第28話 中垣内が遊びに誘われなかったからとすねてるようだ

 さて、南木なみきさんを、いつものメンバーに加えて、日曜日に遊びに誘うことには成功した。


 後は当日に南木なみきさんがうまく周りになじめるように、俺が調整して取り図るだけだな。


 で、今日は木曜日なので、放課後は中垣内なかがいととの動画撮影なんだが……?


 なんか中垣内なかがいとがふくれっ面している。


「なんか、むすっとしてるが一体どうした?」


「だって……」


「ん?」


「なんで、あたしは誘ってくれなかったの?」


「ああ、日曜日の話か?」


「そうだよ」


 そのことについてはちゃんとした理由があるんだがな。


「お前には悪いが、今回は南木なみきさんがボッチなままを何とかしたくて誘ったやつだからな。

 お前は南木なみきさんに対して中傷の書き込みをしてるから、ちょっと一緒に遊ぶのはきついだろ?」


「う……それはそうかも」


「まあ、お前にしてはもうとっくにすんだことなのかもしれないが、こういうのはやられた方はそう簡単に記憶から消せるものじゃないってのもわかってくれ」


「う、うん」


「とはいえ、南木なみきさんが、普通に人の輪の中に加わって遊べるようになれば、そういうのを気にしすぎるのもどうかと思うから、そのうちお前もさそうさ」


「うん、わかった」


「とは言え、個人的にはお前と二人でいる方が気楽でいいんだけどな」


「え? それっていったいどういうこと?」


「俺とお前ってほかのクラスメイトに見せてないような部分も、お互いに見ているからその分気遣いとかいらない感じがするだろ」


「うん」


「だからさ。

 お前は俺にとってちょっと特別なんだよ」


「あたしがあんたにとって特別?」


 中垣内なかがいとはそういってニヘラと笑った。


「そうなんだ、あんたにとってあたしは特別なんだ」


 まあ、特別というか特殊というか、まあ最初のやり取りがああだったからな。


 いちいち細かく目元や口元の状態や雰囲気を観察して相手を不快にさせないように言葉を選ばないといけない段階は、とっくに過ぎてるから軽い会話もできるわけだ。


 異性とそれなりの関係を築き上げるには、まずは事務的な挨拶などの接触回数を増やしつつ、不快でないという自分の印象を相手に残す必要がある。


 それの積み重ねによってある程度の信頼を得れば、今度はプライベートなことも少しずつ話していけるわけだ。


 これを言ったら相手は不愉快に感じるかな? といちいち考えたりして会話が途切れてしまうのもよくはないが、相手が不愉快に感じていそうなら早めに会話を切り上げるのも大事だ。


 結局相手を細かく観察して、小さな気遣いができるようにする必要があるわけだが、いつもいつもそれでは疲れてしまうのも事実だ。


 だから、多少なことでは不快感を示す状態から脱している、中垣内なかがいとと二人きりでいるのは結構気楽なのだ。


 まあ、中垣内なかがいとは、俺が足のふくらはぎを触っても嫌がらないのは間違いないし、すでにかなりの安心感は持ってると思う。


「んじゃま、そろそろ撮影に入るぞ」


「はーい」


「ああ、それから今回から何日か分の動画撮影をまとめてやろうと思うんだが大丈夫か?」


 俺がそう聞くと中垣内なかがいとは首を傾げた。


「いいけど、なんで?」


「やっぱり動画の投稿間隔は短い方がいいらしいから、毎日1本は上げたいんだ」


「そうなの?」


「そうらしい」


「なら、そうしようよ。

 そうすれば再生回数とか登録者数も増えるんでしょ?」


「と思うぜ。

 じゃあ、そういうことでよろしくな。

 じゃあ始めるぞ」


「おっけー」


「さてさて、童貞のケンジと」


「処女のオトメのコンビで送る」


「グダグダ高校デビューチャンネルー。

 さて、今日はダイエットについてだ」


「ダイエットって大変だよねー」


「と思うやつが多いんだが、実ははそんなに大変でもないんだよ」


「え?!

