第46話 ランチョンテクニックを使ったこともあって南木さんと中垣内も仲良くなれたかな

 さて、急遽だが明日ユアチューブの宣伝用動画を撮影して、それを配信することになった。


 で、どうせならこの機会を利用して、南木なみきさんと中垣内なかがいとの仲も取り持とうかと思う。


 二人だけだと気まずいかもしれないから、中垣内なかがいとと面識のある弥生ちゃんも呼ぼうか。


 まずは中垣内なかがいとへメッセージを送る。


中垣内なかがいとは明日の午前中、暇してる?』


『うん、大丈夫だよ』


『じゃあ、明日の朝10時に駅前のパティスリーのアンドウトロワに来てくれないか?』


『了解。

 スイーツおごってくれるの?』


『ああ、おごりだよ』


『やったー、明日楽しみにしてるね』


『んじゃ、また明日な』


『うん』


 で、次は南木なみきさんだ。


『こんばんは、南木なみきさん』


『はい、秦君。

 今晩は』


『突然で申し訳ないけど、明日の午前中って時間あるかな?』


『ええ、大丈夫ですよ』


『もしよかったらなんだけど、俺がおごるから、明日の朝10時に、駅前のパティスリーのアンドウトロワに来てくれないかな?』


『パティスリーですか?』


『うん、人の輪に入るのに慣れるためにも、またほかの女の子と一緒に、イートインスペースでおしゃべりしたりなんてしてみたらどうかなって』


『あ、なるほど。

 ありがとうございます。

 では明日の朝10時に駅前のパティスリーのアンドウトロワですね』


『うん、それじゃよろしくね』


『はい』


 で、最後は弥生ちゃんだ。


『今、大丈夫?』


『大丈夫だよー』


『前に靴を選んでもらったお礼もかねて、パティスリーでスイーツ食べない?』


『スイーツかぁ、食べたら太らないかなぁ?』


『多少なら、そこまで心配しなくても大丈夫だよ』


『そうだよね。

 うん、じゃあいくいく』


『じゃあ、明日の朝10時に駅前のパティスリーのアンドウトロワで』


『了解だよ』


 よし誘った相手が全員これそうで良かったぜ。


 という訳で翌日。


 動画撮影用に必要な機材一式をカバンに詰めてパティスリーへ向かう。


「おはようございます」


 王生いくるみさんは今日も早い。


 そして白檮山かしやまさんに、新發田しばたさんも来ていた。


白檮山かしやまさんもおはようございます。

 今日はよろしくお願いしますね」


「うん、まかせておいて」


新發田しばたさんも、動画撮影に協力してくれるのかな?」


「あ、はい。

 それに働く前に、スタッフの方々がどんなことをしているのかも知りたいですし」


 で、10時前に中垣内なかがいとがやってきた。


 前に映画を見に行った時と同様に、やけに気合を入れておしゃれをしてきているな。


「おはよう中垣内。

 あ、それ俺が買ったチョーカー?」


「え、ええそうよ。

 せっかく買ってもらったんだからってつけてみようとしたのはいいけど、服に合わせるのが大変だったわよ」


 そういいながらもまんざらではない様子の中垣内なかがいと


「ああ、そうか。

 小物も服に合わせないとだめだしそれは悪かったな。

 でもすげー似合ってるし、可愛く見えるぞ?」


 俺がそういうと照れたように少し赤くなり、それからめっちゃいい笑顔になる中垣内なかがいと


「そ、そうかな、えへへへ」


 そして南木なみきさんと弥生ちゃんもやってきた。


南木なみきさん、弥生ちゃん、おはよう」


 俺がそういうと南木なみきさんはぺこりと頭を下げ挨拶を返してきた。


「はい、おはようございます」


 そして弥生ちゃんは小さく手を挙げていった。


「おっはよー。

 あっ君さ、こんなにいっぱい女の子が来るなんて、わたし聞いてないよ?」


 弥生ちゃんにかぶせるように中垣内なかがいとも言った。


「そうよそうよ」


「あ、ああ、ごめんごめん。

 でも、俺のおごりなのは間違いないから、まずはみんなでイートインへ向かおうぜ」


 俺が誘った三人は顔を見合わせた後で、こくこくとうなずいて店へ入り、俺が案内するイートインスペースへ着席させた。


