第8話 え、あーしの見た目ってそんなにヤバいん?



「はー、はぁ、マジで疲れた……」


 あーしは教会から離れるようにひたすら走り続けて、どこぞの路地裏で今ようやく止まった。

 追手を完全に振り切るために、全力疾走に近い速度でひたすら走っていた。

 あーしは元々こんなに走れるヤツじゃない。でもこんだけ走れたのは、タブン、剣くんが力を貸してくれてたから。あと鞘くんも、走って疲れるあーしを回復してくれてた。


 そうそう、剣くんだけじゃなく鞘くんも不思議な力持ってた。癒し系の力。

 思えば、今までも力を貸してくれていたんだと思う。

 空を飛んだ(控えめな言い方。むしろトんでた)後に吐きそーになった時も、あの時耐えられたのは鞘くんのお陰だった。

 マジありがとう鞘くん。お陰で乙女の尊厳が守られたヨ。


 ついさっきも、あのロブオが変なの使って眠らそうとした時も助けてくれたし。

 あの変なヤツは剣くんにも防げなかったっぽいし、鞘くんいなかったらマジヤバかった。

 ……つーか、次からはなんか変なことされる前にヤるべきかもしれんなー。


 ともかく追手はいた。今は安全だ。

 ホント、なんでこんな事になってるわけ? 改めて考えてもワケが分からん。

 あーしは何もやってない。しかし最終的には兵士に囲まれるハメになった。一体どこから間違えたというのかよ……。


 そもそもの原因は何、あの人質のおっさんか? あのおっさんが変なことしなければ、あーしも剣を抜くことはなかった。アレがすべての始まり?

 いや、そもそもあのおっさんは誰よ。あーしに何をしようとした? あーしはただ、なんかのアレをやってもらおうと思っただけなのに。手紙に書いてあったハズ。

 手紙の通りにササっとやってすぐに終わると思ってたのに、なんでこんな事になってんのよ。


 そもそもアレか、手紙。あの手紙ちゃんと書いてあったんだろーか?

 あーし文字も読めないから、なんて書いてあるか分からなかったケド、もしかして、アレに変なこと書いてあったからこんな事態になったんじゃないの?


 手紙を書いてくれたおっさんライネスにはその分オカネ払ってたし、あのおっさんはボッタクリだけど、払った分はちゃんとやってくれると思ってた。言い値で払ったし。

 でも考えてみれば、だからといってちゃんとやってくれたとは言い切れない。

 そもそも会ったばかりの相手だったし、なんの信頼関係もなかったし。カネを受け取った上でテキトーなことやったのかもしれない。

 もっと悪ければ、ボッタクリのおっさんと教会の連中がグルで、あーしを騙してた可能性かのーせーもある。


 だケド……さすがにそこまでは無いと思う。

 まずおっさんは最初、手紙を書くつもりは無かった。それはあーしが頼んだことだし、そもそも協力的じゃなかった。終始しゅーしめんどくさそうだったし。それが逆に、わざわざあーしを騙したりしないと思ったワケなんだけど……。

 でも、教会のことを言い出したのはおっさんだし、そうなるとケッキョク言葉の分からんあーしが困るのは分かってるんだから、となると、なにかしらで自分が助け舟を出す事になるのは分かるハズ。

 だから手紙のことだって、あーしが言い出さなかったら自分から言い出してたかもしれない。

 協力的じゃない態度は、あーしを油断させるためにわざとやっていた演技かもしれない。……疑い出したらキリがない。


 だって、この変な場所に来てから、信じられる人間に一人も会ってない。みんな何かしらあーしをだましてるし。

 ボッタクリのおっさんだって、最初ぼったくってたの完全に事実だし。これも一種の騙しだろ。

 しかし、あーしなんかを騙してどーすんだ、とも思うけど。だってあーし自体はただの高校生やし。騙したところでナ。


 ……いや、そういえばあーし、ものすごい価値のありそーなもの持ってたわ。腰に吊ってますワ。

 これまで散々助けられてきたけど、もしやトラブルも呼び寄せることがあるってコト……?

