第14話 友達の輪が広がるのはいいことだ。

 さて、校外オリエンテーリングは無事終了。


 校内及び校外オリエンテーリングで見知らぬクラスメイトと仲良くなれた奴もいれば、やっぱりまだ馴染めないという奴もいたりするわけだが、ともかくそれらの行事は終わって授業が開始の通常日課になる。


 俺たち四人は朝っぱらからいつものように他愛もないおしゃべりをしている。


「今日から授業だけど昨日は疲れたから予習してる余裕なかったんだよな……」


 俺がそういうと東雲しののめさんがへへんと胸を張っていった。


「だーいじょうぶ、あたしは予習なんて最初からやる気なかったしー」


 その言葉にさすがに俺たちは苦笑。


「いや、それはそれでどうかと思うぞ」


 それから西海枝さいかちさんが少し悩んでから口を開いた。


「私のほうは今日の夕方に家庭教師の先生と顔合わせがあるんですよね。

 塾に行くよりそっちのほうがいいってお母さんが言うのですけど、ちょっと心配です」


 西海枝さいかちさんの言葉に俺はうなずく。


「相手の性格とかがよくわからないと確かに怖いよな。

 どうしてもあわない感じだったら申し訳ないですがって断るのもありだと思う。

 けど、基本的に家庭教師は学校の教科書やプリント類を使ってわからないところをちゃんとわかるようにやってくれるはずだから、丁寧に教えてくれる人だと多分助かると思うんだよな」


 俺がそういうと広瀬君が不思議そうに聞いた。


「それはまたなんでだい?」


「学校の先生は授業中の生徒の誰がどれくらい理解できているかなんて把握できないからな。

 だから質問がなければみんなができてるっていう前提で授業を進めちまう。

 かといってわからないやつに全部合わせていたら授業が進まないというのも事実だとは思うんだ。

 けど、勉強ってどこかでこけたらその後、ずっと理解できなくなる可能性があるからわからないことをわからないままにさせちゃダメなんだ」


「それは確かに」


 そんなことを話しているうちに授業開始のチャイムが鳴った。


 俺は一度高校を卒業して社会人となるとともに中学までの授業の記憶もあるのだが、それでもいまいちわからないところがあったりしたら手をあげて質問をすることにした。


 風俗などで働いていて一番ダメなのはわからないことを、わからないままにしておくことだったからな。


 じゃあ、学校ではほとんどの生徒はなぜ質問しないのかということになるが、誰だって自分が教科書に書いてあることもわからないような馬鹿には見られないようにしたいということだと思う。


 先生に質問・発言ばかりすると空気よめなさすぎと嫌われる場合もあるしな。


 しかし、多くの場合は、他の学生も疑問に思っているか、まったく理解していないことが多い。


 といっても教師の話や授業の流れをあまり妨げるのも良くはないので、要点だけ簡潔に質問しあとは自分で何とか理解するという形をとるが。


 大抵のこと、ここさえ押さえておけばという要点を見つけておけば、後はそれの応用で何とかなると思うからな。


 高校の授業をもう一度やり直すのは大丈夫だろうかとも思ったがどうにか何とかなりそう、というか前よりうまくやれそうな気がする。


 まあそんな感じでお昼を挟んで放課後になった。


 今週はまだ新人勧誘期間ということもあって部活動はないし放課後はどうするかな。


 そう考えていたらクラスメイトの男子二人が俺に声をかけてきた。


「おーい、よかったらこれからカラオケに行かないか?」


「みんなでカラオケか、そういうのもいいね」


 弥生ちゃんもカラオケで遊んだって言っていたしな。


「えっと、たしか木村君と中井君だっけ?」


「そうそう、俺が木村達也きむらたつやで、こっちが中井忠弘なかいただひろ


「よろしくな」


 二人の挨拶に俺も挨拶を返す。


「こっちこそよろしく。」


 それから木村君が小さな声で言う。


「できれば、女の子も誘ってほしいんだけど……」


「ん、別にいいよ、東雲しののめさーん、これからカラオケに行くんだけど一緒に行かない?」


「カラオケー?

