男爵令嬢は魔王に嫁ぐ

蒼田

『戦場の魔王』と貧乏貴族筆頭

「ルビア。申し訳ないがフーヴル公の所に嫁いでくれ」


 カン、と机とコップがぶつかり音がする。

 いつもならばすぐさま片付けるのだが今はそれどころではない。

 ルビアの体は硬直から解き放たれる。

 そして目の前の中年の男に途切れ途切れに聞き返した。


「せ、戦場の魔王の所にですか?! 」


 それを肯定するように大きく頷く。

 彼女は否定して欲しかったが本当のようだ。

 父の顔も苦々しい。


「ね、ねぇさん。ごめん」


 隣から声がする。

 ギギギ、と無理やりその方向へ顔を向けると彼女の目に映ったのは申し訳なさそうな顔をする次期男爵家当主の弟だ。幼い顔がより幼く見える。


「断り切れなかった」


 ルビアと同じく金色の髪に青い瞳をした彼は申し訳なさそうに見上げてそう言った。


 ここは貧乏貴族筆頭ネーデル男爵家の広間。

 使用人が一人しかいないこの館は更に寂しくなった。


 ★


「......まず事情が分かりません。何故私のような貧乏貴族の女を」


 と、ルビア・ネーデルは言った。

 ネーデル男爵家は『貧乏』を体現したかのような貴族家である。

 今着ている彼女の服も祖母からもらったおさがりで王都の流行からすでに何世代も外れている。


 一旦落ち着くために傷ついた長い髪を軽く触り父の方を向くと気まずく顔を逸らそうとした。

 だが逃げることから諦めたのか軽く溜息をつきながら一枚の、封の空いた手紙を机の上に出した。

 緊張ゆえか机が濡れているのに気付いていない。

 父を一度止め、たった一人の使用人に机を拭かせてそれを広げる。


「オルディ・フーヴル公爵閣下からの申し出だ」

「......まさか」

「あぁ。そのまさかだ。まるで今日を狙ったかのように、結婚の申し出があった」


 ガタリと音を鳴らして椅子から立ち上がる。

 真っ先に「何故」という疑問が彼女の脳裏に浮かんだ。


 戦場の魔王ことオルディ・フーヴル公爵はつい最近まであった隣国との戦争で名を轟かせた英傑だ。

 しかしその鬼気迫る戦い方は味方も恐れさせ『戦場の魔王』と呼ばれるようになった。


 曰く、味方事切り伏せる。

 曰く、人肉を食らう。

 曰く、頭蓋をも砕く腕力を誇るなど噂をあげたら数え切れない。


 しかしながら相手は公爵。

 幾ら恐ろしい噂があっても求婚する者は幾らでもいるだろう。

 この国は王国で貴族制度を取っているのだ。

 政治的理由から――本人は嫌がったとしても――親が嫁がせることなどいくらでもある。


「ち、父上。因みに……愛人、ですよね? 」


 恐る恐る確認を取る。

 愛人ならばまだわかる。

 だが父の答えは予想を遥かに超えるものだった。


「……正妻として、迎えたいとの事だ」

「!!! 」


 ふらりとよろけ長い髪が机に触れる。

 倒れる瞬間踏みとどまり父の方へ駆け寄る。

 机に置かれている白い手紙をゆっくりと手に取った。

 しかし現実は非情であった。

 肩を震わせながら内容を読み父の妄言ではない事を確認すると彼女の手にする手紙が更に大きく震え始める。


 今日、彼女は十五の誕生日。成人年齢だ。

 本来ならばささやかながらパーティーを開く予定だったのだがここにきて最悪ともとれる手紙が一報。


「これが最高位貴族でなく、同じ男爵家のような貴族家ならば突っぱねることは出来たのだが」

「……『戦場の魔王』オルディ・フーヴル公爵閣下。僕達のような最底辺の貴族では、婚約、そして結婚を断る事は出来ないっ」


 悔しさのあまりか拳を握る二人。

 重い空気が漂う。

 ふぅ、と息を吐き手紙を丁寧に折り、封筒の中へ入れ直す。

 

