もう一度、キミと冬を過ごしたい

久住子乃江

プロローグ

 雲ひとつない青空がどこまでも広がる夏の日。部屋で悶々と過ごしていても気分が下がるだけだと思い、気分転換に外に出ることにした。暑さに辟易しながらも、一度出ると決めたのだから少しくらい外でいないといけないという謎の使命感に駆られて、アイスでも買いに行くことにした。


 近くのスーパーでアイスを買った僕は、自宅を目指して足早に帰る。暑すぎる。自宅までは徒歩七分ほど。それほど遠くはないがアイスが溶けるには十分な遠さだった。帰宅した頃には溶け始めていることがわかっていても、一縷の望みをかけて、歩を進めていた。

 

 なんとか家までたどり着いた僕は、すぐさまアイスを冷凍庫に入れた。すぐに食べたかったけれど、袋の上から触った段階で少し溶けているのがわかったため、ベストな状態でアイスも食べられた方が嬉しいだろう、と思い、一度冷やすことにした。


 アイスに気を取られていたせいか、スマホに届いた通知に気づかなかった。


水無華蓮みずなしかれんと別れた方がいいよ』


 そんなメールがスマホのディスプレイに表示された。

 僕と先輩である水無華蓮は、付き合って確か八ヶ月くらいになる。記憶が曖昧だけど、合っていると思う。


 最後に会ったのは昨日の花火大会。先輩の涙を見た僕は、何もできず、ただ前を歩く先輩の後ろ姿を眺めることしかできなかった。昨日を最後に連絡も取り合っていない。


 確かに昨日は喧嘩別れのような形になってしまった。けれど、そこからどうして先輩と別れた方がいいという話に繋がるのだろうか。『水無華蓮と別れた方がいいよ』というメールを送ってきた、未来の僕が伝えたいことを理解できなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る