第13話 迷う理由が値段なら買え、買う理由が値段ならやめとけ、お礼の贈り物は相応の値段のものを

 さて、それぞれ希望のアトラクションも楽しめたし、オリエンテーションの目的のファンタジーゾーンでの記念撮影やキャラクターのサインなどのグリーティングも終わって、後は帰るだけなのだが、まだ少し時間に余裕はある。


 なので、俺はスケジュール手帳を取り出して、皆に誕生日をたずねることにした。


「まだ集合時間まで少し時間があるし、できればでいいから今、みんなの誕生日を教えてもらえるかな?」


 俺がそういうと広瀬君が首をかしげて聞き返してきた。


「誕生日?」


「うん、多分このメンバーで高校の3年間は仲良く過ごすことになると思う。

 だから、誕生日を聞き忘れて今年の誕生のお祝いをできないとかあったら、ちょっとなって思ったからさ。

 知っていれば簡単なパーティとかできるし誕プレやバースデーカードの用意も忘れないだろ」


「あ、ああ、秦君はもうそこまで考えてるんだね」


 ”前”に風俗で働いているときに女の子の誕生日をちゃんと祝ったり、バレンタインデーに誰からどういったものをもらったか、書き記してちゃんと相応のお返しするのは人間関係の維持にとても大事だって知ったからな。


 女の子は誕生日に何かしらお祝いをしてくれれば、よほど嫌いな相手でもない限りは嬉しいもののはずだ。


 そこでまず教えてくれたのは、東雲しののめさん。


「さすが……はたぴっぴはそんなところまでまめなんだねぇ。

 ちなみに私は7月10日だよ」


「そのあたりは期末が近い時期かな」


 俺はスケジュール手帳の7月10日に東雲誕生日と書き記す。


「そういう下がることは言わないのー」


「はいはい」


 次に西海枝さいかちさんもオズオズと教えてくれた。


「私は11月13日です」


「なるほど、西海枝さいかちさんは11月13日と」


 スケジュール手帳の11月13日に西海枝誕生日と書き記す。


「広瀬君は?」


「僕は6月25日」


「了解」


 同じように6月25日に広瀬誕生日と書き記しておく。


「となると最初は広瀬君か。

 あ、ちなみに俺は10月10日だよ。

 まあ誕生日パーティは家の家族だけだったし、せっかくだから友だちの誕生日を祝うとかしたいと思うし。

 バレンタインデーもお母さんからしかチョコをもらったことないしね」


「バレンタインもって、……それは今の秦君を見ていても、とてもとても信じられないけどね」


「いや、高校入学を機会に中学までの俺とは変わるって決意して、いろいろやってみてるところなんだけどさ」


 俺がそういうと西海枝さいかちさんが驚いたように言った


「秦君でも、中学生の時は全然地味な感じだったの?」


「そうそう、幸い高校は顔見知りが誰もいないに等しいから、思い切ってイメチェンを図ってみたんだ。

 いわゆる一つの高校デビューってやつ」


 なんかほっとしたような表情で西海枝さいかちさんは続けた。


「秦君もそうだったんだね。

 実は私もなんだ。

 中学の時は地味でまじめだけが取り柄みたいな感じで、そんな自分がいやだったから高校では明るくふるまえるように頑張ろうってやってるところです」


「ああ、西海枝さいかちさんもそうだったんだ」


「えへへへ、実は私も」


 そういったのは意外にも、東雲しののめさん。


 ああ、でも少しだけ思い当たるふしはあるな。


東雲しののめさんが俺たちに声かけるのが少し時間かかったのは、もしかしてそのせい?」


「いやあ、実はそうなんだよね。

 それに二人だけでしゃべってるところに割り込むのって、だいぶ難易度高くない?」


「まあ、それは確かに」


「だからヒロポンも話に交じってるのを見てチャーンスと思ったの。

 でも、はたぴっぴがここまでできるのに中学は地味陰キャとか言われても信じられないっしょ」


「それは今の東雲さんを見て中学は地味陰キャとか言われても信じられないのと一緒だよ」


「でもさ、あたしは元々ギャルっぽくは見られてたんだよね。

 自分じゃそんなつもりはないのに」


「人間は外見で勝手に性格まで決めつけたりするのは事実だからなぁ」


 まあこれで皆の誕生日は把握したし、誕生日のお祝いやプレゼントをし忘れるということはしないで済むだろう。


 俺は”迷う理由が値段なら買え、買う理由が値段ならやめとけ、人間関係を維持したければ誕生日やお礼の贈り物は相応に高い値段のものを送れ”ということをなるべく守るようにしてる。


 百均で買えば十分な物は百均でなるべく買うけど、ボールペンや洗剤は質に問題があるので、文房具屋やドラッグストアで少し高くてもちゃんとしたものを買っている。


 ボールペンは突然インクがドバっと出てひどい目にあったことがあったし、洗剤類は百均のものだと全然汚れが落ちないから洗濯をやり直しになったりする。


 安物買いの銭失いっていうのは本当だと思う。


 お母さんと弥生ちゃんに買ってもらった服はアウター、トップス、ボトムズ合わせて2万円でこれはメンズではそこまで高い価格ではないけど、決して安くもない。


 切り詰めれば1万3千円くらいにはできただろうけど、おしゃれをしたいという俺の行動に対して二人ともそれなりにいいものを着させたいと思ってくれたんだろう。


 普段着ではなく人と会う時の余所行きの私服であれば、やはり、それなりのものを買った方がいいと俺も思う。


 安い衣装で人に会うという行動ははそれだけ相手に会うということに大した意義を感じていないとみられても仕方がない。


 政治家などが高い場所で会食するのを非難する連中はそれがわかってないんだと思う。


 そしてそういったことへの感謝の気持ちにお返しもけっしてお金をけちらないのは大事だ。


 お金は価値を交換するためのツールに過ぎないが、だからこそそれをどれだけ使ったかというのが贈り物に送り主がどれだけ意味を持たせているのかを感じやすくする。


 むろん高ければいいというものでもないし、高くてももらった方が困るものを送るのもないのだけど。


 バレンタインデーのお返しをしないとか、ありがとうという言葉だけだとかだと、絶対に女の子は何だこいつと思うのだが案外そういうやつは多い。


 プレゼントは心がこもってるかどうかが大事というやつもいるが、プレゼントにどれだけの金や手間かけたかということはもっと大事だからな。


 どうしても欲しいものがちょっと無理すれば買えるなら無理してでも買う。

 買えるけど、これ高かったら買わないなと思ったら買わない。


 これは人間関係も同じ。


 そして結局は安い無駄なものを買わなければ、本当に欲しい高価なものを買うために金がたまるということでもあるし、人付き合いのために最低限必要な金をケチると人間はどんどん離れても行く。


 だからと言って金で不必要なまで人間をつなぎとめようとするのもばからしいから、どうしてもこの人とは離れたくないという相手にはどんどん金や時間を使うべきだし、そうでない相手にまで金を使う必要はないと俺は思うのだ。

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