第4話 取り調べ室にて(ちなみに二人は、ずっと棒を握り合ったままなのである)



 おっさんがあーしのことを怪しんで色々聞いてくる。マジめんどくせー。


「んじゃ、どーやったら怪しくないって信じてくれるワケ?」

「私の質問に答えてくれればいいのだがね」


 はぁー、それしかないか。また住所とかから聞かれんのかなー。


「君がこの街に来たのは何が目的なのかね?」


 住所じゃナカッタ。

 目的? うーん。とりあえず人のいるとこ目指しただけだしなー。

 別にこの街じゃなくても、人のいるところならどこでも良かったワケだけど。そーゆうことを聞きたいワケではない感じかな。

 目的ね、もう正直しょーじきに話せばいっか。別にこの街に悪さするために来たワケじゃないんだしね。


「別にー。街があったからとりあえず寄ったダケだけど」

「特に目的は無い、と?」

「そーだよ。フツーに食事したり、宿に泊まったりとか、たぶんそんだけ」

「ふうん……」

「信じらんない?」

「……ふむ」


 いやどっちなんその反応。だいたい、疑われてもこっちにはどーしよーもないんだケド。


「では、そうだな。その剣は何なのかね?」

「剣? 剣は剣でしょ」


 むしろそれコッチが聞きたいくらいなんだけど。空飛べる剣てナニ?

 まー便利だけど。もうちょいイイ感じに飛んでくれるなら。


「君は剣術か何かが使えるのかね? それともただの護身用なのかね」

「まあ、護身用、かな」


 いやまあ、めっちゃ守ってくれてるから。剣くん居なかったら何回も死んでるレベルだから。


「聞いたところ、君は一人でこの街に入ってきたようだが、連れはいないのかね」

「あえて言うなら、この剣くんが連れみたいな」


 なぜあえて言ったんだろあーし。まあ下手な人間よりよっぽど頼りになるのは確かだし、一人っつーかもはや二人だし。


「君くらいの年齢の、しかも女性が一人旅など、危険極まりないと思うのだがね。親は反対したりしなかったのかね」

「それは……」


 気がついたら一人旅になってたんだもん。別に旅する気とかなかったし。

 つーかウチの家族どーしてんだろ。ショージキ今までにアレコレありすぎで、そこまで頭回ってなかったケド。心配してるカナ? いやまだ半日くらいしかたってないから、あーしがいないコト気がついて無いかな?


「なにか事情があるのかね? 言葉も分からぬ異国に、一人で旅しなければいけない事情が」

「あったとしても、それチョー個人的なことだし、アンタに言う必要無くない?」


 ちょっとキツい言い方になった。家族とか家のコト思い出したら、なんかナーバス入ってきたし。ついついおっさんにぶつけてしまうわー。


「ふむ、まあ、それもそうだがね」


 おっさんもあーしが不機嫌になったのを感じたのか、そこで一旦、会話を途切れさせた。


 おっさんが少し引いたことを確認したあーしは、さっきからずっと考えていて、タイミングを見計らっていたヤツを、ここぞとばかりに切り出すことにした。


「つかノド渇いたんだけど。飲み物とかないの?」

「……用意しようかね。長引かせるつもりはなかったのだがね」


 なんかあーしのせいで長引いてるみたいな言い方するし。マジでこのおっさんおっさんだわ。いや当たり前だけど。

 用意するとか言いつつおっさんは部屋の外のやつに言いつけたみたいで、自分はすぐに戻ってきた。


「さて、来るまでにも話を続けようかね。時間は無駄に出来ないのだからね」


 一連の流れを経て気を取り直したみたいで、おっさんはまた話をし始めた。


「結局のところ、君の身元が判明すればいいのだがね。君が身分証を持っていたのなら話は早かったが、無いのならしょうがないのだね。そうなると質問をしていって君の身元を聞いていくか、あるいは……」

「あるいは?」


 ショージキずっと質問攻めされるのもウンザリするから、別の方法あんならそっちやってほしーんだケド。


「それなりの金を払って入場証を受け取るかだね」


 はいカネ! 手っ取り早くカネ!

 従姉妹イトコのアスナちゃんも言ってた。海外ではとりあえずテキトーにチップ渡してたら何とかなるって。つまりそーゆーこと?

 金払って済むならそれでいっか。無一文だったら困ったけど、いちおーお金なら持ってるし。拾った(意訳)金が。

 まあ金額とかゼンゼン分からんから、どれくらいあるのかゼンゼン分からんけど。一体いくら払えばいーんだろ。持ってる分で足りるカナー?


