第62話 白檮山さんと新發田さんはだいぶ仲良くなったようだ

 さて、勉強会はその後は特に変わったこともなく無事終了して金曜日。


 放課後はパティスリーでのバイトだ。


 そして放課後になり、来週はゴールデンウィークなので、入るシフトを増やすべきなのかなどと考えていたら新發田しばたさんが笑顔で俺に声をかけてくれた。


「秦君、バイト先まで一緒に行きませんか?」


「あ、うん、いいよ」


 俺たちは並んで校門を出て、バイト先のパティスリーへ向かう。


新發田しばたさんは、パティスリーのバイト、続けられそう?」


 俺がそう聞くと新發田しばたさんは笑顔で答えた。


「はい、白檮山かしやまさんにはいろいろ丁寧に教えていただいてます。

 それにお掃除とかは秦君が大体やってくれてますから、大変なことはないです」


「お客さんと会話をしたりとかも大丈夫そう?」


「あはは、それはまだまだですけど……少しずつ慣れていってくれればいいって言ってくれてますので」


「そっか、白檮山かしやまさんは、気さくでいい人だよね」


「はい、ただちょっと今困っていまして」


「ん、何かあったの?」


「銃剣乱舞の推しって、誰って聞かれても銃剣乱舞って、私知らないのですよね」


「あ、ああ。

 銃剣乱舞は女性に人気のある銃や剣といった武器をイケメンの男に擬人化したパソコンのブラウザコンピューターゲームだね。

「銃剣女子」なんていう固定の女性ファンが出るくらいの人気ゲームだよ。

 アニメ、ミュージカル、コラボイベントなんかも結構あったはずだよ。

 さらには歴史や武将を好む“歴女”に加え、日本刀に夢中になる“刀剣女子”が登場して、おのおのが“推し武器”を見に全国の博物館や展示会を回ったりして話題になってるね」


「へえ、そうなんですか。

 さすが秦君は物知りですね」


「まあ、さすがにゲーム自体の人気は最近かなり下火みたいだけど」


「そうなんですか?」


「銃剣乱舞に限った話じゃないんだけど、ソシャゲやブラゲはやること自体はかなり単純だからね」


「あ、そういえば週刊少年ホップの漫画のロウキューや黒子のバレーの推しも聞かれましたね」


「あー……、そうなんだ」


 どう考えてもこれってBLカプの多い同人タイトルだよなぁ。


「フォーク×皿」「鉛筆×鉛筆削り」「スマホ×充電器」「ウィルス×セキュリティソフト」「ネクタイ×Yシャツ」「スキャナー×プリンター」みたいな高度な擬人化BLとかじゃ無くて良かったと思うべきか……いっそそっちならまったく意味がわからなかっただろうと残念がるべきか。


 そんな話をしている間にバイト先に到着。


「おはようございます」


「おはようございます。

 王生いくるみさん、白檮山かしやまさん」


 新發田しばたさんが店のドアを開けて、店の中へ挨拶をした後に、俺も続いて王生いくるみさん、白檮山かしやまさんへ、続けて挨拶する。


「はい、おはようございます。

 おやおや、今日はそちらの二人で一緒に出勤ですか?」


 王生いくるみさんがそういうと白檮山かしやまさんも言った。


「二人は仲良しだねー」


「あははは……」


 二人にそう言われて苦笑する新發田しばたさんと俺だが、とりあえず服を着替えてバイトの準備をしないといけない。


 俺は奥に行って王生いくるみさんに聞いた。


王生いくるみさん、ここ最近で俺が撮影した動画を上げた後、来客って増えました?」


「ええ、平均で二組2000円ほど一日の売り上げが上がっていますので、とても助かっています」


「おお、それはよかったです。

 このまま、動画も加えた広告などで新規客を継続獲得しつつ、リピーターを増やしていけば、売上もだんだん増えていくでしょうしね」


 飲食でも風俗でも売上げアップの5原則というのは大体同じように適用できる。


 1、新規客を獲得する

 2、既存顧客の流出を防止しリピーターにする

 3、購入回数を増やす

 4、買い上げ点数を増やす

 5、単品あたりの購入価格を上げる


 ここでおざなりになりがちなのが2なんだ。


 新規とリピーターには「1:5の法則」というのがあり、新規顧客を獲得するためには、リピーターの5倍コストをかける必要があるという法則なのだがだからこそ新規客の獲得ばかりに目が行くことが多い。


 だけど、実際に大事なのはそこまでお金がかからないで済むリピーターを増やしていくことなんだよな。


「秦君がうちのお店へ来てくれて、本当に助かっていますよ」


「いえいえ、それほどでもないですよ」


 なんだかんだで女性のオーナーパティシエに対してのほうが男のそれよりはずっとやる気は出るもんだ。


 男なんてそんなもんだからな。


 それから白檮山かしやまさんへ俺は声をかける。


「あー、白檮山かしやまさん。

 ちょっと二人だけでお話したいんですがいいですか?」


「ん、いーよ?」


 そして俺は新發田しばたさんにも声をかける。


新發田しばたさん、やばそうなら俺たちを呼びに来てくれる?」


 新發田しばたさんはコクっとうなずく。


「あ、はい。

 わかりました」


 んで、休憩室で俺は白檮山かしやまさんに聞く。


白檮山かしやまさん。

 新發田しばたさんを腐の沼に引きずり込もうとするのはやめてあげてください」


「えーそれはひどい言いがかりだよ」


「あれ、俺の勘違いでした?」


新發田しばたさんに攻めの反対は何ですかって聞いても「守り」ってかえってきたし、まだまだ真っ白なままだからね」


「まあ、そこで「受け」と答えるなら、普通に「腐」と認定されるわけですよね、それ」


「そうそう。

 秦君はもうばっちりだから」


「いや、だから俺はBLはたしなみ程度だって


「たしなみにしては無機物カップリングとか詳しいし」


「いや、黒板×チョークくらい知ってるもんでしょう?」


「いや、それは普通じゃないと私は思うけどね。

 とはいえオタクの世界に入ったら半自動的に腐女子になっていた、というパターンが多いみたいよ」


「あー、まあわかります。

 毀滅でも腐の神フノカミ神楽カグラ臀部でんぶ”とか同人誌でネタが出てそうですしね」


「いや……その発想はなかった。

 腐女子の呼吸ネタは見たことあるけどね。

 腐の神フノカミ神楽カグラ臀部でんぶ”つまり薪攻めだね」


 やべ、火に油を注いだかもしれない。


 そこへ新發田しばたさんが休憩室へやってきた。


「あのー、お客さんにおすすめ質問されてるので戻ってきてもらえますか」


「あ、ああ、そうだね」


俺がそういうと白檮山かしやまさんも、笑顔で答えた。


「あ、ごめんね。

 今戻るね」


 とりあえずはなあなあになったが新發田しばたさんが腐女子になる日は遠くないかもしれない……。

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