 ……ま、だとしても手放すつもりはねーし。んならもう考えてもムダだね。


 ——そーいや、あの時って剣くん反応してなかったよね……? おっさんが手紙書いてた時は。

 うーん、いや、ハッキリとは覚えてないけど、たぶんそーだったと思う。剣くんが反応したら分かるハズだし。

 だとしたら、手紙はちゃんと書かれていたんかね……? いやでも、直接話すんじゃなくて文字なら反応しないとか——

 ……いや、まあ、その辺もどーせ、イマサラか……。


 ——うん、はいっ、この話おしまい。考えてもしゃーない。反省終わり。

 教会でのことはどーしよーもなかった。あーしはやれるだけやった。

 いちおー、誰も死んだりはしてないっぽいし、あーしも無傷。ならオッケーっしょ。


 まー、完全なムダ足になったのはアレなんだケド……。

 ん、いや、いちおー完全にムダではないか。手に入れた物もある。

 つーかこれ、貰ったってことでいいのかな? ほぼほぼパクったみたいなもんだけど。

 まあコッチもアイツらに色々されたし、詫びの品ってことで貰うわ。詫び石じゃ詫び石。どんくらい役に立つのかは分からんケド。

 つーか、どーすんだ、コレ? このイヤリングみたいなやつ。まあ、付けるんだよね。大丈夫かな……?

 タブン、付けても問題はなさそう。剣くんは反応しないから、たぶんダイジョブ。

 よし、んならつけてみよ。


 付け方よく分かんなかったけど、耳んとこにテキトーにやったら付いた。

 今のところ何の変化もない。……うん、それじゃ、どーすっかな。


 これからのことを考える。

 どうするべきか。なーんつっても、マジどーすんだよって感じなんだけど。

 だがしかし、イロイロ考える前に、あーしは気がついた。


 ハラが、めっちゃ、ペコってる。


 つーか今日、朝メシ以外なにも食べてなくね? 部活終わって帰って昼食おうと思ったら、なんか気づけば森の中だもんね。そっからはメシ食うどころじゃなかったし……。あれから口に入れたモノなんて、街の門のとこで不味いお茶飲んだダケだよ。

 いちおー、持ち物に食料はある。なんかやたら硬そーなパンとか、干からびた肉みたいなとか。まあゼンゼン食べる気しない系の食い物はある。

 よし、メシにすっか。


 とは言っても、手持ちの食料は食わん。ショージキこんなん食いたないわ。

 なんかもう汚いし臭い。食べ物って感じじゃない。だいたい、あの強盗たちが持ってたヤツって時点で食う気シネーわ。

 なんかお店探してそこに行く事にしよ。教会では使わなかったからオカネはまだあるし。

 ご飯食べるくらいなら、言葉通じなくても何とかなるでしょ。



 というわけで、あーしはそれまでいた路地裏から出て店のありそーな方に向かった。

 今まではとりあえず隠れるために、人気ひとけのないとこいたんだよね。

 ショージキ、人気ひとけのあるとこ行ってダイジョブかー? とも思うけど、教会からはだいぶ離れたし、まーなんとかなるっしょ。

 もうその辺は気にしてもどーしよーもないし。気にしないことにする。


 人気ひとけのないところから表通りに出て、人々の雑踏ざっとうの中に踏み出したことで、あーしは重大な発見をすることになった。


 言葉が、分かる……!


 道ゆく人たちが話している言葉が、聞こえてくる喧騒ケンソーが、ちゃんと理解出来る言葉になってる。

 耳を傾けてみれば、話されている言葉の意味が、ちゃんと理解出来る。有り体に言えば、日本語話してる風に聞こえる。


 マジか。これはアレだよね? パクっt、……貰ったイヤリングの効果だよね?

 試しにイヤリングを外してみたら、やっぱりワケの分からない言葉に戻った。んで付けたら分かるようになる。

 マジか。これそーゆうアイテムなんだ。てか付けるだけで翻訳されるようになるとか、あの棒完全に超えてるじゃん。完全にあの棒の上位互換キタコレ。

 と思ったけど、違った。まだこっちが話した時のことを試してなかった。これであーしが話したことも相手に伝われば、その時こそ完全にあの棒超えたわ。


 あーしは気持ちをはやらせながら道を進んだ。とにかく誰かに話しかけたかったケド、誰かれ構わず話しかけるわけにもいかない。

 つーか当初の目的の店に行けばいい。そうすれば店員と話す事になるジャン。ジャン。


 言葉が分かるという衝撃は大きかったケド、道を歩いて周りを見てたら、もっと大きな衝撃を味わう事になった。

 今までは色々あって、ゼンゼン周囲のことをよく見てなかったんだケド、街ゆく人たちを見てると、アレ、なんか変な人がいる。


 耳が、頭の上からケモノチックな耳が生えてる人がいる。よく見たら尻尾も生えてる。そんな感じのケモノ人間って感じの仮装してる人がチラホラいるんだけど、なんなんしょコレ?

