第14話

「私達が離婚を?陸はどうなるの?」

「戸籍上は家族じゃなくなるが、形としては今後も親でいる事には変わらない」

「そんなにあの人と一緒になりたいの?」

「ああ。パートナーとして暮らしていく事を決めた」


和馬にとって3ヶ月ぶりの帰宅だったが、凛に話した事は嘘偽りがなかった。


「それなら、協議か調停離婚になるわね。その前にきちんと陸に貴方から話してくれる?」

「そうする」


凛もあまり感情的にならずに和馬の話を聞いていた。2人の話し声を聞いて、陸が部屋から起きて来た。


「陸、どうしたの?」

「パパ。あの男の人好きなの?」

「え?」

「僕とあの人どっちが好きなの?」

「椅子に座って。…パパ、陸が大好きだよ。その男の人の事もそうなんだが、仕事でどうしても家に帰る時間にばらつきがあるんだ。陸とも一緒にいれる時間がなくなりそうでね。だから、ママと話し合って、陸の為に俺が家を出る事に決めたんだ」

「もう、会う事はできないの?」

「それはない。時間をうまく作れば会う事はできる。現状しばらくはママと陸に会える時間がない。だから、一旦皆んなとは離れて暮らしつつ、その時が来たら顔を合わせる事を考えるいる。」

「まだ難しくてわからないけど、パパのお仕事の為なの。陸、我慢できる?」

「よくわからない。でも、ずっと会えないわけじゃないなら我慢できる」

「一度決めたら、簡単には取り消しはできないの。それでも良い?」

「パパの代わりに僕がママを守る。」

「分かった。パパがいない分、ママと一緒にいてくれ。お願いします。」

「陸、もう寝なさい。」

「おやすみなさい」


「…あいつ、俺のいない間に、心境が変わったな。」

「あの子なりに耐えていたのよ。必ずパパは帰ってくるって信じるってずっと言っていたの。」

「俺が男が好きな事、少しは理解しようとしているのかな。」

「あの子なりに考えているに違いない。本当に私達と離れて後悔しない生き方を選ぶの?」

「ああ。そこに嘘があったら、俺のプライドも駄目になりそうだ。ありのままに生きていきたい。」

「私も悩んだけど、一方が悩み過ぎてもどうしようもないのよね。陸は知らないうちに成長しているんだね」

「子どもだと思っていたら、どうやら違うみたいだな。」


和馬はその夜は泊まっていく事にした。


翌日、知り合いの弁護士がいる事務所に連絡をし、協議離婚に入る手続きをする事を伝えて日程を決めた。


2週間後、和馬は自宅の自分が使っていた衣服や仕事の書類などを整理して荷物をまとめる作業に取り掛かった。


数日後、不動産業社へ行き新居となる物件を探してその日のうちに契約をした。

さらに2週間が経った日、引っ越し業者が自宅に着くと荷物を運んで、凛と一旦別れた後、家を出ていった。

新居先は僕の自宅から近い距離にあった。新居のマンションに荷物が着くと、リビングへと運んでいき、その最中に収納家具や寝具などが届き、慌ただしく過ごしていった。


1週間後、和馬は凛と弁護士に会いに行き、話し合いの元、協議離婚の手続きを行い、同意書にサインをした。夕方、自宅に戻り、書類の整理をしている間に、スマートフォンに前橋から着信が来た。


