第58話 強さは一概には決まらない



「んじゃ、いくぞ、ラダオ」

御意にイエス我が主人マイマスター


 すべての準備を終わらせたあーしは、あーしの背後にまるで背後霊のよーに浮いているラダオに一声かけると、剣くんを引き抜いた。

 

 あーしは自分の背中に意識を向ける。するとあーしの背に、“光でできた翼”が現れた。

 翼に魔力パワーを込めるように意識する。すると、あーしの体はフワリと宙に舞い上がる。

 さらに、今度は進むことを意識したら——次の瞬間、あーしの体はもの凄い勢いで上空に向けて飛び上がっていた。


 ——うおっ、めっちゃ速ぇッ!


 ——“機動装甲パワーアーマー”を使って、さらに魔法でイロイロとサポート受けてんのに、飛ぶだけでスゲー負荷だ……!


 でもむしろ、それが頼もしい。

 これくらいの速度が出なければ、アイツを相手にするにはお話にならん。

 トランシェさんのかけてくれた——この“光の翼ライトウィング”の魔法のお陰で、なんとかヤツとも空中戦をできそーだ。


『“——すごい速度ですねっ、マスター! 平気ですか?!”』

『“なんとかっ、ダイジョーブ! オメーは?”』

『“平気です。霊体ですので”』

『“ならよしっ! ——んじゃ、防御は任せたかんなッ! 頼むぞッ”』

『“お任せを!”』


 作戦は単純——先手必勝、一撃必殺。

 向こうの攻撃はなるべくかわして——それでも躱しきれないのはラダオが防いで——そのまま突撃して、一撃をぶち込む。

 ——今のあーしの魔力パワーはカツカツだ。なんか気絶から起きたら、ほぼカラになってたし。

 ……なぜかは分からん。アレだけの攻撃を受けて、まったく怪我をしてなかったのも……そう。

 なんせ他のみんなはそれで——


 ——……ッ、……。

 

 ……だから最初の一撃、これをゼッタイ決めないと。

 それで魔力パワーを回復出来ないと、ヤバいのだ。もはや、ヤツを攻撃して回復するしかないのだ。


 凄まじい速度でグングンと飛んでいくあーしは、すでにヤツを視界肉眼とらえる距離まで詰めていた。


 そんなあーしの目に——今まさにやられて落下するイスタさんの姿が映った。


 ——ッ……!!


 ヤツは落下していくイスタさんを追うような素振りを一瞬見せたケド、すぐにこちらへと意識を切り替えてきた。

 ヤツと目が——合った。


 ドラゴン。


 みんなを殺した、魔物


 ドラゴンはこちらに向き直ると、次の瞬——


 ギュオッ——!!

『“推進剣撃ブレイドスラスター”』


 ——刹那の間に、交差する。


 一瞬でこちらに突っ込んで来たヤツの、その突進を“剣技ソードアーツ”を使いながら、回避と同時にすれ違いざまに攻撃する。

 剣くんによる攻撃は——ヤツの鱗もやすやすと引き裂いて、深々と切り裂いた。


 ——効いたッッ!!


 ——けどッ!


 ——たった一撃で、この回復量ッ……!


 ——クソッ、さすがに狙った場所は攻撃できなかったッ……!


 一瞬の内に、いくつもの思考が脳内を駆け巡る。


 あーしはすぐさま反転すると、ドラゴンに向けて再び突進していく。


『“ヤツの傷が……! 再生しています! マスター!”』

『“再生……!?”』


 あーしの視界に入ったドラゴンは、大きく旋回するようにあーしから距離を取るよう飛んで、みるみるとあーしを引き離していく。


 ——チッ、やっぱりヤツのほーが速い……!


 そうしてあーしから距離を取りつつ、ドラゴンはあーしに向けて攻撃を放ってくる。


『“魔法攻撃です! ——なんて数だ……! これは、躱しきれない——?!”』

『“——ッ! ラダオ、ガードしてっ!”』

『“ッ、了解!”』


 まるで空を埋め尽くすかのように——満天の星かよって量の攻撃が、あーしに襲いかかってくる。

 ——これは確かに、もはや躱せる場所がない。


 ——なるべく密度が薄いトコロを、突っ切る!


 ラダオがあーしをおおう球形のバリアを展開する。

 あーしはその防御ぼーぎょを頼りに、可能な限り敵の魔法を回避しつつ、ドラゴンを追おうとして——すぐに失敗を悟った。

 ダメだ。向こうの方が速いんだから、フツーに追っても追いつけるハズがない。

 ……どーする!?