 沈痛な表情の二人とは逆にルビアの表情は晴れやかであった。


「これでも貴族の子です。行きましょう」

「……すまない」

「良いのです。父上。むしろネーデル男爵家からすれば公爵家と縁をつなげれる良縁。喜びはすれど、悲しむ必要はありません」


 そう言うルビアに顔を上げて、苦笑いする父。


「で、お返事は今からですか? 」

「もう済ませた」

「どの道私に拒否権はないようで」

「すまない」

「いつ向かえばいいのでしょうか? 」

「向こうから来てくれるようだ」

「それは……こちらとしてはありがたいのですが。いつ来るのですか? 」

「……今日だ」

「え……。えぇぇ?! 」


 大きく驚き軽く飛びのく。

 貴族子女の所作とは思えない行動をしながらも混乱するルビア。


 (じゅ、準備を早くしないと! )


「わ、わかりました! 今から用意をしてきます! 」


 当日に伝える父を咎める暇もなく、ルビアは床を軋ませながら自室へ向かおうとした瞬間――ノックの音がした。


「「「?!! 」」」


 全員が――使用人も含めて――固まった。

 早い。

 早すぎる。

 幾ら今日来ると言ってもまだ朝早い。

 全員が混乱する中ネーデル男爵が使用人に出るように指示をした。

 今日ばかりは恨みがましく主人を見つつも仕方なく広間を出てく。


「み、みな。準備を」

「そそそ、そうです」

「早くどうにかしないと」

「フ、フーヴル公爵閣下がお見えです! 」

「「「!!! 」」」


 時間稼ぎにすらならなかった。

 今着ている服は貴族のそれではない。

 使用人が向かっている間に、せめて服だけでもと思ったのだが相手の方が早かった。


 館へ入る事を許可したのだろう。

 大きく、テンポの速い音を立てながら近づいて来る。

 全員が冷や汗を流し、最大限の抵抗として髪と服を整えた。

 それらが終わると同時にノックの音が聞こえる。

 使用人が入室の許可を求めているのだ。

 全員が ( ( (よろしくない!!! ) ) )と思いながらも入室を許可して扉が開く。

 ギギギ、と音を鳴らしながら軽い扉が開くと使用人、そして一人の男性が現れ――


「迎えに来た! ルビア・ネーデル!!! 」


  ( ( (え? 誰??? ) ) )


 そこには一人の好青年がいた。


 ★


「む、娘をっ! よろしくお願いします!!! 何卒! 」

「ネーデル男爵。無論だとも。任せると良い」


 家族二人に見守られながらルビアは身支度をする暇もなく見たこともないような豪華な馬車に乗った。


 カタコト、と音が鳴る。

 目の前の男性を見ると、やはり違和感がある。

 まだ公爵の息子と言われた方が納得がいく。

 しかし彼は自分を「オルディ・フーヴル公爵」と名乗った。

 勝手に身分を偽るのは重罪だ。

 それに「公爵」となるとその重さは計り知れない。

 ならばこの好青年が言うことは本当なのだろうと考えるが、どうしても違和感がぬぐえない。


「どうかしたか? 」


 ふかふかのクッションに座り肘掛ひじかけに肘をつくオルディがそう聞いた。


「い、いえ! 何もございません! 」

「そうか」


 そうとだけ言いオルディは軽く瞳を瞑った。


 (こ、この人が『戦場の魔王』? )


 噂からかけ離れた柔らかさにその美貌。

 何でもないと言いつつもチラチラとルビアは様子を見た。


 確かに軍人のようだ。体ががっしりとしている。しかし「張りつめる」ほどではない。

 身に纏うのは上下緑の軍服。そして肩から腰にかけている金色のチェーン。この国特有の茶色い髪と黒い瞳を併せ持つ肌麦色の男性。

 ふくよかでもなく細すぎないその顔は美形そのもの。


 噂が先行しすぎて「悪鬼のような巨漢」を想像していた彼女は自分を恥じつつ俯く。


「大丈夫か? 」


 優しく声を掛ける。

 しかしそれが逆に彼女を不安にさせる。


 (わ、私この後どうなるの?! )


