22話 本当に大切なもの〈side リュカ〉

 ソレイユから、1週間の期限を設けられてから、6日後。俺は、ずっと、ベッドの上に寝転がり、部屋に篭り続けている。


 期限はあと、たった1日。


 エイデンは、記憶は戻っていないようだ。それに、少し、安心した。エイデンとミアは、いい雰囲気になりつつある。このままいけば・・・・・・。そんな時に、もし、エイデンの記憶が戻ったら、俺について行くと言い出すだろう。エイデンは、聞き分けのいいやつだが、一度言い出したら聞かない頑固なところがある。


 「あああああああああああ!!!!!!!!」


 部屋は、幾つもの爆撃や、斬撃のあとがたくさんあり、まるで、誰かに襲われたか、殺人現場のよう。それでも、ソフィアたちにバレないのは、防音の結界を張っているからだろう。


 ずっと、ずっと、ずっと。俺の願いは、ソフィアの隣に居続けることだったから。こんなことで悩むなんて、思ってもいなかった。


 いつもうるさいザラームも、流石に今は黙っている。


 

 ああ。そういえば。明日は、ソフィアの誕生日だったな。今年は何を贈ろうか。

 

 ちらと横を見て目に映ったものは、毎年、ソフィアの誕生日に送ろうと思って書いた手紙。ただ、渡すのが気恥ずかしくてずっと渡せていなかった。


 今までは、王都で人気の食べ物とかを贈っていたが、今年は何がいいだろうか。

 

 「リュカ!!」


 急に話しかけられて、反射でそばにあった剣をとる。


 「ちょっと!!そんな危なっかしい物スイに向けないでよ!!」

 「はぁ。なんだ、スイか。何のようだ?」


 ソフィアに何か言われてきたのだろうか。


 「なんだ、って何よ。何だって!!もう!!せっかく教えにきてあげたのに」

 「なんだ?ラビンス王国が、ジェヴァン王国を、滅ぼしたそうよ」


 ジェヴァン王国は、とても小さな国だ。ただ、その国は、農業、水産業、商業がとても盛んな国で、国は潤っており、とても平和な国だと聞いた。


 そんな国を滅ぼした?ラビンス王国が?あいつらが?なぜ?


 「それでさあ、ジェヴァン?ジェバン?王国にいた精霊が聞いたんだって!!黒メガネの男の人が、最後に言っていた言葉。“あの方が来なければ、”って」


 俺が、あの国に帰らなければ。俺が、あの国の、王にならなければ、終わらないのか。また、誰かが犠牲になるのか。


 その時に、思い出した、あの時の記憶。ザラームを従えた時に見えた、あの未来。俺の名前を呼びながら、剣で貫かれて死んだ、ソフィア。あれが、実際に、起こってしまうのか


 「・・・・・・。お前は、俺のことを知っているのか」

 「もちろんよ!!王子様なんでしょ?」

 「何で何も言わない?ソフィアにはもう伝えてあるのか?」

 「そんなことはしないわよ。失礼ね!!」


 ドロップキックをかましてきたので、軽く避ける。

 

 「何でだ?」

 「主人ソフィアが悲しむのを見たくないからに決まってんでしょうが!!」

 「でも、俺がいなくなったら!!」

 

 誰がソフィアを守るんだ? 


 「いい?私たちにとって、主人が悲しむことは、一番辛いことなの。特に、一番大切な人がいなくなったら、優しいソフィアはとても悲しむ。それに、あんたの記憶を封じたのは、私たちも一緒。私たちはいつまでもソフィアのそばにいる。だから、安心しなよ」


 俺がいなくても、ソフィアのことを守ってくれる人は大勢いる。知っている。知っている。知っていたよ。痛いほど。

 

 ミアは強いし、エイデンも強くなった。スイだって、強力な妖精だし、ソフィアは妖精姫だ。精霊女王、闇の帝王ザラームの加護までついている。



 それでも、認めたくなかった。



 もう、1人になるのが嫌だった。



 ソフィアの隣に立つためには、誰よりも強くならないといけないと思った。だから王宮騎士団に入った。


 だけど、知っていた。本当は、心のどこかではわかっていた。


 

 ソフィアは、俺を見捨てないって。



 だから。

 

 「・・・・・・だから、俺がもし、ラビンス王国に戻ったら、ここから消えてしまったら、ソフィアは、俺の記憶が戻ったことを悟るだろう?そして、連れ帰ろうと、王国に乗り込んでくるだろう?」


 そして、殺されてしまうかもしれない。それが怖い。自分の手が届かないところで、ソフィアの様子を知ることができないことが、とてつもなく怖い。


 

 「そっか。でも、決めたんでしょ?リュカは、ソフィアのために、王国へ乗り込むんでしょ?」

 「・・・・・・ああ」

 「帰ってきたらさ、一緒に鍋つつこうよ!!」

 「・・・・・・ああ」


 嬉しかった。スイが、あの国は俺の故郷だと知っていたのに、帰る、とも、行く、とも言わずに、乗り込むと言ってくれたこと。俺の帰る場所は、ここにあるということ。



 迷うことは、もうない。

 

