第83話 勉強でもスポーツでも基本に立ち返るのは大事だな

 さて、球技大会に向けてバレーボールの練習を始めたのはいいが、正直今の俺がこんなにうまくできないとは思わなかった。


 中学の時はサッカーやバレーなどを昼休みや放課後に遊んでいたはずとはいえ、実質的には何十年もボールに触ってないのだから当然ではあるんだけどな。


 逆に現在の俺は普通自動車運転免許は持っていないが、自動車を運転しろと言われればちゃんと運転できる自信はある。


 もっとも、免許センターで筆記試験を受けて合格できるかはかなり怪しいけども。


 まあ、バレーボールは、ボールをつかんではいけない、同じ人間が二度以上ボールに触ったり保持し続けてはいけない、落としてはいけない、コート外に飛ばしてはいけない、ネットの上を通さなければいけないなどといろいろ制約が多く、実はかなり難しい部類に入るスポーツかもしれなかったりする。


 で、こういう時どうするかといえば勉強と同じだ。


 要は地道にできる部分からやり直してボールに慣れていくしかない。


 そして、翌日の昼休み早速俺はボールになれるための行動を開始することにした。


 そして俺は体育倉庫のバレーボールを借りて練習をしようとしたところで南木なみきさんとばったり会った。


「あれ、南木なみきさんもバレーボールを取りに?」


俺はそう聞くと南木なみきさんはバツが悪そうに苦笑して答えてくれた。


「あはは、はい。

 今のままだと皆さんの足を引っ張ってしまいますし」


 南木なみきさんの回答に苦笑しながら言う。


「そうだよな。

 せっかくの球技大会でみんなで楽しむはずが、足を引っ張って嫌な思いをさせたくはないよな」


「はい…それに陰で何か言われるのも嫌ですしね」


「まあ、それもそうだよな。

 じゃ、まあちょうどいいし二人でまずはボールに慣れるためにパスをしあおうか。

 ただ、いきなりちゃんとしたパスをするのは難しいから、まずはボールをつかんで、投げる練習から始めよう」


 俺がそういうと南木なみきさんは首を傾げた。


「え?

 バレーボールってボールをつかんではいけませんよね」


「まあ、そうなんだけどさ。

 でも例えば自転車に乗れるようにするときは最初に補助輪をつけて転ばないようにしながら練習するだろ」


 俺がそういうと南木なみきさんはうなずいた。


「確かにそうですね」


「だから、まずはボールをいじることになれるのが大事なんじゃないかなって思うんだ。

 俺たちがうまくできない理由はたぶん三つあって、一つは飛んでくるボールそのものに対する恐怖」


「確かに失敗して顔に当たったりしたら痛そうですからね。

 やっぱり怖いのは確かだと思います」


「そうそう。

 もう一つはバレーボールはボールをつかんではいけないから、ボールを瞬時に他の人間へ渡す動作をしないといけないっていう焦り」


「そうですね。

 確かにそれはあると思います」


「あとはうまくできない自分がみっともないという、周りから見た自分がかっこ悪く見えるのではないかという恐怖だと思うんだ」


 俺がそういうと南木なみきさんはこくこくとうなずいた。


「ああ、それは確かにありますよね。

 うまくできないとやっぱり恥ずかしいですし」


「だから、まずは自分にできることから初めてボールの扱いに慣れてボールそのものの怖さや、失敗することへの恐怖をまず少なくしていく。

 それで自信がついて慣れてくれば、瞬時の判断や行動動作に対しての焦りもなくなっていくと思うんだ」


「わかりました、ではどうするのですか?」


「うん、まず初めはボールに慣れる意味で、オーバーハンドパスの基本の形で、足は肩幅程度に開き、どちらかの足を前に出して、おでこの前の少し離れたところで両手を構え、親 指がまゆげの少し上にくるようにしながら、両手で三角形を横に広げたような形を作る。

 それで親指から薬指4本でボールを包み、小指は添えるだけで力を入れないように」


 俺が見本として姿勢をとって見せると南木なみきさんも同じような姿勢をとる。


「こう……でしょうか」


「うん、そんな感じ。

 で親指から薬指4本でボールを包み、ゆっくり目の速度で南木なみきさんの頭上にボールを投げるよ」


「はい、いつでもどうぞ」


 俺がつかんでいたバレーボールを投げると南木なみきさんはそれをキャッチする。


「なるほど、これなら確かに焦らないでできますね」


「うん、大昔のサッカー漫画に”ボールは友達怖くない”っていうセリフがあるんだけど、やっぱりボールに慣れるにはまず簡単なことから始めるのがいいと思う」


「そうですね、では行きますよ」


「ほいさ」


 そうやって、お互いの間でバレーボールをキャッチしてはなげるを何度も繰り返す。


「じゃあつかむ時間を少しずつ短くしていこうか。

 ボールが両手にしっかり入ったら、早めに指で弾いて相手に返すように」


「わかりました」


「あと、姿勢が崩れないようにも注意しながらやらないとな」


「そうですね」


 俺たちが50回ほどボールを投げあったところで昼休みは終わった。


「まあ、昨日よりはバレーボールに慣れたと思うし一歩前進したかな?」


 俺がそういうと南木なみきさんは笑顔でうなずいた。


「はい、やっぱり秦君ってすごいですね」


「ん? 別にすごくはないと思うけどな」


「いえいえ、すごいですよ。

 うまくできないことでも、まずはできることからやり直して、少しでもうまくできるようになるだけでこんなにも自信がつくんですから」


「ああ、やっぱり自信は大事だよな。

 失敗することをびくびく恐れてばかりだと何もうまくいかなくなるし」


「そうですよね」


「まあ、そろそろ教室に帰ろうか。

 授業に遅れてもまずい」


「はい、そうしましょう」


 これでとりあえず球技大会へ参加して、俺や南木なみきさんが恥をかかないで済む道筋は見えたかな?

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