第14話 最後のバツは死期が近い

宮北は春の自宅にお邪魔した。

春の母は春の部屋に案内した。

春の部屋はこの前見た時と同じ状態だった。

春の母が彼女の部屋を見て言う。

『春はこの部屋で亡くなりました。彼女の手元にはこれが握られていました。何か春について知りませんか』

そう言って差し出してきたのは、可愛く手作りされた花柄のネームタグだった。そこには工藤春と工藤の名前が書かれていた。

これはきっと工藤が死ぬ前に誰だか分かるように自分でネームタグを作ったのだろうと思った。

彼女の母親には知らないと返事を返した。

彼女の母親はそうですか。とひと言ポツリとと言ってからまた話した。

『春は私たちに隠していたことがありました。彼女の腕には無数の擦り傷があって小さな箱に血のついたハサミを見て、またやっていたのだと気づきました。それから、私たちに向けた遺書の他に宮北さんに向けての遺書とスマホから春の最後の言葉が見つかったんです』

宮北は言った。

『そのスマホには何が書かれていたんですか』

彼女の母親は宮北くんにスマホを見せた。

スマホにあるSNSにはこう書かれていた。

『私は今日死にます。友達のおかげで無数にあったバツは消えることに成功しました。死ぬ理由は最後に残ったバツが全てを解き放つことでなくなることをこのSNS上で知ったからでした。死ぬまでバツは終わらない。終わらすためには私が死ぬしか方法がない。私の1番好きな人もバツが原因でおかしくなってしまったと聞き、悲しくなった。彼に会えなくなるのは悲しい。宮北くんとももっと話したかった。でも、ありがとう』

その文面を一通り読んで春の母を安心させるために宮北くんは言った。

『心配なさらないでくださいね。これはあくまでも彼女の呟きであって、決して彼女の頭がおかしくなったわけではありませんから。それから、俺宛の手紙とこのスマホ預かってもいいですか。必ず亡くなった原因を調べますので』

春の母親はよろしくお願いします。と言った。

宮北はそろそろ時間なので出ますと言い、春の家を出た。

春の家を出てから公園で、これからどうすればいいんだろうかと悩んだ。

悩んでも仕方ないと思い、春のSNSを辿っていると雷句先生という名前に行き着いた。

この先生のところに行ってみることにした。

公園からそう遠くない場所にクラウンメンタルクリニックはあった。

予約はしていなかったが、1時間ほど待てば先生に会えるそうなので、待っていた。

周りを見ると受付があって、雷句先生の診察を受ける人はまばらで、付いていたテレビには音がなく消音になっていた。

きっと、ここに来る患者のための配慮だろう。

ちゃんとしている病院だと一瞬にして分かった。

そんなことを考えていると、先生らしき人が宮北さんと呼んでいるのを聞き、診察室へ入った。

入るな否や宮北は言った。

『先生は工藤春が亡くなったことを知っていますか?』

先生は言った。

『知ってるよ。彼女の親がここにきて言ってたからね。それでどうしたの』

宮北は言った。

『それじゃあ、最後に残ったバツは死ぬまで残り続けることも知っていましたか?あいつはSNSでそれを知って死んだらしいです。でも、考えてみるとそれってデマだそうです。本当は最後のバツには意味はなくて、最後に着いたバツは死期が近いことを表すバツだそうです。もうすぐ死ぬと言う予知を表したバツだそうです。そのバツを消すためには死なないように予知を変える必要があります。もし、未来が変わっていたら死ぬ必要はなかったと思うんです』

雷句先生は笑って言った。

『確かに君の言う通り、最後のバツは死期が近いことを表していたとしたら、私たちに何ができた。彼女は君のいないところで死ぬことを考えていたんだよ。楽しく笑っていても思っていたのは死ぬことばかりだった。そんな彼女に何ができると思う。私は話を聞いて、薬を出すことくらいしか彼女を助けられなかった。私だって悔やんでるよ』

宮北は雷句先生に言った。

『だったら、悔やんだ分俺とバディになってくれませんか。彼女が死んだ理由を2人で解き明かしませんか?』

雷句先生は何を言い出すんだと思ったが、宮北くんは続けて言った。

『先生は病院が終わった後、公園に集合してください。まずは、彼女のSNS上の友達に聞き込みをします。その後、彼女が好きだった彼氏さんに話を聞いて、バツと彼女の関係を調べます。付き合うまでここにいますよ』

雷句先生は困った顔をして言った。

『分かったよ。じゃあ、公園で会おうな』


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