第7話
「大分内容を変えたんですね。読み手の方も引き込まれそうな展開でしたし。一旦部署に戻って編集長と打ち合わせしてみます。」
「よろしくお願いします。あの、これ良かったら編集部の皆さんに渡してください。」
「
次のエッセイの締め切りに間に合った。担当者に一読してもらい、手土産も渡した。スマートフォンには何件かの着信が届いていた。
和馬からだった。仕事が予定より早く上がったので、今から会いたいとメールの文が書かれてあった。
やけに珍しいな。自分もちょうど仕事に区切りがついた。
「良いよ。これから家に来てくれ。一緒に飲みたい。」
17時か。彼が来たらデリバリーでも頼もう。
1時間後、玄関のインターホンが鳴った。和馬だ。ドアを開けると、彼は何かを手にしていた。
「手ぶらじゃ何だと思って。ビール、何本か買ってきた。飲もう」
「これから、デリバリー頼むんだけど、何か食べたい物でもある?」
「アプリ見せて。それから決める」
いくつか注文をし終えて、その間に和馬は僕の書いた小説を読んでみたいと言ってきたので、机の上に置いてある短編集の書籍を手渡した。
ソファに座りしばらく彼が読んでいる間に、僕は彼にコーヒーを淹れた。
「へぇ、面白いね。同性愛者の話ってこれ、自叙伝みたいな感じで書いたの?」
「知り合いの話をベースに書いたんだ。良い結末になるように書いた時が大変だったよ。僕の場合、バッドエンドが多いから、それに反したものにしたくて、そう言う構想になったんだ」
「作り手も大変だよな。俺も収録前に台本を覚える時に、その人の気持ちとかってどう考えたら伝わるんだろうかってさ」
「声優も演技力って試されるよね。息を吹き込む時ってその一声で作品って雰囲気が出てくるし」
「初めは俳優になりたかったんだけど、声優やったらって勧められてさ。まぁ気性には合っているかな」
「俳優も忍耐勝負だよね」
そうしているうちにスマートフォンの着信が来たので、出てみると配達員から連絡が来た。玄関を解除して、中に通して品を手渡された。
夕食を済ませて、ビールを飲みながら話をしていると、彼が机の上に置いてあったある物に目が入り立ち上がった。
「これ、睡眠薬?」
「入眠剤だ。睡眠薬とは違って眠りの具合が浅い。ここ何年か眠れなくていたんだ。たださ、睡眠の質が体質的に合ってないみたいなんだ」
「もう少し足してみるとか?」
「そうしたいが、あまり薬に頼りたくないんだ」
「そう。最近執筆は進んでいるか?」
「それが書いているうちに何か物足りなさを感じてさ。どうすれば構想が湧くかな?」
「想像を膨らませてみたら?俺がレクチャーする。ここに座って」
彼の言われた通りに机の椅子に腰をかけた。
「じゃあ、目を閉じて。身体も力を抜いてリラックスしてみよう」
僕は目を瞑り耳元で彼の語り口を集中して聞いていた。
「
和馬は僕のズボンの上から性器を弄り《まさぐ》始めた。
「どこまで行きたい?そう問いかけると1人がこう言ってきた。…真翔、答えみて」
「もう少しその奥の中に入ってきてくれ。そう、手を繋いでもう少し歩いてみよう」
和馬は僕の手を掴み合わせて、下着の中に2人の手を入れて性器を愛撫した。
「どこまで行こうか?まだ先が暗くて見えない。足元がすくみそうだが、この道なら2人で行けそうだ。…どうだ、心地は良いか?」
「あぁ、暖かいよ。身体が熱くなりそうだ。そのまま行くのをやめないで。」
「危ないな。でも、ぬかるんではいないから、2人なら行けるね。…なぁ、この後どうしたい?」
「耳を噛んでから舐めて欲しい。和馬、頼む」
和馬は微笑んで僕の耳たぶを齧り、下から上になぞる様にゆっくりと舌で舐めてきた。
性器を優しく握られる感触に頭が垂れて、再び顎を上げて喘ぎ声を発した。
「あぁっ…和馬、何か話して。…イキたいよ。僕を離さないで…」
「何か欲しい物はあるかい?」
「君が…君が欲しい。和馬だ、和馬をこの手で奪いたい」
体が震えてきて次第に高揚した。彼は僕の肩に腕を回して抱きしめてきた。
「終わらせたくない、2人でもっと遠くへ行きたい。僕をここから連れて行ってくれ…」
「君の望む所はどこだ?誰も知らない無の世界か?」
「そうだ。無駄だらけの世にこれ以上身を置きたくない。早く連れて行ってくれ」
「そう焦るな。…ずっと一緒にいるから、もう少しここで雨が止むのを待とう。それまでは…離さないよ」
和馬は終始、耳が
流石だ、本業だけあってこんな時にでも発する事が出来る。なんて
僕は目を開けると、彼が頬に唇を当ててきた。
「帰るな」
「どうした?」
「和馬、帰らないでくれ。1人になりたくない」
僕は片目から涙を流し、彼の顔を見つめた。
「また、来るから。今日は帰らないと…」
「嫌だ。傍にいてくれ。眠れないんだ。ずっと眠れなくて…俺は、どうかしている。」
「逆に興奮させてしまったか?」
「いや。凄く心地よかった。してくれた方が深く眠れる気がする。…ベッド連れていってくれないか?」
「少しだけだぞ。」
僕は入眠剤を飲んで、彼と寝室へ向かった。お互いが向かい合うと、ぼくから彼を抱きしめた。ベッドに座って見つめ合い、頬に手を添えると、彼は手を握り甲にキスしてきた。
「俺と付き合ってくれ」
「もう付き合っているよ。」
「家の事、どうするの?」
「俺と一緒にこうしている時は、家庭は別だ。何も言わないでくれ」
「キスしていい?」
「ああ。」
唇を重ね合わせ舌を絡めながらしばらくキスをした。彼が抱き抱えながら僕を枕元にゆっくり押し倒して、再び唇を繰り返し交わした。
静けさの中に重なる舌の音が響く。また息が荒くなってきた。舌の先を奥まで入念に探るように入れると、和馬は吐息をひとつ、またひとつと出していた。
「はぁ、気持ち良い」
僕の額にキスをして見つめながら微笑んだ。
「そろそろ眠くなってきた。帰っても良いよ」
「これからも、宜しくな」
玄関に向かう彼の
刹那に色濃くお互いの温もりが残った。
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