短編集

アジキフータロー

ギターケースとなびく髪

 研究棟から出て、冷たくなった風を手足で感じながらキャンパスをゆっくりと歩く。人はまばらだが、それでも夏休みの間よりは多いように感じる。

 ふと、目の端に他の学生の姿と異なる大きなものが映り込んだ。目を向けてみると、なんのことはない。それもまた学生だった。一つ違うのは、彼が背丈を越えるような高さを持つ大きな荷物を背負っていることだが、僕にはそれがギターケースだとすぐに分かった。

 彼は当たり前のようにその大きな荷物を背負って、サークル棟の方に歩き去っていく。僕は思わずその後ろ姿を目で追った。その光景には既視感があった。



 以前通っていた学校では軽音部に所属していた。同期たちとバンドを結成し、文化祭や地元のライブハウスで演奏していた。そのときも、放課後にこんな後ろ姿を見かけることがあったのを思い出す。

 意気揚々と部室に向かって揺れ動くギターの姿がフラッシュバックし、目の前の光景に重なる。昔の自分が口を開いた。なんの気負いもなく声をかけ、振り返る顔は同期のギターボーカルのものだろうか。長い髪が揺れる。にこやかな笑みを受け、僕もまた演奏道具の入ったバッグを手に軽やかに走り寄る。


 ああ、昔のことだ。当時の狭い世界では、ギターを担いだ奴らはみんな知り合いだった。一緒に音楽をやる仲間だった。



 彼もまた、そういう仲間と過ごすことを楽しんでいるのだろう。気づけば止まってしまっていた足を、前に進める。それはちょうど彼の進む方向と直交していて、僕はすぐに彼の姿を目の端から消し去ることになる。

 目にかかった前髪を払いのけ、ずっしり重たいバッグを肩にかけ直す。校門脇の草むらからは虫の声が聞こえてくる。こればかりは、どこに行っても変わることがない。

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