第258話 大領主のなる資格

 ピエトロがそれをやる——。


 ジェロの発言に俺は驚いた。

 話の流れから、俺が強い大領主になるということになる。

 

 どういうことだ?


 俺は首を傾げたくなった。


 父さんの跡を継いで大領主になるのはジェロ。

 それはルッフォ家では当然のことで、誰もが認識している。

 だから、口では嫌だと言いながらもジェロも自覚しているはずだ。

  

 なのになぜ?

 俺が次期大領主になるような口振りなんだ?

 どんな意図がある?


 心臓が早鐘を打つ。

 

「ピエトロ?」

 父さんが驚きの声を発した。

「そうだ。ピエトロが大領主になる」

「なにを馬鹿なことを……」

「昔から伝えていただろう。俺は大領主にはならないって」

 ジェロが怒りを噛み殺すように言った。

「おまえが指摘した通り、強い大領主でなければ同じことを繰り返すだけ」

「ああ、同感だ」

「だから、おまえに跡を継いでもらいたいんだ。庶民たちのためにも」

「俺には大領主になる資格がない」

 ジェロが父さんから目を逸らした。


 資格?

 

 ジェロは大領主の後継者になる資格は十分ある。

 一番重要なのは、ルッフォ家の血を引いていること。

 次に大領主としての器。

 どちらもジェロは備えている。

 でも、俺は……。


 俺もジェロもルッフォの血を受け継いでいる。

 だけど、決定的に違うのは器。

 ジェロには人心じんしん掌握しょうあくする能力がある。

 それはサングエ・ディ・ファビオでの活動で証明済み。


「おまえには資格があるだろう?」

「いや、ない。一番重要なのはルッフォの血なんかじゃない」

「ああ、その通り。肝心なのはひとの上に立つ統率力だ」

「……間違ってはいないけど、それ以前に需要な要素がある」

 ジェロが視線を下に落とした。

「それはなんだ?」

「やる気だ」

「やる気、だと?」

 父さんが意外そうな表情を浮かべた。


 やる気って……。


 俺は首を傾げた。


「やる気のない奴が大領主になったところでなにもできやしない」

 ジェロが苦笑いを浮かべた。

「それは嘘だ」

「いや、嘘じゃない」

「だったら、どうしておまえは改革派として行動しているんだ? 庶民たちを助けたいからだろう?」

 父さんが必死にジェロに訴えている。

 だけど、ジェロの表情は少しも変化しない。

「ああ、助けたい。だから、サングエ・ディ・ファビオを結成した」

「それなら、大領主になってより一層庶民たちを助けるべきだ」

 父さんの力説にジェロがゆっくりを首を横に振った。


「……大領主と改革派の役割りの違いがわかるか?」

 冷めた声でジェロが父さんに問いかけた。

「役割り? なんだ、それは?」

「大領主は荘園を整備して庶民たちを導く。対して改革派は現状をぶっ壊す」

 ジェロが拳を固めた。

「そうだな。だが、それがどうした?」

「光と影なんだよ」

「?」

 父さんが不思議そうな顔をした。


 大領主と改革派は光と影?


 どういう意味だろうと考えてみたけど、答えが出ない。

 俺はジェロの次の言葉を待った。


「俺は改革派として犯罪行為をした」

 ジェロが眉間に皺を寄せた。

「犯罪といってもそれは……」

「そうだ。誰も殺していないけど、暴力行為を働いたのは間違いない」

 話しながらジェロは両手を目の前に持ってきた。

「この手で暴力を振るった。そんな奴が大領主にはなれない……俺は影だ」

「影……」

「光である大領主の手は汚れていてはいけない。だから、ピエトロを襲撃に一度も参加させなかった」

 両手を下ろし、ジェロはまっすぐ父さんを見つめた。


 !


 俺は目を見開き、ジェロを見た。


 疑問に思ったことはある。

 なぜ、俺はいつも計画を練るばかりで襲撃に参加させてもらえないのかと……。

 やっと謎が解けた。

 ジェロは最初から計画していたんだ。

 俺を大領主にするって。

 なのに、俺は……。


 強く唇を噛んだ。

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