第91話 ふみちゃんの学校の文化祭ももう準備期間に入るのか

 さて、家庭科部の活動も無事終わり、食器や調理器具などを洗って片付け、俺たちは帰路についた。


 まあ、今日のチョコケーキをふるまうのとは別に、球技大会が終わったら、中垣内なかがいとには別途なんかお礼をしたほうがいいだろうなぁとは思うが。


 とはいえこの前のホタル観賞で結構金を使ったし、あんまり金がかかることはできないけどな。


 津田沼駅に到着したら女性陣と別れることになる。


「んじゃまた明日。

 ああ、明日は体育館のバレーコートを借りて、本格的な練習しよう。

 球技大会は明後日だから、ちゃんとボールがつながるようになってるか確かめたいし」


 俺がそういうと中垣内なかがいとがうなずいた。


「まあ、そうね。

 時間がなさすぎるけど、みんな揃っての練習をやらないよりはずっとましだと思うわ」


 そして東雲しののめさんがニシシと笑いながら言う。


「へたぴっぴたちがどれくらいうまくなってるかだけど、まあはたぴっぴだから結構うまくなってると信じてるよ」


 そういわれては俺は苦笑せざるを得ない。


「いやそういわれるとかなりのプレッシャーなんだけど?」


 やはりニヤッと笑いながら東雲しののめさんが言う。


「でもまあ、今までが今までだし?」


 南木なみきさんもうなずいていう。


「本当ですよね。

 何でもすぐうまくできるようになるなんてずるいです」


 まさかの南木なみきさんの追い打ちが来た。


「えええ、南木なみきさんは、俺を買いかぶりすぎだよ」


 まあ、そんなやり取りをしたあとで、俺は別方向の電車に一人寂しく乗り、船橋で東部アーバンラインに乗り換える。


 そして、ホームで到着していた電車に乗り、シートに座って発車を待っていたら声をかけられた。


「おや?

 あっちゃん、今日も遅めだったんだね」


 この呼び方をする女の子は隣に引っ越してきた、幼馴染のふみちゃん以外にはいないから、まあすぐわかるんだけどな。


 そしてふみちゃんは俺の隣に腰を下ろした。


「うん、ふみちゃんも今帰り?」


「うん、今日は再来週の土日にやる文化祭のクラスの出し物をLHRでどうするか決めてたんだ。

 と言っても一年生は基本飲食系はダメで、何らかのアトラクションでないと駄目なんだけどね。

 三年生は劇って決まってるみたいだし」


「ああ、飲食系は保健所とかに届け出たりしないといけないし、入学してすぐの一年には厳しいのかもな。

 そもそも 準備期間が結構長い文化祭を初夏にやるのは大学受験に支障が出ないようにってことだろうから、3年が劇限定なのは内容を決めたり準備に手間取らないようにって配慮なんだろうね」


「うん、僕もそう思う。

 でも、アトラクションも大変なんだけどね……」


「ふみちゃんがそういうってるということは出し物を決めるのになかなか手間取ってるってことかな?。

 学園祭のアトラクションの定番というと、お化け屋敷とか迷路とかが多い気がするけど」


 俺がそういうとふみちゃんはうなずいた。


「うん、そうなんだ。

 最近は遊園地にあるようなミニコースターやメリーゴーランド、コーヒーカップみたいなのを自作したりもするけどね」


「確かにそういったものも最近は文化祭のアトラクションとして増えてるみたいだな。

 とはいえ、そういうのは安全管理とかも大変そうではあるよな」


 俺がそういうとふみちゃんはコクっとうなずいた。


「それは確かに。

 そういうこともあって定番でのお化け屋敷でいいんじゃないっていう流れなんだけどね」


「リアル脱出ゲームとかも結構はやりみたいだけど……シナリオや謎を作るのも大変だしな……。

 いっそのことそういった手間を省きたいなら、ダーツやルーレット、あるいはトランプなんかでカジノっぽい部屋とかどうかな?」


 俺がそういうとえ? というように面食らった感じでふみちゃんが俺の顔を見ていった。


「ん、カジノ?」


「そうそう、ポーカーとかブラックジャックみたいなメジャーな奴でもいいけど、レッドドックみたいなちょっとマイナーでルールが簡単な奴のほうがいいかもね」


「レッドドック?」


「レッドドックはジョーカーを除いた札を1枚ずつ引いて行って、1枚目と2枚目の数字の間に3枚目が入れば勝ちなゲームだね。

 1枚目と2枚目の数字の間がどれくらい空いてるかで倍率が変わってきたりするはず」


「なるほど、ルーレットとかダーツなんかも密林とかで探せば安いのもあるかな?」


「パーティーグッズレベルならそんなに高くないものは売ってると思うよ」


「ふむふむ、なるほど、それもいいかも知れないね。

 うちの学校だと同じような企画はたぶんやらないような気がするし」


「チップ代わりに、キャンディとか駄菓子とかを使ってもいいかもね。

 買ったら駄菓子が増えて、負けたらなくなる程度でそんなに多く渡さなくてもいいと思うし」


「ふむふむ、そうなればそんなにお金もかからないかな?」


「多分ね」


「なるほど。

 1年生はお化け屋敷はやるクラスも結構多そうだし、明日カジノっぽい部屋を提案してみるよ」


「余裕があれば緑のテーブルマットをそれっぽく刺繍してみると雰囲気も出るかもな」


「うんうん、2週間あればそれくらいはできると思う」


「まあ、ふみちゃん一人でやることはないけどな」


「まあ、勉強で塾に遅くまで通ったりして余裕がない人も多いから、ぼちぼち協力してくれそうな人を募ってやってみるよ。

 それで、実際にカジノに出し物が決まったらでいいんだけど買い物に付き合ってくれないかな?」


「ああ、テーブルマットや刺繍の糸と針なんかの買い出し?」


「それもあるけど、あっちゃん今日遅かったってことは、同じ学校の女の子とバレーボールの練習してたんでしょ?」


「いんや、今日は家庭科部の部活動でチョコケーキ作って切ってみんなに振る舞ってたよ」


「えーなにそれずるーい」


「いや、ずるいって言われてもなぁ……」


 俺がそういうとふみちゃんは少しむくれたように言う。


「あーあ、僕もあっちゃんと一緒の学校がよかったなぁ。

 なんか毎日楽しそうだし」


「あーまあ、確かにうちに学校は体育系部活の強豪校でもないし、公立でも偏差値が馬鹿高い進学校でもないから、基本まったりしてるしな」


 俺がそういうと、やはりふみちゃんは少しむくれたように言う。


「そんなあっちゃんだからこそ、休みくらい僕と楽しくデートしてくれてもいいんじゃない?」


「ん、まあ気分転換も大事だと思うし、そろそろ真夏用のトップスも欲しいしな。

 ふみちゃんも夏用の私服とか見たい?」


 俺がそういうとふみちゃんはうって変わって笑顔で言う。


「それはもっちろん。

 じゃあ日曜日楽しみにしてるからね」


「了解、まあ、荷物持ちとしても期待してくれていいぜ」


「まあ、そこそこの荷物の量にはなるかもしれないしね」


 そんなことをつらつらと話していたら家に到着した。


「じゃあ、日曜日約束だからねー」


 そういって隣の家に入っていくふみちゃんを見送って、俺はスケジュール手帳に記入する。


 ”ふみちゃんと買い物デート”


 と。

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