 つーか本物じゃねアレ。尻尾動いてるし、耳も動いてるし。つーかよく見たら、人間のフツーに耳がある方には何も付いてなかった。

 よっぽど気合入れた仮装で、耳をそぎ落としていたりしない限りこれは……いや削ぎ落としても穴は残るよな、あんなキレイにはならんわ。うん、つまり、ドユコト?


 とか思ってたらもっとすごいヤツもいた。ウロコがついてる、トカゲみたいな……いやまんまトカゲの人。

 人のトカゲ。ヒトカゲ。……ではないけど、ヒトカゲが八頭身くらいなったらあんな感じ……? いや想像したらめっちゃキモい。

 でも、目の前の人(?)はまさにトカゲだった。顔も人間の顔に耳とかそんなレベルじゃなくて、トカゲの顔にトカゲ。いやそれただのトカゲですよ。だからトカゲなんですよ(?)。


 そんなトカゲさんがフツーに街を歩いてる。そしてそれを誰も気にしてない。

 いや、気にしていないことはない。フツーの人はトカゲさんに対してなんかあまり好意的でない感じがする。それはどうもケモノっぽい人たちにも言えそう。

 でも言ってみればそれだけで、あーしのように、まず存在自体に驚いていたりする感じではない。

 つまりここの人たちにとっては、トカゲの人やケモノの人は当たり前の存在ってことだ。つまりここは、そういう街なのだ。


 うーん……………………。

 さすがのあーしも、そう簡単に「ま、いっか」とは言えない。普段色々なことを流してるあーしでも、さすがに今回のことは……ま、いっか(・ω・)