 すでにあーしは、四方八方を敵の魔法に囲まれていた。

 そしてドラゴンは遥かな上空にいて——こちらに強力な攻撃を放つような気配をさせていた。

 ゾクリ——あーしの全身に悪寒オカンが走る。


『“マスター……アレは、マズいですぞ……”』

『“見れば分かるって! ちょっ、ラダオ! どーにかならんの——?!”』

『“そうですな——いかんせん、ヤツのあのすさまじい機動力をどうにかしなければ、如何いかんともしがたいですな……”』

『“それもだけどッ! まずはもうっ、この状況じょーきょーから生き残る方法が先なんよ!”』

『“——仕方ありませぬ、を使います。——いやまさか、もう切り札を切ることになるとは”』

『“しゃーねーダロ、頼むわ!”』

『“ではマスター、——〜委細〜準備中の防御について——は任せてもよろしいですか?”』

『“——おっけ、そんくらいは任せナ!”』


 あーしが了解すると同時に、ラダオは切り札の準備にかかり、あーしを守っていたバリアが消えた。

 ——ちょっとの間なら、バリア無しでもやれっし!

 あーしは土砂降りのよーに迫り来る魔法の数々を、剣くんを使って斬り払っていった。

 ——お、魔法を弾いた時にも、ちょっとだけど魔力って回復するんだ。

 なんて小さな発見をしている間に、すでにヤツの準備は終わっていた。——そしてコチラの準備も。


 ドラゴンの——食らったらお陀仏ダブツ確定の——攻撃が放たれる。

 それより一瞬早く、ラダオの切り札が発動した。


『“到達不能領域アンチフルベクトル”』

 

 あーしの周りに、バリアが展開される。——ただのバリアではない。コレはのバリアだ。


『“轟滅光震空波マクロシェイク・ディストピア”』


 そして——光が、辺りを埋め尽くした。

 何が起こったのか、よく分からなかった。ただとにかく、とにかくヤベーってのは感じた。

 そして、それを感じることが出来ているとゆーことは、あーしは生きているとゆーことだ。

 ——さすがは無敵バリア、なかったら即死してたゾ。


 視界は真っ白に染まっている。まるで世界からすべての色も、形も、陰も、何もかもが消えたかのよう。

 いやじっさい、この攻撃を食らったら、マジで何もかもが消え去ってしまうんじゃねーのかと思う。

 

 だけど、あーしは消えてねーぞ……! こっから反撃じゃ……!!

 

 ——ハンパな攻撃じゃヤツは倒せん。なんか傷治るし、つーか体がデカすぎる。あーしの攻撃じゃ、マジで針の一刺しにしかならん。

 ——んなら強力な攻撃を、それも急所にブチかますしかない。

 ——だけどアイツは、あの巨体のクセにクソ速いから、フツーにやっても当たらんし、そもそも届かん。

 ——ならまずは、あの飛行力ハネをどーにかしないとか。

 ——ヤツに届いて、さらに足止め出来るワザ……

 ——よし、アレだな。


『“ラダオ! 光が晴れたらすぐバリアを解いて! んであーしが攻撃の準備終わらせるまで、なんとかあーしを守って! ——〜アレ〜——を使う!”』

『“——ッム、了解ですぞ、マスター! このラダモン——ではなく、ラダオにお任せあれ! 必ずや我が主人マスターを守り抜いて見せますとも!”』

『“おし! 任せたぞ! ——ッ、くるっ、晴れるっ”』


 光が、消えた。

 同時に、ラダオの無敵バリアも消失する。


 よしっいくぞ——ッ!


『“波動刃撃ブラスターエッジ”』


 あーしはまず、剣くんより特大の光の刃を伸ばす。

 さらに——


『“剣霊突撃ソードゴーストカミカゼアタック”』


 先日、開発したばかりのワザを発動する。

 すると——


 思惑通り、巨大な光の剣が、次々と生み出されていった。

 名付けて——“特大剣霊突撃グレートソードゴーストカミカゼアタック

 ——コイツでヤツを串刺しにて、動きを止める。


 さすがに魔力パワーをかなり使っちまった。——長くはもたねぇ。

 

 ——そらっ、いけやオラッ!!!


 あーしはドラゴンに向けて、特大の光剣たちを突撃させる。

 当のドラゴンは、あーしが光剣を生み出している間も攻撃してくることはなく——むしろ飛び退すさって距離を取っていた。

 ——はんっ、ムダムダァッ! コイツの速度はテメーのソレすら超えんだよッ!!


