第29話
家に帰るとちょうどご飯のタイミングだった。ご飯を食べ終わった後、自分の部屋に戻ると、静寂に包まれた。静寂というBGMのせいで、不安を煽られている気がした。今、先輩はどうしているだろう。お兄さん曰く、当分は入院生活が続くらしい。今までのように学校に通うことは、かなり厳しいようだ。
今までの思い出を振り返ると、先輩と遊ぶときは必ずと言っていいほど身体への負担が少ないものばかりだった。ただ単に運動が苦手だから避けているのかと思っていたけれど、そういうわけではなかったようだ。芝すべりくらいが限界なのだろう。
どうして僕は今まで気づかなかったんだ。いくらでも病気を示唆する言動があったのに。
お兄さんは、先輩が毎日大量の薬を服用していることも教えてくれた。毎食後必ず歯磨きをするために席を立っていたが、そのときに服用していたのだろう。探せば他にも病気を仄めかす情報があったかもしれない。
先輩は今まで辛そうな顔を一度も見せなかった。入院するほど身体がボロボロなのに、弱音を吐かなかった。何も気づいてやれなかったんだ……。
「……クソ!」
自分を罵倒することしかできなかった。一人になるとすぐに自己嫌悪に陥るのは、僕の悪い癖みたいなものだ。けれど、今の僕はそんなことをしても、過去は変わらないことをよく知っている。
ネガティブ思考を全て吐き出すかのように、深呼吸をした。
全く気づくことができなかった自分をこれ以上悔やんでも状況は何一つ変わらない。むしろ、僕の気分が下がって、明日会った先輩に無駄な気遣いをさせてしまう可能性もある。今の僕ができることは、先輩の笑顔を引き出すことじゃないのか?
死が迫ってくる感覚を僕は知らない。明日交通事故に遭って死ぬかもしれないけれど、そんなことを毎日考えていたら精神が保たない。僕と違って、先輩はあと少しと告げられていて、死は明日かもしれない恐怖と闘っている。僕の前でそんなそぶりを一切見せなかった先輩は、やっぱり強い。
そういえば、堀内さんに今日の報告をしていなかった。明日先輩に会うことができるのは、堀内さんのおかげだ。堀内さんがいなければ、僕は今頃部屋で悶々と過ごしていたことだろう。
『昨日はありがとうございました。今日は先輩のお家にお邪魔して、お兄さんと話すことができました。そして、病気のことも聞きました。明日お見舞いに行ってきます』
僕が送ると、すぐに返信が来た。相変わらずの返信スピードだ。
『おそい! 今日一日そわそわしてたんだからな! でもちゃんと送ってきたから許す!! ウチもまた行くって伝えといて〜』
僕は、『はい。しっかり伝えておきます。』と返信し、次の日に備えて早めに寝ることにした。
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