第7話 オマケ 裏話 兄と妹は見た

「ミカゲの様子がおかしい」


 自宅の居間で、スマホを操作しながらそう言ったのは、ミカゲの妹――伊桜里イオリだ。

 金髪にピンクのハイライトが入っていて、かなり目立つ髪をしている中学生の少女だ。


「そうなの??」


 それに答えたのは、黒髪タレ目の優しそうな男性である。

 ミカゲの兄――燈麗ヒヨリである。

 のほほんと、自分のいれたお茶を飲んでいる。


「この前も派手に喧嘩したからねぇ。

 もしかしたら、傷が開いたのかな」


 長男の言葉に、イオリはスマホから視線を上げた。


「あ、そうかも。

 頭殴られて、エグいくらい血流して帰ってきたでしょ?!

 あれから少しして、ミカゲの挙動がおかしくなったもん!!」


「具体的にどんな風におかしいの??」


「ほら!!ウチじゃ絶対貰わないようなクッキー缶貰ってきたりしたじゃん!!」


「美味しかったよね、アレ。

 てっきり喧嘩相手から巻き上げたのかなって思って、詳しくは聞かなかったけど」


「い、いや。まって?

 もしかして、普段口にしないものを食べたがために、人格が崩壊したとか??」


「イオリ、それはあのクッキー缶を販売してるお店に失礼だよ」


「でもでも、あの辺からミカゲ変になってるよ!

 兄ちゃんは気づかないの?!

 今日だって、洗面台で髪の毛梳かしてたし!!」


「いや、それ身嗜みを整えてただけでしょ、普通じゃない」


「いつもはヨレヨレのTシャツとジーンズなのに。

 今日は新しく買った服着て出ていったし」


「おや、特攻服じゃないのか。

 そういえば大きな喧嘩したのに、あの特攻服、洗濯機に入ってなかったなぁ。

 でも、この前洗濯物しまった時はちゃんとミカゲのクローゼットに入ってたんだよなぁ」


「ダイキや兄ちゃんが甲斐甲斐しくお世話しないと、洗濯すら出さなかった、なんなら服さえ古着屋でたたき売りされてるのしか買わなかった、ミカゲがだよ?!

 わざわざ、新品の服を買って身嗜みまできっちり整えて出かけるっておかしいよ!!

 絶対おかしい!!

 脳外科とかでMRIとってもらった方がいいよ!!」


「ミカゲも、もう高校生だからねぇ。

 自分のことは自分でできるようになったんだよ」


 長兄ヒヨリの言葉に、イオリは納得しなかった。

 絶対に喧嘩で頭を殴られたために、バグを起こしたか、はたまた高級菓子店のクッキー缶のクッキーを食べたがために、その美味しさのショックで別人格になってしまったのだと考えている。

 しかし、ヒヨリはのらくらと言って見せたが、ミカゲの挙動に関して思い当たる節があった。


 血は水よりも濃いという。

 ミカゲの行動は、かつてヒヨリが初めて恋をした時と同じなのだ。

 だから、つまりそういうことなんだろうな、と察していた。

 察してはいたが、こちらがそのことを聞いても適当に誤魔化されるだろうと思っていた。

 最悪、誤魔化しから家で暴れて家具でも壊されたら大変なので、ヒヨリは知らん顔をしている。


 その日の夜。

 帰宅したミカゲから、珍しく古典ミステリ、それも海外小説でオススメはないかと相談された。

 ヒヨリは適当かつ王道なものをいくつか見繕った。


 ただこの時、弟へちょっと不意打ちをしてみた。


「友達にでも貸すのか?」


 弟が好きなのは基本バトル漫画だ。

 小説も読むには読むが、ミカゲの読むミステリ小説は最近のものばかりだったはずだ。

 古典ミステリ、それも海外小説なんてほとんど読んだところを見たことはなかった。


「ヴぇっ!?

 そんなんじゃねーし!!??」


 あきらかにドギマギした弟を見て、ヒヨリは微笑ましくなった。


「じゃあ、その友達にオススメでもされたか?」


 あくまで会話の延長で聞いてみれば、ミカゲは顔どころか耳まで真っ赤にして、


「うっせぇ!!死ね!!」


 そう吐き捨てて、部屋に行ってしまう。

 けれど、ヒヨリが選んで渡した小説数冊はしっかり持っていったようだった。


 更に数日後。

 今度は、ミステリ以外の海外小説の作者名とタイトルまで指定してヒヨリが該当する小説を持っていないかと聞いてきたのだった。

 ミカゲの好みからは外れているものばかりだった。

 その理由を察して、ヒヨリはニマニマしながら本を貸してやるのだった。

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