第9話 バツが見える彼が不思議

関わりたくないと思えば思うほど彼は私に寄ってきた。

彼は私に笑って言った。

『俺、変な毒とか持ってませんよ。前の学校では、皆勤賞でした。この島野高校に来たのは、父の仕事の関係で引っ越してきました。ここに来て最初はみんな不親切でした。でも、今はみんな優しいです。優しくないのはあなただけです。どうしたら優しくなってくれますか。』

私は彼に言った。

『みんなが優しいから私も優しくなれとか、あなた図々しいよ。ニコニコして考えてることはこのクラスを乗っ取ることでも考えてるの?

はっきり言って虫唾が走る。私に話しかけてこないで。』

私と彼の第一印象は最悪だった。

彼は私のことを知らなすぎたし、私も彼のことを知らないことが悪かった。

悪すぎた。

それから、夏休み前まで彼との冷戦状態は続いた。

夏休み前に彼は私の噂を知った。

私が自傷行為に走っている噂という事実をね。

そして、私は彼が父親の転勤でこの学校に来たのではなく、父親のいた会社が倒産し、お金が無くなり私立の高校に通えなくなり、公立の高校に通わざる負えなくなったことを知った。

2人はお互いに相手の痛いところを知り、最初に声をかけたのは宮北だった。

彼は悲しそうな顔で私に言った。

『もう自分を傷つけることはやめなよ。そのうち取り返しがつかなくなるよ』

私は彼に言った。

『嘘つきがなに諭そうとしてるの。本当のこと言えばよかったのに。この嘘つきが...』

彼は私の右腕を掴んだ。

私は痛いと言ったが、彼は腕を見ていった。

『隠していたのは君の方だろう。なんで、こんなバツがつくまで自分を苦しめたんだよ。こんなこびりついたバツ、取るの難しいんだぞ。』

私は驚いたように彼を見て言った。

『見えるの⁉︎このバツが...⁉︎』

彼はうん、と頷いた。

私は言った。

『これは、誰にも見えないのよ。私と主治医以外、見える人はいなかった。あなたが初めてよ。どうして見えるの?これを治す方法知らない?』

彼は得意げに言った。

『治すには思い出すしかない。苦しかった時を思い出して、俺がつけてるこの指輪で吸い取るか君の主治医から貰う薬で少しずつバツを吸い取るしか方法はないと思うよ。』

私は即座に答えた。

『思い出すのは怖いから無理よ』

彼は言った。

『じゃあ、主治医に頼むしかないな』

そんな彼の言葉が私には意地悪だと思った。

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