 一気に不安が彼女を襲い顔を青くさせる。

 過剰に心配され、青い顔をしながらルビアとオルディを乗せた馬車はフーヴル公爵領へと向かった。


 ★


「「「いらっしゃいませ! ルビア様! 」」」


 馬車が止まり、扉が開くとオルディ先導の元ルビアは外に出た。

 目に入るのは多くの使用人。

 そして歓迎の言葉が彼女を襲った。


「これは一体……」


 手を震わせながらオルディに聞く。

 言葉の意味が分からないのか小首を傾げ、考え、黒い瞳をルビアに向けた。


「君を歓迎しているのだよ」

「わ、私如きを」

「如きではない。……今も昔も……ボソ」

「え? 今何か? 」

「何でもない。行くぞ」


 そう言いながらオルディは激しく混乱し恐縮するルビアの手を引いたまま館の中へ入っていった。


「まずこれからの事を説明する」


 館の最上部、オルディの執務室で彼は見違えたルビアに告げた。

 使用人達の手によりすぐさま整えられた彼女は今赤と白のドレスを纏い彼の前に立っている。

 流石に傷のついた髪や肌は今日一日ではどうにもならなかったようでそのままだ。

 しかし――髪はともかく――肌は服で隠れオルディには見えないようになっている。

 緊張で倒れそうなのを必死で堪え青い顔のまま婚約者の目を見た。


「本来なら……すぐさま国に届けたいのだが」


 と、言い優しい瞳でルビアを見る。


「少し慣れが必要なようだ」

「も、申し訳ありません。旦那様」


 そう言うと軽く「むっ」とし、口を開いた。


「旦那様ではない」

「え? ではどうお呼びすれば」

「オルディだ」

「そ、そんな恐れ多い! 」

「私の妻になるのだ。名前で呼ぶのは普通ではないか? それに「旦那様」は使用人が使う言葉であって妻が使う言葉ではない。よってオルディ、だ」


 有無を言わせぬ言い方の為かルビアはコクンと首を縦に振った。


「この館に慣れた後、そうだな。一か月後くらいにでも入籍しようと思うがどうだ? 」

「よ、よろしくお願いします! 」


 ガバっと髪を大きく振りながら了解した彼女を見て、少し不安げな顔をしつつ今日の所は解散となった。


 ★


「はぁ……。どうしてこんなことに」


 と、ルビアは与えられた部屋でひとりごちた。

 しかしながら彼女の顔色は館に来た時よりかはよくなっている。

 恐らくオルディが思っているよりもルビアは環境適応性があるのだろう。

 常人がいきなりこんな豪華な館につれられたら発狂しかねない。


 ごろりと転がりふかふかの枕に顔を埋め、思い浮かべる。


 (う、噂されているよりも穏やかな人だった。顔も……あぁぁぁぁ)


