第4話 カラオケ
「星光騎士団は三階フロア全部よ。その中でも『第一騎士団』は階段から一番近いここ」
「待って、先輩。もしかして俺、第一に入れられそうですか?」
「そうよ。もうメンバーには話を通してあるから安心しなさい」
「全然安心できませんよ!?」
やる気がないのだ、栄治は。
とても大人しく端の方でひっそり生きていたい。
それなのに、大手古参のグループの、一番目立つ第一軍に初心者も初心者の栄治が加入だなんて。
「角が立ちます角が。それはもう盛大に角が立ちます。入学早々ぼっちになりますから」
「アンタ、元から協調性もなければ誰かと仲良くする気もないでしょ。なに言ってんのよ」
「うぇ」
見抜かれておられる。
さすが先輩である。
「でも、入学早々鶴城一晴と仲良くなっていたのはちょっと驚いたわ」
「え、先輩よく知ってますね……?」
「入学前から受験生に鶴城一晴がいた、って噂になってたもの。あの子、芸歴長いから俳優界隈の子たちが騒いでたわぁ。絶対うちにほしいって」
「え、鶴城も星光騎士団に……? なんで一緒に連れてこなかったんですか?」
「アタシはあの子に興味ないもの」
「……」
さすが先輩だった。
「それにアンタが仲良くなってるのなら、アンタ経由でスカウトすればいいわ。アタシは興味ないけどね」
「左様で……」
「みんなー、後輩連れてきたわよー」
扉の前で完結して、先輩がついに星光騎士団第一騎士団の個室の扉を開く。
わかってはいたが、やはり逃げ場はないらしい。
「……はぁ……」
そして、先輩たちとの顔合わせを終わらせて教室に戻ると——案の定というべきか予想通りというべきか、教室の空気も変わっていた。
空気というか、栄治への視線が。
確実に“先輩への伝手あり”の者への警戒と嫉妬、興味と好奇。
「……ハァー……」
「溜息が深いですな」
「鶴城も興味あるって言ってたよ……星光騎士団の先輩たち」
「え、私ですか?」
こうなれば鶴城一晴も巻き込んでやれ。
他のクラスメイトにも聞こえる声量で言えば、やはり目の色を変える者がちらほら。
星光騎士団狙いの生徒だろう。
「星光騎士団って結構役者畑の人が多いみたい。だからお前、もう目つけられてる。興味あるなら星光騎士団に紹介するけど?」
「役者の方が多いのですか!? ぜ、ぜひ!」
意外にも簡単に食いついてきた。
が、すぐにシュン、と落ち込む。
「ですが私、歌は本当に、歌えないのですが……!?」
「……放課後カラオケ行く?」
「よろしいのですか!?」
「同期になるかもしれないし、俺はもう諦めてるしね」
「諦めて……?」
なぜなら先輩に逆らえるはずがないので。
しかし、栄治のこの態度がクラスメイトたちにどう映ったのかは栄治もよくわかる。
舌打ちがわかりやすく聞こえた。
まったくもって、初日から鶴城以外のクラスメイト大半を敵にしてしまうとは。
「はぁ……」
***
午前中で終わった入学初日。
クラスメイトたちに睨みつけられながら、鶴城とともに町のカラオケ店へ繰り出した。
「会員カードをお願いします」
「「会員カード」」
「お作りしますか?」
「「は、はい」」
カラオケというのは、会員カードを作らなければならないらしい。
別に一人が会員になればいいのに、二人して会員になってカードを受け取った。
マイクをとレシートの入った籠を待たされ、部屋番号を探す。
「えー、メニュー表とかあるね。結構ガッツリ食えるんだ?」
「ドリンクバーとやらを同時購入しましたが、どうやって飲むのでしょう? ファミレスのようなシステムなのでしょうか」
「多分? なんか来る時、廊下にあったからあそこからもらってくるんじゃない? 行ってみる?」
「ほほう?」
初のドリンクバーを経験して、改めてデンモクで曲を探してみる。
知っている曲を入れると、モニターにすぐに曲が表示された。
マイクを手にして、歌ってみる。
「〜〜♪」
歌い終わると『採点』なるものがお勧めされた。
一週間後に行われるのはデビューライブ。
一人一人ステージに上がって歌を歌う。
その半年後に、バトルオーディションがある。
バトルオーデションは一対一で歌唱力を競い、勝ち上がっていく。
上位五名は志望グループへ加入ができる。
すでに加入グループが決まっている栄治は、無理に上位に入る必要はない。
おそらく鶴城も。
「神野殿は歌声が美しいですな」
「カラオケ初めてだからどうだろうね? 採点してみる?」
「そうですな、面白そうです!」
「で? 鶴城は歌わないわけ?」
「曲がさっぱりわからないので……」
「じゃあ俺が知ってるの歌うから、気に入ったのをスマホに入れなよ。あとユイチューブとかで歌動画とか見て、好きな曲探したら? 妹ちゃんたちに聞いて調べるべきだよね」
「そうですね。勉強させていただきます」
そうして一時間、ひたすら栄治だけが歌を歌い続けてカラオケ店をあとにする。
一曲くらい歌え、と言ったのに鶴城は結局歌わなかった。
果たしてこんな調子で一週間後のデビューライブを歌けるのだろうか、こいつは。
「それにしても、芸能科に入学してアイドルをやらされるとは思いませんでした」
「それは俺も思ったけどね」
どうやら鶴城も予想外だったらしい。
しかし、先輩に教わった理屈を教えてやれば鶴城も納得した。
とはいえ、栄治も鶴城も現場を知っている。
他の新入生とは、あまり一緒にされたくない。
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