「リアルラブのお2人の回、未だに好評で続編が見たいと言う声が挙がってきているんです。どうです?また出演のオファー受ける事できますか?」

「今も見てくれる人がいるのは嬉しいです。ただ、僕らの事はそっとしておいて欲しい。お陰様で仕事も順調で楽しく過ごしています。申し訳ありません。」

「分かりました、また何かあればお声かけますので。では」


そうだ、真翔まなとに連絡をしていなかった。和馬は続けて僕に電話をかけてきてくれた。


「引っ越し終わったんだね。新居どう?」

「ここからスカイツリーが見える。良い眺めだ。お前も近々来てくれ。美味いものでも食べに行こう」

「楽しみだ」


数日が経ち、僕らは再会した。


目黒駅と武蔵小山駅の間にある隠れ家的な焼肉店に来た。和馬が店主と顔見知りという事もあり、肉の種類も豊富で質の良いものばかりだ。


厚切りのハラミやタン塩を注文し、ビールで乾杯をした。炭火で生肉を焼いていく。程良い焼き具合に口の中で肉が解けるほど美味い。

酒や会話が進む。

簡素な店内だが、客足も少なかった分、最後まで落ち着きながら居座ることができた。

こういった細やかな贅沢も楽しみの一つとしておいても良いものだ。


店を出た後タクシーを拾い、彼の自宅へ向かった。中に入ると、室内は一人暮らしにしてはちょうどいい1LDKの広くした間取りだった。


「どうぞ」

「ありがとう…これハーブティー?」

「カモミールだ。ノンカフェインだから、よく眠れる」

「和馬にハーブティーか」

「何だよ?」

「別に」

「言えよ」

「顔に似合わない」


彼が僕の首に腕を回してきて、掴みかかってきた。やや苦しそうな表情をする僕を見て彼がふざけながら笑っていた。胸元に寄りかかると、僕は彼の身体を抱きしめて、顔を埋めて息を吸い込んだ。


「この香り、久しぶりだ」

「1ヶ月会っていなかったもんな」

「まだ忙しい?」

「今週末くらいから忙しくなりそうだ」

「さっき話していた離婚の事、どのくらいかかる?」

「6ヶ月だ。来年の4月くらいまでだな」

「陸くん、しばらく耐えどきだな」

「理解するまで何年かはかかるだろうが、いずれか分かってくれる。」

「素直な子で良かった。そうでないと、僕らは一緒にはなれない」

「今日、泊まっていく?」

「入眠剤持ってきた」

「用意が良いな…顔、見せて。お前、目が犬みたいだな」

「何だよ、それ。和馬は…お前も犬だな。」


微笑みながらお互いの額を合わせて見つめ合った。唇を重ね合わせしばらく長くキスを交わした。彼の吐息が首元にかかり、ソファから崩れ落ちながら、床に寝そべり彼が覆うように身体を重ねてきた。


僕のズボンのベルトを外し、下着の中に手を入れて性器を弄ってきた。顔を見上げて目が合うと彼が顔のパーツに幾度かキスをしてきた。性器をやや強く握られてくると、思わず声を上げてしまった。


「薬飲ませて」


バッグの中から、入眠剤を取り出すと、彼が貸してくれと言ってきたので、手渡すと、薬を唇に挟み、僕の口の中に舌で押しながら含ませた。

グラスに水を入れて、彼が水を口に含み、僕の頬を両手で包んで水を口移しに流し込んできた。

含んできた水とともに薬を飲み込むと、彼は微笑した。


ベッドへ行くと互いの服を脱ぎ合い、息つく間もなく僕を押し倒してきた。何度もキスを交わしながら、お互いの性器を弄り合い、僕の片脚を掴んで尻の穴に陰茎を挿れてきた。


背中が痺れる様な感覚に浸りながら、揺れる身体が今にも浮遊していきそうだった。

体勢を変えて、彼が仰向けになると僕は彼の顔の上に尻を乗せ、彼の下半身に自分の顔が来るように体位を取った。

彼が尻を舐めてくると、僕は彼の陰茎を口の中に含み音を立てながら、愛撫していった。


彼も僕の陰茎や睾丸を唇や舌で舐めていくと、喘ぎ声を出しながら彼の全てを奪いたくなる衝動に駆られた。

お互いに身体中を刺激し合い、濡れた身を寄せ合うように抱きしめると、僕は泣きながら彼の肩に顔を埋めた。


「相変わらず泣き虫だな」

「ずっと我慢していた。君が消えたらどうすればいいか考えていたんだ」

「真翔。」

「何?」

「愛している」

「…僕も、和馬を愛している。どこにも行くな…」

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