第12話 私の人生はバツしかないんだ

放課後になり、家のベルを緊張しながら押した宮北をよそに、春は彼を家に招いた。

母は彼を見て意外と大きくてがっしりしてるのねと言った。

春は母に紹介した。

『彼は天馬高校から引っ越して来た宮北くん。今日は、勉強会するから部屋には絶対入ってこないでね』

母に有無を言わさず、2階へ彼を案内した。

奥の部屋に春の部屋があった。

部屋に入ると洗剤の匂いがして、女子感が漂っていた。

入ってすぐ部屋は普通に女子って感じだった。

ただ違うのは、部屋の床に座った時に彼女が発した言葉だった。

『これが、私の秘密』

そう言って小さな箱が出てきた。

そこには、血のついたハサミと電源の入っていないスマホが入っていた。

彼女は言った。

『私は夜な夜な腕にハサミで擦り傷を作って、死にたい思いをSNSに投稿しているの。こんなことしてもダメなのに本当私っておかしいよね』

俺は彼女に言った。

『他にも言いたいことがあるんじゃないの。君の全てを教えてよ』

彼女は言った。

『長くなるけど、それでもいいかな』


私は高校卒業後は働こうと思って、色々探してたんだけど上手くは見つからなくて、主治医に相談したら就労移行支援事業所を紹介してくれたんだ。それで、手帳も取得した。

いざ就労移行に行ってみると結構良かった。

だけど、2週間くらいで嫌な部分も見えてきた。

私は、これが特性なのか分からないけど言いたいことが口では伝えられなくて色々悩んでしまったの。

それを相談したら、色々職員さんが考えてくれた。それはそれで嬉しかった。

でも、問題はまた起こるもの...

私は、欠席する時に事業所に電話することが出来なくて、親に代わりにしてもらってた。

そしたら、ある職員さんが親ではなくて自分で電話をして下さい、それが訓練ですからと言った人がいた。

私は初めて緊張しながら電話した。

その時は泣いたな、辛くて。

その後、基本は電話で欠席報告だけど、メールでもいいよと言われてちょっとだけ救われたと思った。

でも、最近になって朝礼でひとつのテーマに沿って1人ひと言話す時間があって、周りが1人話すたびにその私の父にこうあるべきだと言った職員さんが盛り上げるために決まって『いいですね、〇〇で〇〇でね』って言うのに対して、私の番になるとガクッと落ちて何も言わなくなる。

はっきり言って私に文句や言いたいことがあるのだろうなって目線や口元の動作で分かる。

その時だけは、はっきりと自分の中ではもうこの就労移行辞めたいとすら思った。

そんな時に、役に立つのがスルースキルだと思ったの。

スルースキルがあったからその場はなんとか乗り切れた気がする。

でも、それでまたバツがひとつ増えてしまったかもしれない。

我慢しないで、本当は誰かに話しておくべきだったかもしれない。

宮北くんには悪いけど、私のバツは昔からスタンプのようにつけられたものだから、一生一緒に生きていくしかないかもしれない。

ごめんね、宮北くん。

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