第60話 ——の霊圧が……消えたッ……?!



 ——傷がほとんど治ってない。のろいが効いてる……!?


 ——んでも、浅い……! 本体まで届いてないッ……!


 あーしの放った“飛翔剣撃エアスラッシュ”は、ドラゴンの翼をズタボロにした。そして、その傷はほとんど治る気配がない。

 だけど、翼の奥の本体にまでは攻撃は届いていなかった。そう、弱点である頭や心臓までは。

 ——エアスラッシュじゃ、倒せない……?


 のろいは効いてる。傷は治ってない。——なら、このまま攻撃しまくれば、いずれは倒せる……?

 それともやっぱり、弱点を攻撃しないとダメなのか。——そうだとすれば、エアスラッシュよりも強力な攻撃が必要……?


 ——いや、やっぱこのドラゴン相手に時間をかけるのはマズい。ソッコーで仕留めるべき……ッ!

 そうだ……すべてをぶち抜く最強のワザで、一撃で倒すッ……!

 考えろッ……ヤツを一撃でほうむる、そのワザを……ッ!

 そうだ、最強の攻撃といえば、やっぱり——


 あーしが最強のワザを思いついたのと同時に——

 傷つき追い詰められたドラゴンも、まさに最強の攻撃を放とうとしていた。


 ズタボロに隙間の空いたドラゴンの翼の奥の、その口から、あまりにも眩しい光が生まれて——

 

 そしてドラゴンは、それを解き放った。


『“殲破消絶滅極白光フォールィン・オレトゥロス”』


 放たれた極限まで白く輝く光を見た瞬間に、あーしは悟った。


 ——食らったら死ぬ……ッ!


 あーしは全神経を込めて、光を回避することに集中する。


 まさに光の速度で飛ぶそのビームは、ドラゴンが口を向ける動きに合わせて、縦横無尽にこの暗黒の空間を引き裂いていった。

 

 ——あの光は、すべてを消し去る光だ。

 

 すでにドラゴンの立つ大地すら極白光ビームにより切り裂かれて、いくつもの塊に切り分けられてしまっていた。

 もはやこの世界そのものを、光は破壊してしまうかのようで——


 その時、あーしの右腕にチクリとした感覚がして、


『“おおおおおおオオオオッッあああああああアアアアアぁぁぁァァッッ!!!!”』


 ラダオの断末魔のような叫びが脳内に木霊こだました。


 ——ッ!? 当たったッ?! やられたっ……!!?


 その叫びと連動するように、不死と暗黒の領域ラダオの作成したフィールドは、光に払われる影のようにあっけなく消え去っていった。

 同時に、それまで確かに存在していた、あーしの右手から繋がった先にあった存在の感覚が、消滅した。

 ——ラダオの気配が、消えた……。


 そしてあーしは、晴天の空中に投げ出されていた。


 ——ッ、フィールドが消えてっ、ここは、外……ッ?!


 “光の翼”で崩れた体勢を戻しながら、急いで視線を周囲に飛ばすと、あーしと同じく地上へ落下していくドラゴンの姿が見えた。

 ドラゴンはボロボロの翼を動かして、なんとか飛行しようと——


『“飛翔剣撃エアスラッシュ”』


 ドラゴンはなんとかかわそうとしたケド、ロクに飛ぶことが出来ず、あーしのエアスラッシュは直撃した。


 あーしは落下していくドラゴンに並走するように落下しながら、エアスラッシュを連発していく。

 

 ドラゴンは必死になって回避して、防御して、そして攻撃してきた。

 あーしも必死になって、攻撃を躱して、ドラゴンへ攻撃し続ける。


 もはやラダオはいない。つまり、あーしに防御のすべはない。

 攻撃は最大の防御とばかりに、あーしはドラゴンを攻めまくる。


 ドラゴンが地面に激突した。

 しかし、ヤツはまだ生きている。

 ——やっぱり、ヤツを倒すには、必殺技を弱点にブチ込むしかない……!


 決意したあーしは、ドラゴンの頭の方に回ると、トドメの一撃を放つべく、ヤツを倒すために考えたワザの準備を開始する。

 

 対するドラゴンも、最後の力を振り絞るように、その口の中に白い光を溜めていた。


 ——ぐっ、さすがにあの光に正面から挑むのは……、——ッ?!