「それでいーなら払うわ。で、いくら?」

「いいのかね? では、五万リブリスだ」

「たけーよ」


 いや知らんけど、五万リブリスとかゆーのがいくらなのか。

 でも剣くんが反応した。それはつまり高いってコト。だから反射的に言ってしまったワこれ。


「持ち合わせが無いかね?」

「持ち合わせっつーか、額が高いっしょそれ」

「まあ、割高と言えなくもないがね」


 くそー、どんなもんなんだろ。ジッサイどれくらいたけーのか、おっさんの反応からは分からん。それが分からんと、こっちもどれくらいの感じでつっこめばいいかが変わってくるワケだし。

 アスナちゃんも言ってた。海外では値段通りに払うことはまず無いから、とりあえず値切れって。

 あーしの持ち合わせもいくらか分からんワケだし、とりま安く済むんならそれに越したことなくね? ってワケだし。


「もーちょい安くなるでしょ」

「まあ、それなら三万リブリスかね」


 一気に二万も安くなったし。これどーなのよ? これがフツーなん? それともこのおっさんがこんな顔してふざけたヤローなの?

 でも剣くんはまだ高いって言ってる。まだ安くなるって。なら、


「もう一声」

「うむ、二万九千リブリス」


 今度はきざんできやがった。

 もっと大胆ダイタンにいけよ! なんでこんなおっさんと値段交渉刻んでいかないといけないワケ!



 その後、何度か言い合って、けっきょく、最終的な金額は八千リブリスに落ち着いた。

 いや最初の五分の一以下かよ。値切らなかったらどんだけあーしに大損こかせてたんだよ。おっさんマジそーゆうとこだよ。


 交渉が終わったところで、ちょうど飲み物が届いた。

 ちょっと騒いで余計よけーに喉渇いたからちょうど良かった。おっさんも受け取って自分の分飲んでる。

 

 持ってこられたお茶みたいなのは、今まで飲んだことない味だった。ショージキ、どっちかというとあんまり好きではない。

 まあ剣くんは何も言わないから、飲んでも問題ないわけで、喉渇いてるから好みは置いといてすべて飲み干す。


「ちなみに、この飲み物もタダではないがね」


 マジふざけんなよおっさん。先に言えや。

 ……たぶんそれでも飲んだろうけど。つーか、ならせめてもうちょい美味しいのもってこい。


「……ちなみにいくら?」

「四百リブリス」


 それもたけぇ。でもわざわざ言うほどでも無い。そんな感じの剣くんの見解ケンカイ

 また値段交渉するのはメンドーだったので、あーしも何も言わない。


 とりあえず、比較対象として出てきた不味い茶が四百。これを二十杯飲める金を出せば街に入れる。うーん、どうなんだろ?

 つーか両方ぼったくられてるっぽいから、普通とは違うんだろーけど。大体、値切る前なら茶が百二十五杯飲める金を払わにゃいけなかったワケ? それは高すぎんだろ。たぶん。


 茶も飲み終わったし、もうここに用はネーワ。払うもん払って、とっとと中に入ろ。中で店とか見てみたら、四百リブリスがどれくらいの価値かわかるかな。


「じゃーおっさん。八千……と四百リブリス、払えば中に入れるんだよね」

「そうだがね」


 あーしはお金の入った袋を取り出す。

 問題は、八千ちょいリブリスは、どのコインをどれだけ出せばいいのかっていうこと。

 てゆうかまず足りるのかなんだけど、さすがに足りるよね……?