 じたばたと足を振り悶えた。

 顔を思い出すだけでこの状態である。

 オルディは美形だ。

 その体格から軍人なのはすぐにわかるがそこまで屈強という程ではない。

 なぜあのような噂が流れているのかわからない程に乖離していた。


 これからの事を思い浮かべながら長い一日が終わった。


 ある日の事、食事を終えたルビアにオルディが声を掛ける。


「今日は出かける」

「かしこまりました」

「? ルビアもだ」


 当然、と言わんばかりにそう言ったオルディにルビアは目を開いた。

 この館に来て数日、彼女はその能力を十全に生かして慣れていった。

 共に食事をし、ルビアが前に立っても緊張しないようになり、双方ともに名前呼びが出来る程に急接近したのだが、早すぎたようだ。

 ルビアの顔が硬直する。

 慌ててオルディが無かったことにしようとすると、「かしこまりました」とルビアはオルディを見てニコリと笑みを浮かべて応じた。

 少しぎこちない笑みを向けられ少し顔を赤くし、背け、コホンと咳払いをして準備をするように、と指示を出した。


 馬車に揺られること小一時間。

 オルディとルビアを乗せた馬車は公爵領の衣服店へ着いた。

 無論普通の衣服店ではない。


「ここは」

「メイドが言うにはここが一番良いらしいからな。ここにした」


 フーヴル公爵家の館ほどではないが高く、装飾が施された店を見上げて呆然とするが「メイド」と聞いてルビアから少し剣呑な雰囲気が漂う。

 まずいと感じたのか大きく咳払いをして手を引き店の中へと二人は入っていった。


「いらっしゃいませ」


 一人のスーツを着た紳士が目に入る。

 公爵家の高い生活水準に慣れて来たとは言え外はまだ慣れていない。

 少し緊張するルビアに慣れた様子のオルディ。


「ルビア……こちらの女性に会うものを三式ほど」

「かしこまりました。公爵閣下」


 答え、頭を深々と下げて目をきらりと光らせルビアを射貫く。

 今までならばすぐにたじろいでいたが慣れたようで。

 赤いドレスの彼女は背筋をピンと伸ばし視線を受け止めた。

 そして店員と思しき紳士はすぐさま奥へ行き女性店員を連れてくる。

 ルビアは女性店員に誘導されて奥へ行った。


 それを見届け紳士はオルディに目を向ける。


「閣下。失礼ながらあの方は」

「婚約者だ」


 予想通り、と思いつつも紳士はすぐに聞く。


「では式典用のドレスを見繕ったほうが? 」

「いや、それには及ばない。彼女は、望まないだろう」


 何やらありそうだと紳士は思うもそれ以上何も言わずにただひたすらオルディと共にルビアを待った。


 少しすると奥から一人の女性が出てくるのが見えた。

 赤と黒のドレスに身を纏った女性だ。


「ルビア」


 と、ぽつりオルディは呟いた。

 確かにルビアで来た時と似たような服ではある。

 しかし今回は来た時よりもより似合っている。

 赤いスカート部分には軽い刺繍が施されきちんとくびれも出来ている。

 ぶかぶかだった腕の裾はぴっちりと締められ余念がない。

 似たような服を着ているにもかかわらずまるで別人の彼女に呆然としているオルディに女性店員が軽く説明を始めた。


「ルビア様は来られた時の服が良くお似合いだったので同系統の服をご用意することにいたしました。少々髪や肌に傷がおありでしたのでそちらは少しの薬品を用いて、一時的にですが整えました」


 言い終わると軽く頭を下げる女性店員。

 そしておどおどとしながら一歩前に出て、顔を赤らめつつルビアはオルディを見上げる。


「ど、どうでしょうか」

「……美しい」

「!!! 」


 思わず言葉がそのまま出てしまったためか本音が漏れたことに顔を背け、赤らめるオルディ。

 それと同時に頭から湯気を出すルビア。

 そんな二人を見てほほ笑む店員二人。

 少し時間を空けて二人はお代を払い店を出た。


 ★


「……厄介な」


 執務室でオルディは一人呟いた。

 彼が座る机の上には白い封筒と一通の手紙が。

 頭を悩ませているとノックの音が彼に聞こえる。

 返事をすると先日入籍し、正式に妻となったルビアが入ってきた。


 あれから一か月。

 本当に『戦場の魔王』本人か疑うレベルの柔らかい表情をした彼との生活に慣れたルビア。

 結果的に入籍しこうして妻となったのだが、彼の前に行くと今まで彼女に見せたことのないような難しい顔をしていた。


「如何なさいましたか? 」

「……ルビア。何でもない」


 入ってきた妻を見上げて笑みを見せてみせた。

 が、少し考え首を振る。


「いや。これは君にも関係がある。言っておくべきだろう」

「? 」

「これを見てくれ」


 そう言われ白い手紙を手に取り読む。

 目を通すと軽く紙が揺れる。


「本来ならば式を挙げずにそのままにしておこうと考えていたのだが」

「……派閥の関係、ですね」


 頷くオルディ。


「君の、パーティーのことは知っている。故に式をあげない方針でいたのだが……こいつらと来たら」

「オルディ」


 自分の事を想い怒るオルディに嬉しく思うルビア。

 しかしながら震える手が事情の複雑さを表している。

 どうしたものか、と呟くオルディに意を決したかのようにルビアは手紙から目を離した。


「私は、大丈夫です」

「だが……」

「私も公爵夫人となった身。どの道この先パーティーから逃れれません。行うべきでしょう」


 覚悟に満ちた顔をするルビアに「ふぅ」と息を吐く。


「ルビア。君が、大丈夫というのならば」


 そして運命の日は訪れる。


 ★


 フーヴル公爵家邸のパーティー会場。

 ここでは華やかなパーティーが行われていた。


 主賓であるオルディ・フーヴル公爵はいつもとは違うパーティー用の服に身を纏い、夫人であるルビア・フーヴル公爵は烈火の如く赤いドレスに身を纏っていた。以前にオルディに買ってもらったものである。