 あーしの迷いを振り払うように、剣くんから伝わる感覚。

 あーしはその感覚に従い、必殺技の第一段階のワザを発動した。


『“波動刃撃ブラスターエッジ”』


 すると、生まれたのは、いつものうっすら青く光るヤイバではなく、強烈な光を放つ——白いヤイバだった。——そう、それはまるで、眼前のドラゴンの放とうとしている光のような。


 ——なっ、コレはッ……?!


 ——いやでもっ、このヤイバなら……いけるッ!!


 迷いが晴れたあーしは、意識を集中すると、白き波動のヤイバの形を変形させていく。

 その形は、螺旋形にねじれながら鋭く尖っていき——そこに現れたのは、そう、ドリルだった。


 最強のワザ——ソレすなわち、ドリル。

 あと必要なのは、回転しながら進む“推進剣撃推進力”と、決して止まらないという“強靭剛撃鋼の意志”だ。

 この三つを合わせた時、すべてをぶち抜く最強の必殺技——ドリル突撃が完成する。

 さらには、すべてを消し去る光でコーティングされたドリルなのだ。負ける要素がねぇ。

 ……終わらせてやるゼ。


 あーしがドラゴンに向けてドリルを構えると——

 ドラゴンもあーしに向けて、白い光を溜め込んだ口を向けた。


 上等……!

 受けてみな、あーしの必殺技、その名も——


 ドラゴンが大きく口を開く——


『“殲破消絶滅極白光フォールィン・オレトゥロス”』

『“螺旋光刃穿孔突撃シャイニングスクリュー・チャージクラッシャー”』


 二つの白い光が、激突した。


 ——おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!


 ——めっちゃ回るぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!!


 ——何もッ分からねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!


 ——てかワザ名にッドリルが入ってねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!


 ——あああああああああああああああああああああああああ、アッ、あ……そうだアレッ!


『“視点操作コントロールビュー”』


 ——おっ、見えた!


 まさに一つの巨大なドリルとなっているあーしは、ドラゴンの放つ極白光ビームを真っ正面から削りつつ、止まることなくその光の発射口へ向けて突撃していた。

 そのまま一切止まることなく突き進んだあーしのドリルが、ドラゴンの頭部に到達する——直前に、ドラゴンはビームを中断して回避しようとして、しかし避けきれずに、その左半身を大きく削り飛ばされた。


 あーしはすぐにワザを止めてその場に停止すると、通りすぎたドラゴンに向き直る。


 ゴグウッ、ガアッ、グフゥッ……!!


 ドラゴンの口より、まさに死にかけのうめき声が漏れる。


 ——うおっ、おっ、おえぇっ……!!


 そしてあーしは、回転ドリルの副作用により、ちょっと込み上げるものが……

 しかしそれも、腰の鞘くんのおかげですぐにおさまる。


 ……改めて、あーしはドラゴンを見やった。


 ドラゴンはもはや、体を動かすことすら出来ないほどに衰弱している様子だった。

 しかし、あーしは油断することなく、いつでも攻撃を放てるように意識を研ぎ澄ませたまま、ドラゴンの頭の方へ回った。


 ——……さて、首を切り落とすか、もっかいドリルで今度こそ頭からぶち抜くか……。


 そんなことを考えながら、あーしはドラゴンの頭部の、その少し上に浮いてドラゴンを見下ろした。

 もはや頭を上げることも出来ないドラゴンの、眼球だけがギロリ——とあーしのことを睨みつけた。

 ……そうか、今からあーしは、コイツの命を奪うのだ。


「…………」


 ほんのひと時、あーしの頭の中に、言いようのない感情が渦巻いた。


 ——せめて、これ以上苦しませないように……一撃で終わらせよう。


 そう決意して、あーしは剣くんを強く握りしめて、ドラゴンに向けて振り上げ——


『“——まっ、待て! 待て待て待て! と、止まれ! やめろっ!”』


 ……?


 ——ドラゴンに向けて、振り上げ、


『“いやだからやめろって! 言ってるじゃろうが! おい! 聞こえているんじゃろ! ちょっ、話を、話を聞けっ……!!”』


 …………???