 しょーがないので、あーしは袋からテキトーに一掴みコインを取り出して、机に並べる。


「……数えてくれん?」

「なんで私が数えないといけないのかね」

「いや……あーし、コインとか数えるの好きじゃナイ系の人なんよね。てゆうか、おっさんが数えた方がいいでしょ。あーしも後から難癖ナンクセつけられたくないし」


 とかなんとか、テキトーなことを言って誤魔化す。

 分からんからおっさんに丸投げすりゃいーやという作戦。

 おっさんがワザと間違えたらどーしよーもないけど、さすがに目の前でそうはならんやろという期待。

 そしておっさんも、あーしがお金を数えられないほど物を知らないとまでは、さすがに思わんやろー。こっちは高校生やぞ。


 おっさんはいくつかのコインを取って、残りをこっちに戻した。どーやら足りたみたい。

 袋にはまだけっこー残ってるから、あーしはまだそこそこのお金は持ってるってことでいーんかな。


 おっさんが取るの見て、コインの数え方覚えようかとも思ったけど、一回だとさすがに、余計な四百もあるし。

 まあ、タブンあのコインがアレだろとは分かった。そう複雑ではないみたいだし。


 そしておっさんはあーしに何かを渡す。これが入場証ってやつね。

 なんで街に入るだけで金払ったりしないといけないの? とか根本的なことを思ったりもしたけど、まーそんなもんなんやな、と思っておく。


「ではこれで私は帰るが、くれぐれも街の中では問題を起こさないようにするのだね」


 おっさんが帰ろうとして、あーしもずっと握ってた棒をはなそうとする、そこでハッと気がついた。


「いやいやちょっと待って、おっさん!」

「なんだね? あとおっさんと呼ぶのはやめてくれないかね」

「いまさら? てか名前知らないし」


 あーしがそう言うと、おっさんはこれ見よがしにため息をついた後、


「ライネスだがね」


 と名乗った。

 でもあーしはそんなことどーでもよかったのでスルーして、


「いやだからおっさ、ライネっさん。あーしちょっと頼みがあるんだけど」

「変な名前で呼ぶのもやめてくれないかね??」


 おっさんがちょっと困惑したような上擦った声なのが面白かった。でもそれもスルーして、


「いやこの棒。これ無いとあーし言葉つーじないんだよね」


 途中から忘れかけてたけど、そーなんだよね。これマジ重要アイテムじゃん。

 つーかマジこれなんなんだろ?

 つまり“ほんやくコンニャク”ってことでしょ。食べて減らない分こっちは何度も使えるけど、お互い手に持ってないと使えないところは不便だけどね。

 つまり何が言いたいかというと、あーしは是非ゼヒともこれが欲しいというワケなんだけど。


「だからこの棒欲しーんだけど」

「あげられるわけないのだがね」


 まあ、そう言われるだろうとは分かってたよ。貴重キチョーなモノなんだろーね。ならば、


「売って欲しいって言ったら?」


 秘技、カネで解決の術。


「五万リブリスを値切るようなやつに買えるとは思えんがね」


 なんかイヤミな反撃された。


「そんなに高いん?」

「当然だがね。魔道具全般高価なものだが、これはその中でもさらに高価な部類なのだからね」

「マジか」

「まあ、この魔道具よりも高い物もいくらでもあるがね。そういう意味では、これはまだまだだがね」


 どっちだよ。

 まあタブン、あーしの今の持ち金じゃ買えないのはほぼ確実だろーな。


「貸し出し、とか」

「身分証も持たないやつに貸すバカは居ないと思うがね」


 いちいちうるせぇこのライネスとかいうおっさん。

 決めた、今後このおっさんの名前はマトモには呼ばねぇ。


 くそ〜。でもそうなると、マジどーすればいいんだってばよ〜。


「まあ、言葉が通じなくて苦労するのは分かるがね。……このまま私に無駄な時間を使わせられても困るのだがね」


 まー、おっさんの言うことは分かる。なんの義理も無いあーしに親切にする理由なんて、おっさんには何もない。


「そんなに困るなら、教会でお布施を払って“言の葉の神の祝福”でもかけて貰えばいいんじゃないかね。これなら貧乏人にも手が届くだろうからね」


 ん、今なんて?

 教会とかいうのに行って、お金払えば何とかなるってこと?


 あーしが色々聞こうとしたら、おっさんは鬱陶うっとうしそうにして、


「詳しくは教会に行って自分で聞くのだね」


 とか無茶苦茶なことを言う。

 それが無理だから頼んでんだろーがこのおっさんは。


 あーしがメンチ切っていると、


「さすがに教会にまでついていく義理はないね」


 と言い放つ。

 そりゃそーかもしれんけどさ……。


 おっさんはそう言って、いよいよ席を立とうとする。


「さて、もういいかね。いいかげん、手を放してほしいのだがね」


 あーしが握ったままの棒に目線をやりながら、おっさんがわずらわしそうな声を出す。

 しかしあーしにとっては、これを握っている今しか話せるチャンスはない。なんとかしてこのチャンスを繋がないといけない。

 あーしは何とか頭をひねる。

 おっさんがグイグイと棒を引っ張ってあーしの手から引き抜こうとするのに、握る手に力を込めてあらがいながら必死に考える。

 そして、ついにおっさんが両手で本格的に引っ張ろうとし始めたところで、あーしの頭にひらめきが舞い降りた。


「……そっ、それじゃ、事情を説明する手紙みたいなのをここで書いてよ! それなら……どーですか?」


 おっさんは実にめんどくさそうな顔をした後、


「執筆と紙代、合わせて一万リブリス」


 と、最後に盛大にぼったくった。


 

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