 いや、だって今ゴハン食いにいくトチューだったし。まずはメシ食ってからっしょ。

 こんなん空腹の時に考えることじゃない。……満腹になっても考えたくないケド。ショージキ、あーしの手にあまる予感しかしないワ。


 ま、とにかく食べ物食べましょ。

 というわけで、あーしは改めて食べ物屋を探す。



 すると、道端に食べ物の屋台を発見した。

 うーん、もうここでいっか。ゆっくり食べたい気分でも無いし。むしろ屋台の方がイロイロ気楽でいいかも。


 屋台はなんかの肉を串に刺して焼いてる屋台だった。

 店の人はおっちゃん一人。客は今は誰も居ない。ちょうどいい。ちゃんと話せるかも確かめたいし。

 屋台の前までくると、オッチャンが挨拶あいさつしてくる。——ちなみにオッチャンはフツーの人間のオッチャン。


「へいらっしゃい! ポルポ鳥の焼き串、一本五十リブリスだよ!」


 オッチャンがご丁寧に全部説明してくれたから黙ってても買えるけど、あーしの目的の半分はポルポ鳥とかいうのよりも話すことなので、あーしは話しかける。

 ——つーかこれ一本で五十か。一つでもそこそこの量あるゾ、これ。


「あのー、とりあえず一本貰えますー?」

「あいよ、まいどあり! 五十リブリスね」

「んじゃコレで……、足りるよね?」

「おう、んじゃこれお釣りね」

「どーも。……オッチャン、あーしの言ってること、ちゃんと分かる?」

「え、なに? 俺なんかおかしなこと言ったか?」


 オッチャンはなんか勘違いしちゃったみたい。いや、あーしの言い方が悪かったか。今のだと注文の聞き方間違えたの指摘したみたいになったしなー。


「いや、そーじゃなくてね。……やっぱりいいや」


 まあもう、フツーに言葉通じてるっぽいから大丈夫だね。

 あーしはオッチャンから受け取ったブツをその場で食べ始めた。

 なんつったっけ? ポル……? なんとか鳥だったよね。つまり焼き鳥でしょ。


 焼き鳥はフツーにウマかった。トリだけど。

 あーしの普段食ってるトリ肉とはなんか違うよーな気もするけど、気にするほどでもないってくらいの感じ。

 つーか焼き鳥食ったら喉渇いたなぁ。


「オッチャン、飲み物とか売ってないの?」

「ウチは焼き鳥屋だからな」


 売ってねーってこと? マジすか。

 あーしがションボリ(´·ω·`)してたら、オッチャンが通りの向こうを指さして、


「喉渇いたなら、あそこの井戸の水を飲みな」


 と言った。

 もしかしたら、これはオッチャンのジョーダンだったのかもしれない。なんかそんなニュアンスだった。

 言葉が分かると、その辺のフインキも察することが出来る。元からあーしは、その辺察しの良いヤツなのだ。

 しかしあーしは、井戸で飲み水を汲めるということも今初めて知ったので、素直におっちゃんにお礼を言う。


「そーなん。ありがと」


 すると案の定、


「おいおい、まさかお礼を言われるとはな」


 どうやらオッチャンは、ジョーダンに皮肉で返されたと最初思ったみたいだ。

 でもすぐに、あーしがで言っているんだと気がついたようだった。


「なんだ嬢ちゃん、井戸のことも知らなかったのか?」


 それからオッチャンは、あーしの姿を一通り眺めて、


「そういや珍しい格好してるな。他所よそから来たのか。うーん、黒髪とは、これまた珍しいな」


 と、そんなことを言う。


「黒髪って珍しーの?」

「ああ、かなり珍しいな」


 ……そーいや確かに、この街来てから一人も見てないかも。

 みんな外人みたいな顔だから違和感なかったけど、フツーに考えたら外人でも黒髪ってフツーにいるよね。

 つーか顔とか以前にインパクトのある奴らがけっこう歩いてるから、そっちを気にしてたよね……。

 とか思ってたら、オッチャンが笑いながらこんなことを言いだした。


「そんな目立つ髪してたら、犯罪なんか犯した日にゃあ一発で捕まるな。ははっ」


 ドッキーーン!!

 オッチャンはジョーダンで言ったんだろーけど、あーしには心臓鷲掴ワシヅカみにされたような衝撃がきた。

 マジか、いやコレ、ヤバくね? あーし一髪で——いや一発で捕まるジャン。


 あーしは震えながらオッチャンに問いかける。


「そ、そんなに目立つ?」

「ああ、そうだな。おれも長いこと屋台やって色々なヤツを見てきたが、黒髪の奴とか今日初めてみたぞ」


 そのレベルで希少なのかよ黒髪。これもうアウトだろ。


 えー、マジか。どーしよ。どーする……?


 染める? どこで? 染めれるところとかあんのかな?

 でもそんだけ黒髪が目立つなら、客としてそーゆう店に行ったこともすぐにバレるんじゃ。てか向こうもそう考えて、むしろ張り込みとかされてるんじゃ……。


 くそー、こんなことなら前に髪染めようカナ〜って思った時に染めとくんだった……。

 あの時はけっきょくしばらく悩んだ末に「やっぱりピンクはないかー」という結論になったんだったっけ。

 ……ピンクはないにしても、なんでもいいから黒以外にしておけばヨカッタ……。


 とか何とか考え込んでしまってたら、オッチャンがあーしにトドメを刺すように畳み掛けてきた。


「というか、嬢ちゃんの場合、髪だけじゃないな。服もすごい目立ってるぞ。全然見たことない珍しい服だからな。

 あ、あと腰の剣も目立つな。そんなに豪華な剣は珍しいからな。

 うん、靴も目立つな。全然見たことない靴だな。

 オイオイ、こりゃもう全身余すところなく目立ってるぞ。一度見たら誰も忘れないな。あははは」


 笑いごとちゃうわ。

 やべ、カンケーないオッチャンにちょっと殺意がワイチマッタ。オッチャンは指摘しただけで何も悪くないんだよネ。

 悪いのはあーしの格好か。制服にスニーカーで剣持ってる黒髪の日本人は、この街ではクソ目立つみたいです。日本ではゼンゼン目立たないんだけどなぁ。

 いや、日本では剣持ってるだけでそーとー目立つケドさ。——ってかそんなこと言ってる場合じゃねーよ……。


 あーしの外見がヤバいと分かった瞬間、なんだか全身がザワザワしてきた。まるで全裸で街中を歩いているかのような錯覚。

 あーしになんのやましいところもなければ、それでもヘーキだったろう。だけど今のあーしには、やましいところがあった。すごくあった。ついさっきやっちまってた。


 これは今すぐにどうにかしないといけない。ノンキに焼き鳥食ってる場合じゃなかった。あーしは全身で目立つカッコーをした犯罪者だった。いま自覚した。

 ショージキ、悪いことしたって自覚はないんだけど、まあ追われてるんだろなーという自覚はある。

 タブン、追跡を撒いたからってそこで諦めてくれることはなくて、そのまま捜索とかしてるよねーって。


 探されてるなら、隠れなければ。目立つ格好カッコとか論外。


 となると、次にやるべき事は決まった。

 ホントは他にも、このおっちゃんにはイロイロ聞きたいことがあったけど、それは後で別の人に聞けばいい。

 あーしが今、真っ先に聞くべき事は——


「オッチャン、この辺で服売ってるとこない? なるだけ安いトコロがいーんだけど」


 目立つなら 目立たぬ服を キロロギス ——ゆめの。


 どーでもいいけどキロロギスってポケモンにいそう。


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