 あーしは全力で光剣たちを突撃させた。

 撃ち出された巨大光剣は、マジで光の速さかって速度で飛び、一瞬でドラゴンに迫ると、その身に突き立っていった。


 ゴアアアアアァァァァァァァァァァァァッッッ!!!!!


 ドラゴンが大気を震わせる絶叫を上げる。


 なんならそのまま仕留めるつもりの攻撃だったケド、ドラゴンは生きており——どころか、まだまだ暴れる力を残していた。

 その場にとどめようとする光剣の力にあらがって、体が傷つくのも気にせず暴れて——むしろ、身を引き裂いてでも光剣のしばりを抜けようとしていた。


 あーしは全力でドラゴンの元へ飛んでいきながら、光剣の操作と維持に力をかける。

 しかし、残りの魔力パワーはかなり少なくなっていた。

 

 ——マズい……ヤツの元に辿り着くまで……もつか、コレ?


 ——いや、なんとかたどり着いても、トドメに使うパワーがねぇっぞ……!?


 ——どうするッ……?!


『“おいラダオっ、オメーなんか、アイツの動きを止めたりとかできん? このままじゃ、仕留める前に逃げられちまう……!”』

『“足止め、ですか、——それなら、おあつらえ向きの方法がありますな”』

『“えっ、マジ? あんの? ……いや、そんなんあんなら先言ってくれん?”』

『“いえいえ、マスター、相手が止まっている今だからこそ可能なのです。今までのように、動き回っている相手に使えるような手段では——”』

『“あー分かった分かった。悪かった。——とりまそれやってくれ! てか、一体どーやってアイツを捕まえんの?”』

『“それはほら、マスターもよくご存知の、——〜アレ〜——ですよ”』

『“——ナルホドッ! 分かった! やったれ!”』

『“御意にイエス我が主人マイマスター”』


 あーしがラダオと“念話テレパス”による以心伝心念話式高速意思疎通を終わらせる頃には、だいぶドラゴンの近くに迫っていた。

 しかし、そこでドラゴンが、ことさら激しく暴れ始めて——さらにはなんと、その場に超巨大な竜巻を発生させ、あーしらの行手をはばんだ。


『“マスター! アレは——”』

『“あーしに任せろッ——!”』


 あーしは竜巻を相殺して活路を開くため——残りの力のありったけを込めてワザを放った。


『“波動刃衝撃エクステンスブレイズ”』


 ——吹き飛べッッ!!


 放たれた衝撃は、竜巻とぶつかり、打ち消し合って——あーしの前方には瞬間的に空白が生まれた。

 ——あーしはその空白を突き抜ける。


 ドラゴンが、目前に迫っていた。

 しかし——すでにそのカラダには、あーしが突き立てた光の特大剣は残っていなかった。


 ドラゴンが傷ついた翼で羽ばたこうと、ソレを大きく広げる。——逃げられるッ!

 あーしはとっさに剣を降りフリ上げた。

 するとドラゴンは——瞬時に翼を畳んで自身を覆うような防御態勢をとった。

 その一瞬の猶予ゆーよによって——なんとか間に合った。


『“空間装飾エリアフォーム——呪死地縛暗黒闇夜領域ウォーキングデッドナイトメアフィールド”』


 世界を塗り替えるように、暗黒の闇が覆いかぶさって——

 そこは懐かしの——死ののろいが充満した真っ暗闇の領域フィールドに変わっていた。

 ——ってナンも見えねーじゃねーか!


 ——ヤバッ明かりッ、てか“暗視”ッ!


『“漂い照らす光球群フローティング・イルミネーション”』


 すると、辺りを照らし出す光が大量に現れた。——ラダオかっ、さんきゅー!


『“いえ、どうせ向こうドラゴンは、暗闇など問題にしませんからな。——さて、どうです、マスター。ご覧ください。いかに強大なる存在であろうと、この場ではあの通りです。しかしまあ……無様ぶざまに地に伏すドラゴンとは、なんとも壮観な眺めですな”』


