第85話 中垣内のコーチは結構スパルタだ

 というわけで放課後、南木なみきさんと中垣内なかがいとと俺の三人でバレーボールの練習をすることに。


「それじゃ、地道にパスの練習をまたやったほうがいいかな?」


 俺がそういうと南木なみきさんはうなずいたが、中垣内なかがいとは首を傾げた。


「また?

 あなたたちもう二人っきりで練習していたりしたの?」


「あ、ああ、昼休みにちょっとだけな」


 俺がそう答えると中垣内なかがいとは少し不機嫌そうに言った。


「ふーん、そうなんだ……じゃあどれくらいうまくできるようになったか、二人でパス練習して見せてくれない?」


「お、おう、じゃあ南木なみきさん、やろうか」


「あ、はい、わかりました」


 俺たちは、昼休みにやったようにボールをオーバーパスの状態でキャッチしあう。


 まあ、昨日よりはだいぶましになってるとは思うし、しあさっての方向へボールは飛んでいったりはしないし、そこそこのスピードでパスはできてると思う。


 それを見て中垣内なかがいとが言う。


「ふーん、まあ、多少はましになってるみたいね。

 でも、あんまり実践的じゃないし、ちょっとやり方を変えてみない?」


 俺と南木なみきさんは顔を見合わせたが、とりあえず中垣内なかがいとの話を聞くことにする。


「やり方を変えるってどういう風に?」


「わたしがあなたたちにパスを出すから、サッカーのヘディングでボールを私に返してみて」


 中垣内なかがいとの言葉に南木なみきさんが首をかしげる。


「え、ヘディングですか?」


「ええ、ちなみにバレーボールは頭や足をつかってボールを返しても反則にはならない競技なの。

 といっても実際の球技大会でもそうしなさいっていうわけじゃないわよ?

 手を使わずヘディングをして、相手へ返すことができるようになれば、ボールへの恐怖心が薄れるうえ、真正面に入る感覚を磨けるからそうしてみたらってこと」


 中垣内なかがいとの説明に俺は納得してうなずいた。


「なるほど、そういうことか。

 確かにヘディングで返そうとすればボールの真正面にちゃんと入る必要があるもんな」


「そういうこと。

 それじゃあ、私が二人の少し横なんかに向けてボールを投げるから、二人はヘディングで私のほうへ帰すようにしてね」


「ああ、わかった。

 頼むな」


俺がそういうと南木なみきさんもこくっとうなずいた。


「わかりました。

 よろしくお願いします」


 俺たちはそれぞれ中垣内なかがいとから少し距離をとる。


「んじゃ、行くわよー!

 まずは秦君!」


「おう!」


 中垣内なかがいとがオーバーパスでほおったボールが、俺の少し右へ飛んでくる。


 よし……ボールの真正面に入って……


「あだっ」


 ヘディングで返そうとしたが顔面にぶち当たってしまった。


「へたっぴ。

 なにやってんの?!」


「あーすまん。

 膝を落としてヘディングしないと駄目なコースだったか」


「バレーボールのパスは肘と膝が大事だからね。

 特にアンダーパスでボールをコントロールするには膝の屈伸でやらないといけないから」


「それはオーバーパスでもかわらないってことか」


「そういうことよ」


 そして中垣内なかがいと南木なみきさんに声をかけた。


「そっちもいくわよー」


「は、はい!」


 そしてひゅっとボールをほおった。


「え、えい!」


 南木なみきさんはうまくヘディングでボールを打ち返して見せた。


「ん、その感じでいいんじゃない」


「ありがとうございます」


 南木なみきさんに嫉妬して嫌がらせをしていた中垣内なかがいとだったが、二人がすっかり仲良くなれたみたいでよかったよ。


 そしてボールの正面に入ることと、膝を使ってボールをコントロールするということをうまく教えてくれたことにはすごく感謝だ。


 まあ、やり方は結構スパルタだけどなぁ。

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