 そうなの?」


「オトメはダイエットって言ったらどんなことを思い浮かべる?」


「えっと、ご飯を抜いたり、走ったりとか?」


「ぶぶー。

 ごはん抜きは腹が減ってドカ食いしてしまいかえって太りやすくなるだけだし、走っても大してカロリーは消費しない」


「じゃあどうすればいいの?」


「じゃまあ実際に……」


 そういうと俺はカップのバニラアイスと今はやりのタピオカミルクティーを目の前に置いた。


「さて、この脂肪分たっぷりのバニラアイスと甘いタピオカミルクティーはカロリーが同じなら、どっちが太りやすいと思う?」


「それは脂肪分たっぷりのバニラアイスじゃないの?」


「ぶぶー、実はタピオカミルクティーのほうがずっと太りやすいんだ」


「え?それ本当?」


「ああ、まずタピオカミルクティー、Mサイズカップは400キロカロリー前後。

 含まれている糖質は角砂糖約18個分の75グラム前後で、塩ラーメン1杯とカロリーが同じくらいだったりする」


「え、そんなに?」


「バニラアイスは糖質が半分の40グラムくらい、脂肪が20グラムぐらいで、タンパク質が10グラムぐらいと、意外と栄養バランスはいい。

 カルシウムなんかもとれるしな」


「でも脂肪がそれだけ多かったら、やっぱり太るんじゃないの?」


「いやいや、何かを食べて太るかどうかは糖分の多さのほうが重要なんだ。

 糖分をたくさんとると、血液中の糖分の濃度が上がるんで、それを脂肪に変えようとするんでな。

 逆に脂肪を摂取してもそのままおなか周りの脂肪として蓄積されるわけじゃない。

 だから寒い季節のアイスクリームはちょっとと思うかもしれないけども、ケーキやタピオカミルクティーみたいな糖分や小麦が多量に含まれてるものより、ずっと太りにくいから甘いものが食べたかったらアイスクリームがおすすめだ」


「そうなんだ」


「あと、食べ物はバランスと食べる順番が大事。

 まずは生野菜のサラダやフルーツを食べてから、たんぱく質の多い卵や牛肉や豚肉なら赤身、鶏肉なら胸肉やささみなどを食べて、最後にご飯やパンなどを食べるようにすればだんだん痩せていくはずだ」


「それはどうしてなの?」


「まず、生野菜のサラダやフルーツを食べるのは食物繊維やビタミンミネラル、ポリフェノールに酵素を摂取するため、そのあとたんぱく質を食べるのは消化しづらいたんぱく質を食べると満腹感が早まるためだ。

 そうすれば糖質をとりすぎることはほぼなくなるからな。

 後は時間をかけるためにもよく噛んで食べること」


「それだけで痩せるの?」


「ああ、ゆで卵や赤身肉むね肉やささみは摂取カロリーより消化に必要なカロリーのほうが多いから、計算上ではそれだけ食べてると最終的には餓死してしまうことになるくらいだからな」


「え、なにそれすごい」


「ただタンパク質ばかり食べていると体臭がひどくなったり、臭いおならが出やすくなったりするから、炭水化物も適度に食べる必要があるぞ。

 人間の体のなかでも赤血球と脳は糖質しかエネルギーにできないしな」


「よくわからないけど、そうなのね」


「そうなんだ。

 食事はバランスよく、加熱されていない野菜やフルーツをちゃんと食べること。

 タンパク質も炭水化物も適度に食べること。

 ダイエットなんてそれで充分さ。

 あと運動やストレッチも適度にな」


「健康的なダイエットに成功したら、高校デビュー成功間違いなしね」


「まあ、その可能性はぐっと高まるな。

 健康的な肉体はやはり魅力的に見えるとおもうぜ」


「あたしはー?」


「もちろんオトメはとても魅力的さ」


「やーん、そんな本当のこと真顔で言われても」


「ってな感じで、今回はこんなところだ」


「みんなまたねー」


 という感じで高校デビューに役に立ちそうなアドバイスの動画を毎日1本ずつ上げていくことにした。


 中垣内なかがいともすごく楽しそうだしもう、前みたいに裏でこそこそろくでもないようなことをする、心配はいらないだろうな。

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