第26話 ベーグルは発酵時間が短くていいんだよな

 さて、放課後になった。


 できればアニメ好きらしい新發田しばたさんと、もう少し話もしたいところなのだが、今日の放課後は家庭科部の部活動があるし、基本的に放課後は何らかの予定を入れてるから難しいだろうな。


 まあ、明日以降の昼休みに、ちょこちょこ話しかけていけばいいか。


 とはいえ、南木なみきさんへの、精神的フォローもせにゃならんのだけどな。


 それにしても、今回はボッチおたくからは確かに抜け出せそうではあるが、だからと言って自然と人が集まってくるらしい、パリピウェイ系リア充には俺はとてもなれそうな気がしないな。


 もっとも自分がやりたいこと、したいことをちゃんと持っていて、なおかつそれを実行出来れば、周りがどう思おうと、ぼっちのオタクのオタ充やソロ充の方が、ぜんぜんマシという気はする。


 逆に、常にびくびくと周りの空気や顔色を窺ってばかりで、自分がやりたいことをできないキョロ充よりはずっといいと思う。


 まあ、少なくとも仲のいい男女の友達や先輩たちと家庭科部の部活動をワイワイやるのも、中垣内なかがいとと一緒に動画撮影をするのも、楽しくてちっとも苦ではないし、俺がリア充でも陽キャでもなくても、どうでもいいことか。


 まあ、世の中は自分を非リア陰キャだと思い込んでいる、リア充も多いらしいけど。


 とりあえず、俺、西梅枝さいかちさん、東雲しののめさんの3人で家庭科実習室に向かった。


「私、オムレツを作るの失敗しましたし、ベーグルなんてちゃんと作れるのか心配です」


 西梅枝さんが少し不安そうに俺に向かって言った。


「んー、たぶん大丈夫だと思うよ。

 フライパンと違ってオーブンのほうが温度や時間の調整はしやすいから、焦げたりすることは基本ないと思うし」


 よくクッキーが焦げると聞くが、俺はケーキでもクッキーでも焦がしたことはないんだよな。


 まあ、オーブンによっては癖があって、表示されているはずの温度より庫内の温度が高めだったりすることもあるみたいだけど。


「それなら安心ですね」


 そして、大仏おさらぎさんと雅楽代うたしろさんはすでに来ていた。


「こんにちは、いつも早いですね。

 大仏おさらぎさん、雅楽代うたしろさん」


 俺がそういうと大仏おさらぎさんが、笑顔で答えた。


「こんにちは、まあ、やっぱり先輩ですからね」


 大仏おさらぎさんがそういうと、雅楽代うたしろさんも言った。


「ある程度、下準備は整えておいたので早速作りましょう」


「あ、はい、ありがとうございます」


「では今日はプレーンなベーグルとトマトベーグルを作ってみましょう。

 材料は強力粉、砂糖、塩、ドライイーストにトマトベーグルはトマトジュースを加えます。

 あとは好みでゴマやチーズなどを表面につけてもいいですね。

 また、ベーグルは生地をゆでるので、そのためにお湯とハチミツを使います」


 大仏おさらぎさんの言葉に東雲しののめさんが感心したように言った。


「へー、ベーグルってお湯で、ゆでるんだね」


 俺はそれにうなずいて言う。


「ああ、あのベーグル独特の食感はゆでることで、でるんだ」


 そして大仏おさらぎさんが言った。


「では、西梅枝さいかちさん、私たちが教えますので早速やってみましょうか」


 西梅枝さいかちさんはそれにうなずく。


「はい、よろしくお願いします」


 そして雅楽代うたしろさんが俺に向かって言う。


「秦君は一人でいいよね?」


「ええ、大丈夫です」


 強力粉、砂糖、塩、ドライイーストをボウルに入れ、そこへぬるま湯もしくは温めたトマトジュースを入れて、ドライイーストが溶けるまで少し待つ。

 

 ドライイーストが溶けたら、材料を均一に混ぜ合わせ、水気がなくなり生地がひとまとまりになったら、台の上に生地を取り出し、表面の乾燥を防ぐ為ボウルを逆さにして、5分程置く。


 その後、10分程度、台の上で生地をしっかり捏ね、捏ね終わり後すぐに、生地を4分割する。


 それぞれを丸め、閉じ目を下にして、乾燥しないように濡れ布巾等を掛け15分おきベンチタイムをとる。


 その間に、お湯を沸かし、それにハチミツを入る。


 ベンチタイムが終わった生地をオーブンシートを敷いた天板に並べ、オーブンの発酵機能を使って10分発酵させる。


 発酵時間はもっと長くとった方がいいらしいけど、あんまりそれで、時間をとられすぎたくもないしな。


 発酵が終わったら、オーブンを220℃に予熱しつつ、沸かしておいたお湯にハチミツを加えて溶かし、お湯が再沸騰したら火を弱める。


 そしてベーグルの生地の表面を下にしてそっとお湯の中に片面約30秒、裏返して30秒ゆでる。


 茹だったらクッキングシートを敷いた鉄板の上に、生地をよくお湯を切って並べ、ゴマを振りかけて、15分ほど焼けばベーグルの完成。


「うっし、できたぜ」


 西梅枝さいかちさんもうまく焼けたようだ。


「今日は失敗しませんでしたよ」


 あとは焼きあがったベーグルを包丁でスライスしてトマトやレタス、オムレツなどを挟んでもおいしい。


「おれは二つはツナマヨサンドにするか」


 俺がそういうと東雲しののめさんが目ざとく反応する。


「あ、それ美味しそう」


「ツナマヨはパンでも、おにぎりでも合うからな。

 残りはキウイのクリームサンドだ」


「あ、それも美味しそう!」


「うん、たぶん美味しいけどさ……東雲しののめさんがっつきすぎじゃね?」


「いいの、成長期だもーん」


「まあ、俺はいいけどな。

 4人で8個だから、一人当たり2つは食うわけだし」


「やたー」


 というわけで出来上がったベーグルを、みんなで食べる。


「んー、このベーグル、もちもちしてて最高っしょ」


「ああ、茹で時間が30秒ずつだと噛みやすくなるけど、茹で時間が長くなるにつれてさらにもっちりになるんだけどな」


「ツナマヨも、キウイのクリームサンドも最高っしょ」


 ハムハムと笑顔で食べる東雲しののめさんを見てると俺も幸せな気分になるな。


「ん、そりゃよかった」


 西梅枝さいかちさんのベーグルはBLTベーコンレタストマトサンドだな。


西梅枝さいかちさんのベーグルも、美味しそうだね」


「あ、じゃあ秦君のベーグルと交換しましょうか?」


「あ、それはぜひにお願いしたい」


 というわけで西梅枝さいかちさんのBLTベーコンレタストマトサンドベーグルをありがたくいただいたが、うまかったな。


 うん、作ったベーグルを女の子に食べさせたり、交換したりなんていうことをやるのも、楽しいものだ。

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