 ……ドラゴンに向けて、振り上げ——


『“お前ッ、ほんとにッ、聞けよ! 返事をっ、しろっ! ——こっ、言葉で、言葉でなっ! てかっ、まずっ、その剣をしまえっ!”』

「………………え、ナニこれ……?」

『“はぁっ、はぁっ……お前、ちゃんと喋れるじゃないか……てっきり、喋れないのかと思ったぞ……”』

「…………いかん、幻聴が聞こえる。どうしよ……えっと、——とりまコイツをまずは仕留めるか」

『“なんでじゃっ! やめろって言ってるじゃろうがッ!!”』

「…………え、マジで、ナニこれ? え……? もしかして、お前が喋ってんの……?」


 あり得ないと思いつつ、あーしは目の前のドラゴンを指差してみる。


『“はぁ? 当たり前じゃろうが。他に誰がいるというんじゃ? ワシじゃ、ワシ”』

「え、いや、お前……喋れるんかいッ?!」

『“何を驚いておるんじゃ。話が出来たくらいで”』

「いやお前……だって、魔物モンスターじゃん……?」

『“魔物……ふん、そんなことは、貴様らニンゲンが勝手に決めたことじゃろうが”』

「は? え、んじゃお前って、モンスターじゃないの?」

『“……違うと言ったらどうする? ワシを殺さずに見逃すのか”』

「いやそれはねぇケド」

『“ないんかいッ——!!”』

「いや、でも、ええ……? や、話が通じるとか、めっちゃり辛いじゃん……」

『“それなら殺すな! 殺さなければいいではないか!”』

「いや……いまさらそれもどーなんよ」

『“何が不満なんじゃ? 嫌ならしなければよいではないか。嫌なことをしないでよいのは、これは勝者の——強き者の特権じゃ。貴様は強い。ならば好きにすればよいのじゃ”』

「ならまあ……トドメを刺すか」

『“なんでじゃああああああッッッ!!!”』


 うるっせぇなぁ、コイツ。

 てか脳内に声が響くから、マジでうるさいんだケド。

 いや、てかさ——


「つーかお前のその態度はなんなん? 死にたくないなら、もっと下手しもてに出て命乞いするのがフツーじゃね? なんでそんなに偉そーなん」

『“なんじゃと? 矮小わいしょうなるニンゲンに、偉大なるドラゴンがこうべを垂れる、じゃとぉ? ——フンッ、断じてあり得んわッ!”』

「なら大人しく死ぬワケね?」

『“殺すなと言っておろうが! このたわけが!”』

「なんなんコイツマジで」


 言葉は通じているみたいだケド……話は通じていない気がする。


「いや、てかさ、降参したいならまずはそー言ってよ。——まあ、それを受け入れるかはともかく。まずはそっからじゃね?」

『“貴様……このワシに降参しろと言うのか……?!”』

「……いや、そうだけど?」

『“……ぐぬぅ、……!”』

「や、別に、嫌ならしなくていいケドさ」

『“ほう……?”』

「そんかわり、ごちゃごちゃ言わんと黙って死んでよ?」

『“はあっ!? このっ、貴様ッ……!”』

「いやどっちかっしょ。降参するのか、黙って死ぬのか」

『“……どっちも何も、実質、一択じゃろうが……”』

「それで……? 今すぐ決めてよ」

『“…………………………降参、する”』

「……そう。——まあ、その降参を受け入れるかは、また別なんだケド」

『“はあっ?! き、貴様……ッ!”』


 と、あーしがそんな、中々に難解なコミュニケーションに取り掛かっているところに、


「ユメノさん……まさか、ドラゴンすら倒してしまうとは……驚きすぎて、言葉も出ませんよ……」


 そう言いながら出て来たのは、全身ボロボロの——というか左腕と右足が無くなっている——イスタさんだった。


「い、イスタさんっ! 無事だったんすねっ! ——いやっ、ゼンゼン無事じゃないっすねっ?!」

「……生きているだけ、無事と言えますよ。それで、ユメノさ——」


 イスタさんは、弓を杖のようにしてなんとか移動して来たカンジだったケド——あーしの前にいるドラゴンを見て、その表情を凍りつかせた。


「ゆっ、ユメノさん……!! そのドラゴンっ、まだ生きてます!!」

『“——ッ、……”』

「あ、はい。いやー、てかイスタさん、コイツなんか降さ——」

「ユメノさんッ! 早くっ、トドメを刺してくださいっ! 弱って見えても相手はドラゴンですっ! 傷も再生します! その身の魔力が尽きるまで死なないのがドラゴンですっ! 早くっ、早く息の根を止めなければっ!」