 しかしながら普通のパーティーとは空気が異なる。

 異常なまでに空気が張りつめているのだ。


 それぞれの挨拶も終わりパーティーも終盤に差し掛かった頃、それは起こった。


「やはりあのネーデル男爵家のご令嬢ですわ」

「礼節というのを知らないのではないでしょうか」

「仕方ありませんわ。何せ貧乏貴族筆頭様ですもの」


 ルビアを嘲笑する声が聞こえる。

 しかも意地の悪いことに周りに聞こえるように、集団で。

 それに毅然と耐えるがドレスの裾を握るルビア。


 以前ルビアはパーティーへ出たことがあった。

 と、言っても貧乏貴族。まずもって着ていく物が無い。

 あり合わせで急遽行くようになり会場に行ったのだが結果は散々。

 ルビアは当然の如くいじめのようなものに会い、今口を開いている者達の引き立て役となってしまったのだがそれが彼女のパーティー嫌いに繋がっている。

 それを事前に知っていたオルディは当初予定していた結婚式を取りやめ粛々と入籍。

 しかしながら結果としてこうして彼女を蝕んでいた。


「フーヴル公も目が悪いこと」

「わざわざ何もあの女を選ばなくても」

「全くですわ」


 パリン、と音がした。

 全員が音の方を向く。

 そこには憤怒の形相をした主賓、オルディ・フーヴル公爵がいた。


 噂し、妻を傷つける者達を見る。


「……今回は、貴公達の顔を立て呼んだが……やはり間違いだったようだ」

「オ、オルディ公……! こ、これはっ! 」

「見苦しい!!! 」


 その威圧感ゆえか、ぺしゃんと座り込み、どこか濡れている女性陣を軽蔑の目線で見下ろし、その夫を見る。


「今日は終いだ。これからも、あると思うなよ? 」

「! それだけは! 」

「『戦場の魔王』の二つ名。甘く見るなよ? 貴公らのことは、上げておく」

「おやめください! どうか、どうか!!! 」

「もう遅い。おい! 連れていけ! 」


 こうして誕生パーティーは終わりを告げた。


 ★


「申し訳ございません。オルディ」

「構わない。どの道こうなることは予想できた」


 執務室の一角で執務台に陣取るオルディの前に、まるで処刑を待つ囚人のように立つルビア。


「しかし……。どうしてそこまで私の事を」

「……言ってなかったか」


 と、パーティーの事はもう忘れたかのように苦笑いしてルビアの方を見た。


「一瞬の事だっただろうし、何よりその時の俺とは全くの別人のように見えるから仕方ないとはいえルビアに忘れられているとなると少し、来るものがあるな」

「私はオルディとあったことが? 」


 顔を上げ聞く。


「……戦争と戦争の時の間の事だ。一時的に帰還した俺は、君が住んでいる場所に行ったことがある」

「? 」

「友をなくし、身も心もボロボロだったあの頃だ。さぞ酷い顔をしていただろ」


 何が言いたいのかわからない風のルビア。

 オルディの言葉を続けて待つ。


「そんな時一人の少女に会ったのだ。あの時その少女からもらった物が大きくてね。また立ち上がれたよ。後で調べると我が国の貴族じゃないか。名前はルビア・ネーデル男爵家令嬢」


 と言いつつ目を合わせるオルディ。

 それをジーっと見つめるルビア。


「……あぁぁ!!! スコーンの人! 」


 指をさし、驚き片方の手で口を塞ぐ。


「その覚えられ方は少々遺憾だが、まぁあれ以降甘いものが好きになったのは否めない」

「あの今にも死にそうな顔をした騎士さん! え、まさかあれがオルディ?! 」


 思い出した顔と今を見比べ更に驚く。

 確かに面影はある。本人なのだから当然ではあるが。

 が、言われなければ気付かないほどの変わりようであった。


「全く、スコーンと君の叱責で救われるのだから男というのは単純だと今でも思うよ」


 驚くルビアに笑いかけつつその日を終える。

 その後幾度となくパーティー恐怖症ともとれる壁に当たりながらもそれを破るルビア。

 二人は仲睦まじく過ごしました。

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男爵令嬢は魔王に嫁ぐ 蒼田 @souda0011

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