空から落ちてきた物語 古代ロボット編
にゃべ♪
第1話 パポピは空から落ちてきた
西日本にある海沿いの地方都市、舞鷹市。その街の小学校に通う結城マサキは、好きな事に夢中になると周りが見えなくなるオタク気質の小学5年生だ。人付き合いがそこまで得意ではない彼は、今日も1人で下校していた。
下校時なので当然時刻は夕方。マサキは赤く染まる空をぼうっと見上げていた。
「夕暮れの空は綺麗だなあ」
彼は空を見るのが好きで、この時も空の美しさを楽しむために眺めていたのだけれど、今日の空はいつもと少しだけ違っていた。その違和感に気付いたマサキは、異変を感じたエリアに意識を集中させる。
「え……?」
彼の目に映ったのは空中に生じた黒い穴。その空間だけ次元が裂けていて、まるで空中に浮かんだ逆さまの落とし穴みたいな感じになっていたのだ。
現実の景色の中に浮かぶくっきりとした色彩のCGのような不可思議な光景に、マサキは自分の目を疑った。
「嘘? 何あれ……?」
空中に浮かんだ黒い穴はずっと同じ場所に固定されている。この有り得ない光景を目にした彼は恐怖で足がすくんだ。何が起こるか分からない恐怖は、マサキの心臓の鼓動を早くさせる。その両目は空中の穴に釘付けだ。
しかし、しばらく観察していても特に何も起こらなかったため、徐々に彼の好奇心が恐怖心を上回り始めた。
やがて、マサキはもっと穴をよく見ようと駆け出す。田舎の道路は車も滅多に通らない。だから周りをしっかり確認しなくても全く危険はなかった。
「うわあ……」
穴の真下まで来た彼は、じいっと顔を上に向けて中身を確認。漆黒と言ってもいいその完全に真っ黒な穴の中には、特に何かがあるようには見えなかった。
「本当に何もな……」
この時、ずっと見上げていたマサキの目が暗闇以外の何かを捉える。それは一瞬で大きくなり、ものすごいスピードで地上に向けて落下してきた。何かが落ちて来ていると感じ取った彼は恐怖を感じ、すぐに落下予想地点から距離を取る。
「うわあっ!」
次元の穴を通って落ちた来た何かはそのまま地面に激突。ドサリと大きめな音を周囲に響かせる。とは言え、爆弾的なものではなかったので爆発はしなかった。ただ何かが落ちてきただけと言う結果に胸をなでおろしたマサキはしばらく様子をうかがい、キョロキョロと周囲を見渡す。
「あ~びっくりしたあ」
何かが落ちた以外に特に周囲に変化はないようだ。それが分かったところで、彼はゆっくりと歩き出す。落ちてきたものの正体を確かめようと言うのだ。自分の中の恐怖心と戦いながら、マサキは好奇心を膨らませていく。異常な所からやってきた存在だから、その正体も異常なものに違いないと――。
彼はつばを飲み込んで、落下物の正体が確認出来る距離まで近付いた。
「えっ……?」
マサキが驚いたのも無理はない。何故なら、そこにあったのは人の形をしたロボットだったからだ。何故ひと目でそう判断出来たのかと言えば、肌が無機質のそれだったから。ある程度人間に近い見た目をしていたものの、敢えてそうしているのか、明らかに生物でない事が分かるような外見をしていた。
そう、一言で言えば、人間にすごく近付けて作られた等身大のマネキン人形のよう。当然、人形である可能性もあったものの、彼は直感でそれをロボットだと確信していた。
よく見たところ、高いところから落ちてきたはずなのに、外見上では傷のようなものはほとんど見受けられない。見た目は人間の少女そっくりに作らていて、大きさはマサキと同じくらいだ。おかっぱの髪は背中まで届くロングヘアで、その色は美しい青空の色。着ている服は全体的に銀色で、昔の人が考える未来人のようなデザインだ。
その顔もアイドル以上の美少女に作られていて、まぶたを閉じたその姿はぐっすりと眠っているようにしか見えなかった。
「ロボットだぁ……」
マサキも男の子なので、当然ロボットは大好物。正体が判明したところで好奇心は臨界点を余裕で突破していた。それまで忍び足だったのに、一気に至近距離まで駆け寄って行く。
