第7話 集会場・Ⅱ

「はい・・・では次に坂本流美候補どうぞ!」

「おぉぉ・・・」

「流美ちゃ~ん」

 司会より指名をされて壇席に向かい始める中客席から聞きなれたラブコールが響いたと同時にサイリウムが一斉に煌めいていた。

「乙海市のみなさんこんにちは・・・あっぃやぁこんばんはかな?この時間はもう夕飯時ですもんね」

 又さざ波が来てるかのような笑い声が心地よく響いた。

「頑張れぇいつだって応援するぞ」

 激励の声がやむと同時に流美は演説用原稿を机上で開いて話し始めた。

「この度乙海市市長選に立候補した坂本流美です。私が市政に携わることができるようになりましたら第一に農家に対する獣害対策に取り組みます」

「ほぉぉ・・・」

 会場は微かにザワついた。盛り上がり始める予兆だろうか?

「昨今乙海市では猿害をはじめ熊、猪による農作物への被害と人的被害に見舞われています。今迄でしたら駆除対策に力を入れるべきだとされてきましたがそれでは駄目だと考えています。戦後から今日に至るまで私達は生産拠点の開拓と生活拠点開拓のために本来生き物たちのために荒らしてはならないとこを荒らしてきたのではないでしょうか?」

「ん~そうそうそのとうぉり」

 一息つくかと思われたとこで合いの手が入った。盛り上がり始める感が村田候補の時とえらい違いだとも思えた。

「そこで大学等の研究機関とタイアップして猿等の生き物たちの生活場所や餌場となるとこを確保していき私達人間と生き物達との共存共栄ができる社会を目指します」

 昇吾は流美が凛として壇上で胸を張って演説してる姿を見てアイドル時代以来の至福の時を満喫していた。おそらくもし選挙スタッフにならなかったら客席で鉢巻きに法被を着てサイリウムを振りながら声援を送り続けていただろう。いわゆる“推しの子”又は”意中の人”とさえ思え憧れ恋焦がれ続けた人が今は目の前にいるのだからモチベーションときたらそれはもう最高潮であった。中々専門家受けすることをスラスラ言ってのけるあたり知的センスを感じさせるとこも実にそそられた。

「それと私は”がんばらない介護”をしていけるよう後押しをしてくと共に介護離職者ヤングケアラーの問題に取り組んでいきたいと思います」

「そんなこと言ってぇ、予算と人手どっから持ってくる気だよぉ」

「おい!話ちゃんときこうぜ!」

「なにを!若造がぁぁ」

 中年の男が言い終えるか否かといった瞬間言い争いをしている2人の男目掛けて四方八方から会場警備と思しき者が歩み寄ってきた。

「介護をめぐっての諸問題については議会の英知を結集し財源と人員の問題について取り組んでいくつもりです」

「えぇぇエッチ~」

「こらぁ!」

 隙間をかいくぐってガタイのいい男達が右下左上あたりにいる野次馬に歩み寄る姿が流美をはじめ候補者達からよく見えた。恐らく会場内警備の人間であろう今にも取り押さえのために飛びかからんと眼光鋭く構えていた。その様子を察してか声を張り上げた当事者も唇を結んで静かになり始めると同時に演説が止み会場は一瞬静寂に支配された。

「獣害問題に介護問題をはじめここ乙海市のため市議会の方々と共に全力で取り組んでいきます!ご・・・せい・・ちょう感謝します。」

 エキサイトしかけた輩がいた所為であろうか最後の締めの言葉がたどたどしくなったが流美は一礼して壇上の後ろあたりにある控え席へ下がった。

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