「あ、いや、イスタさん、コイツ降参——」

「ドラゴンの弱点は頭部と心臓ですっ! 両方を潰さなければっ! ——場所は分かりますかっ?! いいですかっ、心臓の位置はあのっ——」


 するとイスタさんは弓でドラゴンを差し示そうとして、バランスを崩して倒れそうになった。

 あーしは慌ててイスタさんに駆け寄ると、その体を支える。


「ちょっ、イスタさん、落ち着いて——」

「——ッ、私を構う必要はありませんっ! それよりっ、ドラゴンから目を離してはっ、いけ、ない……!」


 そう言いつつ、イスタさんの体からは、急速にチカラが抜けていっていた。

 ——マズいっ、このままじゃこの人、死ぬ……!


 あーしはイスタさんを地面に横たえると、急いで剣を鞘にしまい、ベルトから外して、イスタさんの前にかざした。

 そして、鞘くんの力を解放する。


 ——治れっ……!


 光を浴びたイスタさんの傷は、みるみる癒えていった。——いやマジで、無くした腕と足すら元に戻っちゃったから、マジでビビったケド。


 すっかり傷の治ったイスタさんは、その顔にありありと困惑の表情を浮かべながらも、自分の足でしっかりと立ち上がった。


「……これは、まさか、こんなことまでできるなんて……ユメノさん、貴方って人は、本当に……」


 イスタさんは、どこかあきれたよーな表情をあーしに向けてきたケド、すぐにハッとしたようにドラゴンの方に向き直った。


『“……ワシは今、その半森人ハーフエルフを殺すこともできたが、しなかったぞ。その意味が、分かるじゃろうな……?”』

「ゆ、ユメノさん……?」

「いや分からん」

『“なんでじゃ! 分かれよッ! アホかッ!”』

「あ゙あ゙っ!?」

『“あっ、ああっ?!”』

「……てかよー、んなことしよーとしたら、その瞬間にテメーの首吹っ飛ばしてるかんな……?」

『“っ、ぐっ……!”』

「あの、ユメノさん……?」

「——あ、いや、イスタさん。コイツこんな言ってるケド、マジでこうさ——」

「いえ、ユメノさん、貴方、もしかして誰かと……会話、してるんですか? あの、一体、誰と……?」

「えっ? いや、コイツと——」

『“ワシの言葉はお前にしか聞こえとらんぞ。そもそも、これは頭に直接語りかけているわけじゃしの”』

「はぁ? え、それ“念話”ってコト? ——えー、いや、フツーに話してくれん? そんな、あーしにしか聞こえないってんじゃ……あーし独りで喋ってるヤバいヤツになっちゃうじゃん?」

『“……この姿では、ニンゲンの言葉を発することはできん”』

「ん、ああ、まぁ、確かに……?」

『“発声による会話をするには、姿を変える必要があるが……”』

「え、できんの? ……じゃあ、やってくんね?」

『“……では代わりに、ワシを攻撃せんと約束しろ”』

「いいよ。——ただし、そっちが変なマネしなかったら、だけど」

『“……まあよい。では、今から姿を変える。……一応、言っておくが、これから起こることを、「変なマネ」と間違うなよ……?”』

「あー、分かった分かった」

『“……”』

「…………あ、あの、ユメノさん、一体、何を——」


 すると突然、ドラゴンの体が光を発しだした。


「——ッ、ユメノさんっ!!?」

「だ、大丈夫……! の、ハズ……」


 剣くんいわく、問題はナイ……ハズ。


 光を発するドラゴンは、みるみるとその体が縮んでいって——

 光が晴れる頃には、その場からドラゴンは消えて……一人の人間の、女の子が立っていた。

 

 ……えっ?


「——約束は守れよ。……さて、と。では、ワシは話し合いを所望する。こちらも歩み寄ったのじゃから、そちらも歩み寄るように……して欲しい」


 …………えっ?


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