第89話 中垣内のおかげでとりあえずちゃんとバレーボールをできるようにはなれたかな

「パスとサーブ、レシーブはできるようになったと思うけど、スパイクなんかはやっぱバレーコートでネットをはってやらないと練習は難しいかな?」


 俺は中垣内なかがいとにそう聞いてみた。


「ちゃんと練習しようとするなら確かにそうだけど、基礎的なことをやるならコートやネットはなくても大丈夫よ?」


 中垣内なかがいとはフフッと笑いそう答えた。


「お、そうなのか?

 じゃあ、どうすればいいんだろう?」


「そうね、最初はボールを使わないで、スパイクの助走とジャンプだけを繰り返し行って、フォームを固めるところから始めましょう」


「なるほど、確かにいきなりボールを使ってやるよりそのほうがいいのかもな」


 俺がそういうと南木なみきさんもうなずいていう。


「それなら、今からでもできそうですね」


「じゃあ、スパイクのうちかただけど右利きの場合、右足、左足、右足、左足の順に足を出すのだけど、1歩目の右足は小さく、2歩目は少し大きめに足を踏み出し、2歩目と3歩目の間で、両手を後ろに大きく振り上げ力を溜めて、3歩目は大きく踏み込みながら、後ろに軽く体重をのこしつつ、右足をメインにして左足は少し遅れるように、少し内側に向けつつ踏み込むの。

 とりあえず一回やって見せるわね」


 中垣内なかがいとの言うことに俺たちはうなずく。


「ああ、口で言われるだけだと、全くわからないから実際にやって見せてくれると助かるよ」


「お願いします」


「それじゃあ、やるわよ」


 中垣内なかがいとが実際に助走の仕方を目の前でやって見せるが、口で言われるだけでは全くと言っていいほどわからなかった足の動かし方が、見ることでなんとなくわかった気がした。


「なるほど、ちょっとやってみるか」


 俺は中垣内なかがいとがやって見せた助走の仕方をまねして、ジャンプしてみた。


「ちっがーう。

 最後は両足で同時に踏み切らないの!

 メインは右足で左足はフォローするだけ」


「お、おう。

 すまん」


 何度かやっているうちにようやく形ができたと思う。


「そうそう、そんな感じよ」


 俺と中垣内なかがいとのやり取りに南木なみきさんは若干引いている。


「き、厳しいですね、アハハハ……」


「はい、じゃあ次はあなたよ」


「は、はい、頑張ります」


 南木なみきさんも俺同様に最初は苦労していたが、何度も繰り返すうちに助走のコツはつかめたみたいだ。


「じゃあ、次はジャンプしたときに、手をバックスイングさせずに、手を伸ばして飛んできたボールに高い位置で触る練習をしましょう」


「なるほど、パスの時に手でキャッチして投げ返したり、ヘディングで入る位置を覚えたりするのと同じようなもんか」


「そうそう。

 上がったボールに対して助走やジャンプのタイミングを覚えながら、腕を仕上げるスパイクのタイミングも覚えられるはずよ。

 私がボールを上げるからやってみて」


「了解」


「わかりました」


 中垣内なかがいとぽんとボール俺の前にあげてくるので、ボールに合わせるように助走しジャンプ、手を伸ばし触るようにやってみ9る。


「だめだめ、タイミングが合ってない。

 ボールは可能な限り高い位置で触る。

 あと、ボールの真下に入るんじゃなくて、ボールは体の少し前で触るようにしないとちゃんと相手コートに入らないし、スパイクの威力も出ないわよ」


「おう、わかったぜ」


 ジャンプして体の前のほうでボールに触るタイミングがあってきたら、ボールを持ったら、投げる方の肩を後ろに引いて、腰を回転させるようにして前に持って行き、左手を体にひきつけ、お腹に力を入れてボールを投げる練習。


 さらにはジャンプをせずにボールを打つ練習とすすみ、最後にはトスからのオープンスパイクの練習まで何とかこぎつけた。


「とりえず付け焼刃ではあるが何とか形にはなってきたかな?」


 俺がそういうと中垣内なかがいとは笑いながら言った。


「まあ、だいぶましにはなったんじゃない?

 実際のところはネットを張って、試合形式でやってみないと何ともわからないけど」


 中垣内なかがいとの言葉に南木なみきさんがペコっと頭を下げていった。


「本当にありがとうございました。

 これで全然ボールが入らなくて、会場がしらけてしまうということはなくなりそうです」


 俺も中垣内なかがいとへ頭を下げてから言う。


「本当にありがとうな」


「べ、別にあなたたちのためにやってるわけじゃないし。

 そんなに頭を下げられるようなことじゃないわよ」


 中垣内なかがいとは家庭環境から頼られたり褒められたりすることに慣れてないのかもしれないが、本当にいいやつだと思うな。


 そしてボッチで誰とも会話もできないような状況ではなく、クラスメイトと球技大会に向けて楽しく練習をできるのはすごく楽しく幸せなことだとも思うよ。

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