 光に照らし出されて見えてきたのは——墜落して地面に激突したドラゴンの姿だった。

 なんかさっきデケー音してたし——どうやら突然ここの効果『上昇不可』を食らってバランス崩して落ちたっぽい。

 だがそうして一度落ちた以上は、もう飛び上がることはできないのだ、


 ドラゴンはすぐに体を起こすと、翼を盛んに動かして飛び立とうとする。しかし、少しでも地面から浮き上がったら、次の瞬間には上昇は止まり、ドラゴンは再び地に落ちる。

 ——よしっ、飛行はちゃんと封じられてる。


 そんなドラゴンに向けて、辺りから続々と現れては襲いかかっていく者たちがいた。

 それは動く骨だったり、腐った死体だったり、首のない鎧だったり、あるいは半透明の幽霊だったりした。

 そんな連中が、ワラワラとそこら中から湧き出してくると、ドラゴンに向かって一斉に襲いかかっていく。


『“マスター! なんとか我が眷属どもに足止めをさせてみますが——相手はドラゴンです! さほどの効果はありますまい。そも、われ自身とて、ヤツに挑むには実力がまるで足りませぬ。……やはりヤツを倒せるとしたら、御身おんみのその聖剣による破滅的威力の絶技をおいて、他にはあらせられませぬ! どうぞ、我が眷属を巻き添えにして一向に構いませんので、どうか……必殺の一撃を奴めに……!”』

『“いや分かってっケドっ、ちょっと……魔力パワーが足りねぇーんよ”』

『“魔力が……?! ——な、なんと、それではもはや勝ちの目が無い……ッ!?”』

『“いや、この剣で攻撃すれば回復すっから、なんとか直接攻撃できれば、どーにかなるんだケド……”』

『“なるほど……?! でしたら、危険ですが接近戦を挑むしかありませんな……”』

『“でもここ、ゆーて動きにくいし、いけっかな……”』

『“……ならばマスター、われの——』


 と、そこで——ドラゴンが空中に浮いているあーしらの方を向いた。——マズッ!


『“豪炎灼熱息吹ブレス・オブ・ザ・インフェルノ”』

『“凍てついた嵐風の障壁ウォール・オブ・サイクロンブリザード”』


 ドラゴンがあーしに向けてその口から超高温の炎を吹きつけるのと、ラダオが氷と風の力が込められたバリアを張ったのは、ほぼ同時だった。

 炎の直撃はなんとかバリアによって防がれた。しかし、それでも凄まじい熱があーしに降りかかる。


『“——ッ、防ぎきれません! マスター、回避します! われに掴まってくだされ!”』

『“わ、分かった!”』


 ——はて、霊体に掴まるとはこれいかに。

 なんて思いつつ、あーしはラダオの着ているマントの端っこを掴んだ。


『“空間跳躍シフトジャンプ”』


 視界が一瞬だけ暗転すると、あーしは吹きつける炎を横から眺めるよーな場所に移動していた。

 ——これはっ、ラダオが使ってたテレポートじゃん! やっぱ便利だなコレ。


『“マスター、これを!”』


 さらにラダオは、あーしが掴んでいたマントを外すと、そのままあーしに差し出してくる。


『“着てくだされ! ——それから、これも”』


 さらにはなんか、足につけていた輪っかみたいなヤツも渡してくる。


『“この二つがあれば、マスターならば、ヤツに接近して戦えるはずです! ——〜二つのアイテムの使い方〜——は、この通りです。われはなるべく、ヤツの注意を逸らしてみますので! ——では、ご武運を!』


 矢継ぎ早にそう言うと、ラダオはあーしから離れていき、そのままそそくさとへと潜っていった。

 ——……ナルホド、霊体ってヤツは、地中にもいけんのか。

 

 それからあーしはすぐに地上に降りると、(すでに着ているマントの上から無理やり気味に)渡されたマントを着る。続いて足輪も、両足に装着する。

 それからゆっくりドラゴンの死角に回って移動しながら、渡された二つのアイテムについて、ついさっきラダオに(イメージを直接送る)念話で聞いた説明を再確認していく。


 “陰日向の外套サンシャンマント”——生者が着用すると、姿を隠し気配を消せる(その効果は、暗いところであるほど高くなる)。不死者アンデッドが着用すると、日光を浴びることにより受ける悪影響デメリットを無効化する。


 “空跳の足輪エリアシフト・アンクレット”——着用して使用すると、空間跳躍シフトジャンプを発動する足輪。両足に一つずつ装着する。二つをそれぞれ交互に使用することで、短時間に連続して二回まで発動可能。


 つまり、このマントをつければ、ドラゴンから見つかりにくくなる。

 そしてこの足輪があれば、あーしも瞬間移動シフトが使える。

 そう、シフトならば、この場所でも。しかも一瞬で。

 

 ナルホド……この二つがあれば、いけんじゃね……?

 まずはあのアンデッドたちにまぎれて、こっそりドラゴンに近寄っていって攻撃する。

 バレたり攻撃を食らいそうになったら、シフトで逃げる。

 

 ……おお、いけるゾ、コレ。


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