 南木なみきさんと中垣内なかがいとを隣に座らせ正面へ弥生ちゃん。


 人間のパーソナルスペースは前に広く、左右と後ろは狭い。


 そのため、正面の人間よりも横の人間のほうが気を許しやすいので、親しくなりたい人を隣同士に座らせたほうがいい。


「じゃあ、メニューはこっちのお任せでいいかな?」


 三人がうなずいたので、今日は少し変わったケーキで行こうかと、デリス・ピスターシュとショコラ・シブーストをセレクトし、紅茶を用意してテーブルへもっていく。


「お待たせしました。

 当店自慢の一品の、デリス・ピスターシュとショコラ・シブーストです」


 俺がそういうと南木なみきさんが首をかしげて言った。


「デリス・ピスターシュとショコラ・シブーストって、何のケーキなのですか?」


「デリス・ピスターシュはピスタチオのババロワとバニラのムースに酸味を利かせたベリーのジュレのケーキ。

 ショコラ・シブーストはカスタードクリームにゼラチンとイタリアンメレンゲ、そこにチョコレートを混ぜ合わせ作る、クリームを使ったケーキですよ」


「それは美味しそうですね」


「どうぞ皆さん召し上がれ」


 俺がそういうと南木なみきさんはニコッとほほ笑んでうなずいた。


「では遠慮なく」


 中垣内なかがいともうなずいて言う。


 そして弥生ちゃんは……。


「ねえ、あっくん。

 ケーキを二個も食べたら、ふとらないかな?」


「たまには大丈夫だと思うけど、気になるなら両方ちょっとずつ食べてみたら?

 残りは俺が食べるよ」


「あ、うん、ならそうするね」


 という訳で、三人はケーキを食べながら、おしゃべりを始めた。


 ちなみに食事を一緒にすることで、相手に好印象を持ってもらう心理学的なテクニックを、ランチョンテクニックという。


 人は口にものを入れているとき、口の中の感覚に注意が向き、思考が食事に集中するため、相手の話を受け入れやすくなる。


 さらに、甘くおいしいものを食べると「ドーパミン」「エンドルフィン」「ノルアドレナリン」「セロトニン」などの脳内ホルモンが放出され、リラックス状態になり「快」という感情が生まれる。


 そして人は「快」を感じたとき一緒にいた相手や話題も「快」と結びつけて記憶するため、甘くおいしい物を食べながら会話すると、同じ空間にいた人や話の内容について「素敵な人だったな」「いい話だった」と好感を抱きやすくなるのだ。


 ただ”甘いものは別腹”となってしまうのは、そのせいでもあるし糖質は中毒性が高いので、ほどほどにしないといけないのだがな。


 まあそういった俺のおぜん立てもあって南木なみきさんと中垣内なかがいともすっかり打ち解けたようだ。


 そうしたらお店の宣伝の動画撮影だな。


 まず宣伝動画は2分位ほどにまとめることも必要で、最初の5秒が最も重要。


 そして飲食店の場合はお店の内装の雰囲気やスタッフの対応がどんなものなのかを伝えるのが大事。


 どういったお客さんに、来てもらいたいのかを、はっきりさせるのも大事だな。


 あとは場所の紹介も忘れずに行う。


 店舗の場所の住所と、駅からの簡単な地図に道順を収録しておくと、実際の来店率に大きな差が出るらしい。


 そしてほかの店とこの店で、何が違うのかというウリをはっきりさせるのも大事。


 うちは全部ハンドメイドであるということを説明し、お店のエントランスやそこからの内装の映像からスタートし、王生いくるみさんたち店舗スタッフの言葉をしっかりと撮影して見せることで、お店の熱意を伝えられるようにする。


 そしてイートインスペースで食べている三人に顔出しの許可をとったうえで、230円のカットロールケーキをおいしそうに、おしゃべりしながら食べている様子も撮影する。


 そしてユアチューブと、インスタキログラムとオフィシャルHPをリンクさせて、ユアチューブだけでなく、インスタキログラムからの集客の導線経路も作る。


 これで来客が増えるといいんだけどな。

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