 当然行くっしょ!」


西海枝さいかちさんは家庭教師との顔合わせがあるって言ってたから無理だよね」


「うん、ごめんなさい」


「いやいや、今度また機会があったら西海枝さいかちさんも行こうね」


「うん」


「広瀬君は?」


「ごめん僕も塾があるんで無理なんだ」


「そっか、広瀬君も機会があれば一緒に遊ぼうぜ」


「そうだね」


 となると女の子が東雲さんだけってのもどうかなって感じだし、教室に残っている女の子で誘えそうな子にでも声をかけてみるか。


 まずはかなりかわいいのに、孤立している感じがするあの子にしよう。


 女の子でルックスがいいのは必ずしも同性との人間関係の構築には有利に働かないんだよね。


 顔がいいってだけで目立つし、それだけで得してるように見えるから周りからのやっかみや悪意がひどいんで、それをうまく解毒というか中和できるコミュ力がないと割と孤立しがちなんだ。


「こんにちは、たしか南木なみきさんだったよね。

 よければ今からカラオケに一緒にいかない?」


俺が声をかけると彼女はびっくりしていたようだ。


「え、わ、私ですか?」


「うん、もちろん無理にとはいわないけど」


 そこで東雲しののめさんがひょいっと顔をのぞかせた。


「でも、一緒にきて歌ってくれたらあたしうれしいな」


「飢えた狼みたいな男の集団に東雲しののめさんみたいなメスライオンだけだと怖いしね」


「そうそう、って誰がメスライオン?!」


「だって、東雲しののめさんはどう考えても臆病な子鹿って感じじゃないしねぇ」


「ひっどーい、せめてメヒョウって言ってよ」


「確かにそれだと結構イメージ違うけど、メヒョウってがらでもないでしょ」


 俺と東雲しののめさんのやり取りを聞いて南木なみきさんがくすくす笑っている。


「では、ご一緒させてくださいね。

 私は南木紗耶香なみきさやかです」


「俺は秦彰浩」


「あたしは東雲小百合しののめさゆりよろしく!」


 よし女の子一人ゲットだぜ。


 出来ればあともう一人くらい……ということで、もう一人声をかけてみることにした。


剛力ごうりきさんもどう? カラオケ」


「ぼ、僕も? 一緒にカラオケにいっていいのかな?」


「うん、ぜひ一緒に遊んでほしいんだ」


「う、うん、じゃあ僕も行きます。

 僕は剛力歩ごうりきあゆみです」


 というわけで男は俺、木村君、中井君、女が東雲しののめさん、南木なみきさん、剛力ごうりきさんでぴったりだ。


「箱はカラ鉄でいいかな?

 あそこなら18時まで室料30分40円だし」


 俺がそういうと木村君がうなずいていった。


「ああ、それでいいんじゃないかな」


「どうせ16歳未満は18時までしかいられないしね」


 というわけで駅前のカラオケボックスへ移動。


 そしてすこし気になっていたので剛力ごうりきさんに聞いてみた。


「ところで、剛力ごうりきさんは何でスラックスをはいてるの?」


「あの……僕は男ですから……」


「ご、ごめん、てっきり女の子だと勘違いしてたわ……」


 弥生ちゃん……BLの受けみたいな男子は同じクラスに実在したわ、びっくりだぜ。


「はたぴっぴ、それはいくら何でもひどいよー」


「いや、ほんとごめん」


 最近はあんまり名前を聞かなくなったタレントのほうも男みたいなショートカットだったしな……反省しよう。


 気を取り直してカラオケBOXへ到着、6人でちょうどいい部屋を選んでみんなで中に入る。


「さて、さっそく歌おうぜ」


 と俺が言うものの微妙な雰囲気。


 トップバッターは俺が行くしかないか。


 デンモクで曲を入れて、マイクを手元に寄せる。


「んじゃ、まずは俺が行くぜ!

 De PUMPのU.S.S.R」


 そして曲が流れ始めたので俺は歌いだし歌い終わって、周りを見渡して見る。


「どうかな?」


 俺は東雲しののめさんに聞いてみた


「うん、下手じゃないけど特別うまくもないねー。

 どうせならダンスも踊ればいいのに」


「あれを歌いながら踊るのはさらに難易度上がるんだけど?」


そしてデンモクをみながら真剣に曲を探している。


「まあこれだったらはたぴっぴの後で安心してうたえるね。

 んじゃあたしもー。

 やっぱ歌うならあいみゅんかなー」


 東雲さんがそういうと南木さんも楽しそうに言った。


「じゃあ私はakoさんで行きますね」


「剛力君は何を歌うんだろ?」


「僕は……麦津玄師が好きですから挑戦してみます」


 そして木村君たちは


「じゃあ俺たちはジョニーズの曲で行くか」


「そうだな」


 と俺が取り立ててすごく上手でも下手でもない微妙な歌を歌ったことで回りも安心したようだ。


 うまければうまいなりに、下手ならば下手なりに、そのあと歌う周りが委縮する可能性があるから楽しいけど面倒くさいよなカラオケは。


 それはともかく、カラオケはそこそこ盛り上がったと思う。


 気の利いた会話をしなくてもみんなが知っていそうな曲を歌えば、そこそこ盛り上がれるし知らない曲に出会えたりするのがカラオケのいい所だよな。


 18時ぎりぎりまで皆なで歌を歌いまくっていたが、新しい人たちともそれなりに仲良くなれたんじゃないかな?

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