第20話 オマケ 裏話 そして書店へ
昼食を済ませ、店を出る。
「ついでだ、どっか行きたいとこあるか?」
「あ、その、兄に買い物を頼まれていて」
ミカゲに聞かれて、ルリアはそう返した。
どうやら、書店に行きたいらしい。
この辺りだと、駅の中に入っている書店が一番品揃えが豊富だ。
「今朝頼まれんです。
漫画を買ってきてくれって。
その買い物を済ませたら、帰ろうかなと考えています」
本当は、もう少し。
あと少しだけ一緒にいたい。
そんな本音を隠して、ルリアはそういった。
それは、嘘だった。
兄から漫画を買ってきてほしいと頼まれたのは、数日前だ。
それに、いつでもいいから、覚えていたら買ってきてくれという程度の頼みだった。
別に今日じゃなくてもいいのだ。
「じゃあ、本屋行くか」
「はい」
また手を繋ぎたい。
でも、今日はもう無理かな。
フリーマーケットの人混みは、少し解消されていた。
もう、流されることも、ミカゲに置いて行かれることもない程度には、人が減っている。
「…………」
少し残念に思いつつも、収穫はあったし良しとしよう。
ルリアはそう自分に言い聞かせた。
けれど、
「ミカゲさん、私、結構ドジなんです」
気づいたら、ルリアはそう口にしていた。
歩きながら、自分の手をミカゲの手に触れさせる。
「もしかしたら、なにもないところでつまづいて転んじゃうかもしれないので。
お恥ずかしいはなしですが、また、手を繋いでもらってもいいですか??」
「!!」
ミカゲは驚きつつも、触れてきたルリアの手を握った。
来た時と同じように、またルリアも彼の手を握り返す。
お互いの熱が手を通して、互いに伝わる。
「ありがとうございます」
心の底から嬉しくて、ルリアはそう言った。
ミカゲは、耳を真っ赤にして、
「どーいたしまして」
少し、無愛想ながらもそう返した。
その様子を、近くのオシャレなコーヒーショップでお茶をしていたら目撃してしまっていた人物がいた。
ミカゲの妹のイオリだった。
ガタっ!
思わず椅子から立ち上がる。
(やっぱり、ミカゲだ!
それにあの綺麗な人!!)
その様子を見て、一緒に遊んでいた友人が不思議そうに訊ねる。
「イオリちゃん、どうしたの??」
「あ、ごめん、なんでもない」
本当はめちゃくちゃなんでもあったのだが、そう返すしかない。
まさか、友人を放って追いかける訳にもいかないからだ。
(うわぁ、うわぁ、彼女なのかなぁ??
ミカゲの彼女なのかな、あの人!!)
動揺を抑えようと、イオリは新作のコーヒーをズルズルと一気飲みしてしまった。
その間に、兄とその彼女らしき少女は駅へと消えていった。
まさか、あの喧嘩狂いに彼女ができるとは思っていなかった。
しかし、ここで中学生とはいえ女の勘が働く。
もしかしたら、兄は騙されているのかもしれない。
あんな清楚なタイプが、兄と交際するなど考えられない。
そうなると、考えられるのは。
(ミカゲ、良いように利用されてる?!)
お金諸々をそうと知らずにみつがされている可能性が高すぎる。
(帰ったら、問い詰めなきゃ。
なんなら、別れるように言わなきゃ)
けれど、同時に引っかかってもいる。
もしも本当にミカゲとあの綺麗な人が交際しているとしたら、それは本気の恋愛だ。
(どちらにせよ、問い詰めればわかるはず)
そんな妹の画策について、ミカゲは知る由もない。
程なくして、ミカゲとルリアは目的の書店へと足を踏み入れた。
この時に、二人は手を離した。
真っ直ぐに、目的の漫画が陳列されている棚へ向かう。
青年漫画のコーナーだ。
言ってしまえば、胸の大きなキャラクターが描かれた表紙が多い漫画が置かれている場所だった。
そこにいた他の男性客の視線が、ミカゲに突き刺さる。
お前ぇぇえええーー!!
彼女連れてくんじゃねぇぇえ!!
つーか、なに買わせようとしてんじゃ?!
ういうプレイかぁぁあ!!??
