短編集
アジキフータロー
あの日の木漏れ日
忘れ物に気づき、僕は図書館へ駆けていた。
着いた頃にはもう閉館間近で、人影はなく、代わりに月明かりがあった。
僕はいつもの席に向かった。窓際の、古くて大きな木の見える席。その葉の漏らした陽の下で、本を読むのが好きだった。
今、そこには見知らぬお爺さんが座っていた。背筋を伸ばし、上品に本を読んでいた。
近づく僕を見咎めると、彼は手元の本を差し出した。
「君の席は、もうないよ」
突き放すような一言に、それでも僕の胸は静かだった。彼の、僕を見つめるその瞳は、寂しさで満ちていた。
ただ、黙って彼の手を取った。固く、乾いていて、冷たい手だった。
「さよなら」と、僕は言わなくてはならなかった。
目を覚ました僕は、手元の本を置いてカーテンを開け放つ。
未だ見慣れぬ風景があった。木々に代わり生えた建物。風はほとんど通らない。
それなのに、木陰にいるときのような、濃い草の匂いがした。
そよ風が古びたページを、まるで誰かの指先のように、はらはらとめくっていた。
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