そして、ロボに触れようと手を伸ばしたところで閉じていた目がカッと見開いた。その突然のリアクションに、彼は反射的に尻餅をつく。
「うわっ」
ロボは上半身を起こしてマサキの方に顔を向けた。2人はお見合い状態になり、数秒間の沈黙の時間が流れていく。蛇ににらまれた蛙状態のマサキは、金縛りにあったかのように動けなくなってしまう。
この膠着状態を解いたのはロボの方だった。彼女は現状の把握が終了したのか、目の前の人物の確認プロセスに移ったのだ。
「アナタハ、ダレデスカ……?」
「シャ、シベッタァァァ!」
まさか理解出来る言葉を発すると思っていなかったマサキは、顎がはずれるくらい大口を開けて自身が発生可能な最大声量で自分の感情を目一杯吐き出す。このリアクションで大体の事情を察したのか、ロボは優しく微笑んだ。
「安心してください。パポピは安全です。危害は加えません」
「パ……ポピ? それが名前?」
「はい。パポピはパポピです。よろしくお願いします」
「ぼ、僕はマサキ。結城……マサキ……です」
パポピと称するロボの声は同世代の女の子のようだ。耳障りが良く、アニメの声優のような可愛らしさがあった。その見た目と声と性格から、目の前のロボは女の子型のロボットと見て間違いないようだ。
会話が出来ると言う事で安心したマサキは、彼女に色々聞こうと手を顎に乗せる。そうやって自分の考えをまとめていたところで、パポピは電源が切れた家電製品のように突然倒れた。
「パポピーッ?!」
この唐突なアクシデントを前にして、彼はすぐに彼女に近付いて様子を確認する。見たところ、特にどこかが故障している風でもない。その表情も、どこか安らかに眠っているようだった。
マサキは軽くパポピを揺らしてみたものの、全く起きる気配がない。壊れたのか、それとも眠っているだけなのか――当然ながら、小学5年生の彼にそれを見極める術はない。
「えっと……」
マサキはゴクリ吐息を飲み込むと、生きてるかどうかの確認をするために彼女の胸に手を置いた。やらしい理由でなく、心臓が動いているかを確かめるためだ。パポピの胸は人間同様に柔らかくて胸の膨らみもあったものの、当然そこに体温は感じられず、人間ならあるはずの心臓の動きも全く感じ取れなかった。
「やっぱり、ロボットなんだ……」
人間そっくりに作られていても目の前の女の子はロボット。それを改めて認識した彼は、改めてこれからどうしたらいいかを考え始めた。現代科学を遥かに超えた科学力の結晶。謎の空の穴から落ちてきたと言う事実。危険を回避するなら、見なかった事にしてこの場を去るのが最適解だろう。
しかし、もう彼はパポピと会話をしてしまった。関わりを持ってしまったのだ。こうなると、見捨てるという選択肢は消えてしまう。
「やっぱりここは大人に連絡……」
スマホを取り出したところで、マサキは大人に任せた結果を想像する。何しろ現代科学を遥かに超えたロボットだ。まず間違いなく解体されて研究される。その結果、恐ろしい兵器が生み出されてしまうかも知れない。
そんな怖い考えに行き着いた彼は、自分で何とか出来ないかと彼女を持ち上げようとしてみた。
「よい……しょっと」
マサキは標準的な小学5年生だ。特に力が強いと言う訳でもない。それでもこの未知の技術で作られたロボットを持ち上げる事が出来た。この想像以上の軽さに彼は驚く。
「ロボットってもっと重いものかと思ってた。これなら……」
謎の技術で作られているロボットだ。反重力的な機能が動いているのかも知れない。その体重の秘密は分からなかったものの、腕の負担がほぼなかったのもあって、彼は決意する。
そうして、パポピをお姫様抱っこしながら自分の家まで帰ったのだった。
空に開いた謎の穴は、いつの間にか消えていた。
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