と無言の圧力が向けられる。
かくいうミカゲも、兄から頼まれていたとルリアから事前に聞いていたとはいえ、まさか青年漫画だったとは思っていなかった。
(妹に何買わせようとしてるんだ?!
ボンボンって、やっぱり変わった奴が多いのか??)
「あ、ありました!
これと、コレと」
ルリアは平然と漫画を手にしている。
そういえば、思い出した。
最初にルリアに漫画を貸した時、手違いでモロに男性向け漫画が紛れていたのだ。
あの時はさすがに血の気が引いたが、ルリアはまったく気にしていなかった。
ちらりと読んだみたいだが、
『自分には合わない作品でした。
兄はお気に召したみたいだったので、続きがあれば貸してください』
と言っていた。
蔑みもしなければ、嫌悪もなかったのには驚いた。
その延長と考えれば、ルリアが平然と男性向け漫画を手にしている光景は、普通といえた。
それから、二人は様々な漫画を見てまわった。
雑談も交わす。
やがて、
「それじゃ、会計してきますね」
一通り見て回ったので、ルリアがそう切り出した。
「あ、あぁ」
そんな二人のやり取りを見て、青年漫画が陳列されていた棚近くにいた客のほぼ全員が、
(((そっちかぁぁああ!!!??)))
と思考の一致をみせていたが、超能力者でもなんでもない二人は知る由もない。
そんなこんなで買い物も済ませたので、店を出た。
そこで、ミカゲに声を掛けた者がいた。
「あぁ、いた。
あんたに伝言があるんだ」
それは、ミカゲやルリアと同い年くらいの少年だった。
真っ黒のパーカーを着て、フードを被っている。
ルリアはミカゲの知り合いかなと考え、少し二人から距離をとった。
ポソポソと、ミカゲが返す。
ミカゲと同じ不良だと感じたからだ。
場合によっては、ルリアを守らないとならない。
少年から見えないよう、ミカゲはルリアを背に隠す。
「伝言?」
「あぁ、そうだ。
我らが新しい総長が、アンタの首をご所望だ。
すでに何人か、あんたんとこの奴を捕まえてる。
ここに書いてある場所に一人で来な。
バックれたら、二人ほどアンタのとこの奴が川に浮かぶかもな」
そう言って、少年はミカゲに、2つ折りにされたメモ用紙を渡してきた。
そして少年は、脇から身を乗り出してミカゲの背後にいるルリアを見た。
「あはは、いい女つかまえたんだな。
アンタが消えたら、俺が食ってやるよ」
思わず殴りそうになった。
でも、そうしなかったのは、
「お話、終わりましたか?」
頃合を見計らって、ルリアが声を掛けてきたためだ。
「あ、すんませんね」
なんて言って、少年は手をヒラヒラさせて去っていった。
「ミカゲさん?」
少年を見送って、ルリアはミカゲを見た。
ミカゲは、とても真剣な顔で言ってくる。
「悪い、用事ができた。
ここで解散しよう」
「え、あ、はい」
「悪いな」
そう言いつつ、ミカゲは頭を下げた。
「いいえ、楽しかったです。
こっちこそありがとうございました。
また、一緒に出かけましょう」
「あぁ、また今度な」
そう返すと、ミカゲはその場を去った。
少し寂しそうなルリアが残される。
と、そこに、
「あ、ルリアちゃん!
今帰り??」
粟田が声を掛けてきた。
ルリアは驚いた。
「え、粟田さん?
今日シフトだったんじゃ」
「うん、ちょっと親戚の家に行く用事が出来てさ。
パートさんに代わってもらったんだ。
これから帰るとこなんだけど、あれ?
ミカゲさんは??
一緒じゃないの?」
「はい、用事が出来たとかで」
「そっかー、じゃあ俺と一緒に帰る??
もうすぐ電車も来るしさ」
「そうですね、ご一緒させてください」
こうして、ルリアにとってのちょっと長い一日が終わったのだった。
ミカゲと帰れなかったのは、ちょっと残念だった。
ルリアは帰りの電車のなかでスマホを操作した。
粟田にはわからないように、こっそりとラーメンを食べる時に撮影した画像を出す。
そこには、ラーメンと一緒にミカゲが映っていた。
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