~その花に酔う夜~儚き夢の先に~

佐伯立夏

プロローグ

第1話 α、Ω、βとは?

バース性。


それは、通常の性とは違う第三の性。


オメガバースと呼ばれるそれには、大まかに分けて、3つある。


βベータ


αアルファ


Ωオメガ


βとは、所謂、普通の人間。

男女間での能力の差もあるし、αに対しては隷属的な側面があり、Ωを毛嫌いする傾向もある。


αとは、高い身体能力や高度な頭脳を持ち、リーダーシップに優れた存在。

そこに、βの様な男女の差はなく、αの女性はβの男性よりも、あらゆる面で優っている場合もある。


そして、主にα性の人間は支配階級に多い。


最後に、Ω。


Ωにはαやβと決定的に違うことがある。

それは定期的に、発情期が訪れる点である。

その発情期中は、個人差はあるが、αやβを性的に誘惑する芳しい香りがするのだという。


そして、発情期中に、Ωが誰かに抱かれた場合、そのΩが女でなくとも、性別に関係なく、その相手の子供を妊娠する可能性があるという特性を持っている。



バース性は、些かややこしい。


βの男女は当たり前に、子供が作れる。


αの男とβの女にも、子供は作れる。

αの女も、βの男と子供が作れる。


Ωの女も、βの男とも子供を作れるし、発情期に妊娠してしまう可能性があるΩの男とも、子供は作れる。

そして、Ωの男も、βの女や発情期中であれば、βの男とも、普通に、子供が作れる。



だが、ここからが更に、ややこしい。


αとΩの間には、運命の番というものが存在しているのだ。





生涯に、ただ一人。

愛し愛される存在。

その存在に、出会ってしまったαとΩはそれまでの全てを捨て去る。

お互いだけが、全てになる。


運命の番に出会う前に、誰と居ても、運命の番に会えば、その者以外の者は視界にすら入らなくなる。



そして、この物語は、そんなバース性が当たり前にある世界のお話。


αとΩには番はすべて、だが…。

βには、そんな事は分からない。



βは、本能だけでは生きてはいない。



αだから、Ωだから、βだから。


これは、そんなある意味での宿命が絡み合った物語。








★Φ★Φ★Φ★Φ★Φ★








カーライル帝国の現帝はαだ。

優れたリーダーシップと比類なき覇気に溢れた彼の名はガライル・カーライル。


目元を彩る金の色と腰まである銀髪が印象的な189センチの美丈夫びじょうふ


だが、彼の正室は運命の番ではない。


βの女性だ。


名はヘラヴィーサ。

深紅の髪色に、金色の瞳が映えた女性。


カーライル帝国四大貴族が一つ、テンバール家の出で、15才で社交界へデビュタント後、瞬く間に、その美貌と高い知性が国内外に知れられるや、求婚の申し出が後を絶たなかったという。


ちなみに、ヘラヴィーサの父は、ガライルの母ジェシカ皇太后の兄である。



ガライルは自身の結婚に関しては、かなり消極的であったし、ある事情から、通常は5才前後で決まる婚約者も、ガライルには居なかった。

しかし、ガライルが18才になる頃には、その事情も変わり、自由に恋愛しても良くなっていた。


だが、肝心のガライルは二十歳を越えても、適度に浮き名は流しても、誰に対しても、本気にならず、誰かと結婚するなんて、考えても居なかった。


ガライルは、自らの血を繋げる意味を見いだせずにいたのだ。




だが、それに納得していない母ジェシカは、いつまでも、独り身の息子に、業を煮やして、貴族院を動かし、姪であるヘラヴィーサをガライルの正妃に指名したのだ。


この時、ガライルは22才。

ヘラヴィーサは18才。




周りを巻き込み、繰り広げれたガライルの妃決め。


しかし、当のガライル自身は、決められた相手の品位に問題がなければ、誰が自分のになろうと、興味がなかった。


どこまでも、ガライルは冷めていた。

どうでも良かった。












だが、ヘラヴィーサは違った。


ガライルの妻となったヘラヴィーサは、ガライルへ懸命に寄り添おうとした。


ヘラヴィーサは、ガライルを愛していた。

ガライルに、自分を見て欲しいと、強く思った。


しかし、そんなヘラヴィーサにも、ガライルは一切の興味がなかった。


義務的に、月に何回かは閨を重ねた。

しかし、それ以外に用がなければ、自分からは決して、どんな時も、ヘラヴィーサには会わず、部屋にも行かなかった。


どれ程の献身をされても、凍ったガライルの気持ちは溶けなかった。








そんな息子へ母ジェシカは、色々と口を出してきた。


「妻を蔑ろにしてはなりません!。ガライル、あなたはもう少し、ヘラヴィーサへ関心を向けなさい!」


「母は心配です!。世継ぎを早く作るのです!この母に、孫の顔を早く見せてちょうだい!」


と、口喧しく息子を急かした。


そこには、母ジェシカの身勝手な焦りが見えていた。


自身の血縁者を半ば強引に、息子の正妃としながら、その正妃が世継ぎを産めないなど、あってはならないことだという思いがジェシカにはあった。



ガライルは母親に、いつも息子として応えてきた。


だが、気の乗らない事にまで、何度も何度も繰り返し口を出す母親に若干、嫌気がしていた。



そして、最初こそ、空返事だったガライルも毎度、執務室にまで乗り込んで執務を妨害してくる母親を黙らせるため、ヘラヴィーサの元へ向かうという事が何回かあった。



だが、この急かしがなければ、ガライルがヘラヴィーサの元へ向かう回数は確実に、減っていただろう。


そして、月に数度とはいえ、閨を共にしていた結果、ヘラヴィーサは結婚から、一年と半年後、αの皇子を生む。


ヘラヴィーサの色を濃く引く皇子であった。


赤銅色の髪に、金色の瞳の皇子。




だが、この皇子は後に、波乱の人生を生きる事となる。



バース性に翻弄され、バース性ゆえに、唯一の存在に出会う事となる皇子。

複雑に絡み合う三世代にわたる運命の糸。


この皇子の誕生により、絡まりあった糸が静かに動き出す。





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