に崩したアイリスの様子からくる。どうしようもない不安の渦巻きが、徐々に膨らみ始めていた。
□□□―――RESULT―――□□□
MISSIONRANK:SS
依頼報酬:100000CASH
整備費:-3000CASH
弾薬費:-3000CASH
No.0278への探索依頼:30000CASH
収支合計:64000CASH
□□□―――STATUS―――□□□
ユニティ登録番号:個人情報により非開示
ユニティ登録名称:ディサイド
所属:傭兵組合
傭兵登録番号:0874
性別:男
年齢:18
総資産:198000CASH
・所持スキル
AM操縦免許
傭兵免許
基礎電脳操作技師
読書家
・コネクション
ゲッカ・シュラーク市民:アイリス
No.7787:ニアド・ラック
No.0666:ブロッサムストーム
No.0278:ジャック
未登録傭兵:ヤンスド・ナンデーナ
ユニティ自治区:ゲッカ・シュラーク
ユニティ自治区:名称未定
ブルーレイリー社:リリル・レイリー
ライテック社アキダリア支部:アグライン
・実績
オリンポス杯完走
エースパイロット
新種発見【ギガストラクチャ】《NEW!》
・保有装備
ウェポン:360mm
ウェポン:
ウェポン:
ウェポン:
ウェポン:
ウェポン:
ウェポン:対ビームコーティングマント(ノンブランド)×1
ウェポン:シールドユニット(ノンブランド)×2
・メインAMアセンブル
ヘッド:コンチェルト・グロッソ(ゲッカ・シュラーク社)
ボディ:コンチェルト・グロッソ(ゲッカ・シュラーク社)
レッグ:コンチェルト・グロッソ(ゲッカ・シュラーク社)
・予備パーツ
ヘッド:レイヴ(ライテック社)×4
ヘッド:オーガ(マグガイン社)×1
ボディ:レイヴ(ライテック社)×2
レッグ:レイヴ(ライテック社)×3
レッグ:オーガ(マグガイン社)
To be continue Next MISSION......
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