 

 「えっ、ちょっと、どこ行くの?」

 「ソフィアの誕生日プレゼントを買いに」

 「そっか。いってらっしゃい」



 ◇◆◇



 アルカリスを召喚し、空から急いで、フアンシドを探す。

 

 「見つけた」

 

 フアンシドは、1人、街を巡回していた。


 アルカリスから飛び降りて、フアンシドの前に飛び降りる。


 「うおっ。びっくりした〜。あれっ?リュカ君じゃん!!うっわー。普通に登場してきてよ」

 「うるさい。で、女性が喜ぶプレゼントって、何がいいと思う?」

 「ちょっと。先輩にその口に利き方は・・・・・・って、今、なんて言った?」

 「女性が喜ぶプレゼントは何がいいと思うかって聞いたんだ」

 「・・・・・・えっ!!リュカ君に気になる女の子ができたの!!ええ。すごい。お祝いしなきゃね」

 「それで、何がいいと思うか?」

 「うーん。そうだねえ。指輪とかは?ほら。こいつは俺のものだぞって、アピールできるでしょ」

 「指輪、か。たまにはいいことを言うな」

 「たまにはってひどい!で、相手は誰?もしかして、ソフィアちゃん?」

 「誰だって・・・・・・」


 誰だっていいだろ、と言おうとしたが、やめた。こいつは、ソフィアに目をつけている。


 「ああ。そうだよ。ソフィアにだ」

 「へえ。そっか。じゃ、頑張ってね」

 

 フアンシドはそう言って、どこかへ飛んでいった。


 指輪、か。


 



 ドアを開けると、カランという音がした。


 「すいません」

 「はい。いらっしゃいませ」


 俺がきたのは、王都で一番有名だという宝石店。


 出迎えたのは、人の良さそうなおばさん店主


 「あの、指輪ってありますか?」

 「指輪でございますか。どんなものがよろしいでしょうか」

 

 どんなもの・・・・・・。


 ソフィアは、派手なものは好きじゃない。ただ、指輪となると・・・・・・。


 「派手すぎないものってありますか」

 「派手すぎないものですか。となれば、宝石や魔法石はつけられますか」

 「・・・・・・じゃあ、少しだけ」

 「かしこまりました」


 そう言って、奥の部屋へ入っていった。


 部屋の中を見渡すと、狐の形をしている時計、何やら怪しい瓶。怪しい粉末に、怪しい武器。


 何なんだ。この店は。


 「失礼いたしました」 

 「あ、いえ」

 「こういうものはいかがでしょうか」

 

 差し出されたものは、小さい宝石がちょっとだけ取り入れられた、シンプルかつ、可愛らしい指輪だ。


 「この宝石を、持ってきた魔法石に変えることって、できますか」

 「ええ。できますよ。ただし、金額は上がりますが」

 「お願いしてもよろしいですか」

 「はい」


 魔法石、というものは、その名の通り、魔力が込められた石だ。ただし、とても貴重なもので、魔道具に取り付けられたりする。それを運よく手に入れられたので、取っておいたのだ。

 さらに、魔法石は、自分で魔力をこめることもでき、ソフィアの目の色、赤色に染めたので、一見、宝石のようにも見える。ソフィアは、多分、気づかないだろうな。



 「さあ、できましたよ」


 小さな箱の中に入っていたのは、小さな指輪。ただ、ワンポイントで、赤色の魔法石が取り入れられている。


 「ありがとうございました」

 「いえ。あなたと、あなたの大切な人達に、幸運が訪れますよう」


 店を出るまで、女店主はずっと、頭を下げていた。


 この店の名前は、ナワラトゥナ。意味は、星のパワー。



 プレゼントは、この指はと、あと、もう一つだけ。

 

 それは、“サクラ”というものだ。


 以前、ソフィアが、桜が見てみたいな、と言っていた。どんなものかと問い出すと、ピンク色の花が咲いて、とても綺麗なもので、日当たりがいいところを好む木らしい。ただ、強すぎるのはダメで、などと熱弁していた。ソフィアが絵も描いてくれたので、それを基に、自分で作ってみたのだ。


 ソフィアが見たいものとは違うかもしれないが、喜んでくれると嬉しい。そんな、淡い期待を胸に抱きながら。


 

 

 ◇◆◇




 いつの間にか、頬に涙が伝っていた。


 もう、後戻りできなことは知っている。


 最愛の人を、泣かせてしまった。ソフィアは、多分、俺が知っている限り、一度も、俺の前で泣いたことはない。いや、泣いたことがないのではないか。


 それでも、ソフィアは、諦めないと言ってくれた。いつか、必ず、会いに行くと、そう、言ってくれた。それだけで、十分だ、と思った。



 けれど。



 「ソフィアは、俺が守る」



 国?王?そんなの、どうでもいい。ただ、ソフィアに手を出す奴らは許さない。どんな手を使ってでも、その芽は潰してみせる。


 

 お前らソレイユの操り人形にはならない。



 この瞬間とき、俺は、ソフィアの騎士の、リュカではなくて、1国の王子の、“リュカ・エヴァンス”となった。

 

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