509 パン工房オープン(後)



 青雲館の開校?開所?の前に、パン工房が先にオープンすることになったんだ。


 工房で焼いたパンは学園内の4つの購買(コンビニ)とパン工房に併設した販売所で売っていく予定。

 

 購買(コンビニ)分はもちろん、学園生に向けてのものだから一般の販売所価格よりは格安で販売するよ。

 一般より格安な「学園生価格」というのをもっともっと周知していきたいな。



 購買と販売所で売る第1弾はジャムパンと揚げパン。食事用のバゲット(フランスパン)の大小。


 ・ジャムパン 200G(400G)


 イチゴーの実をジャムにしてパンに詰めたもの。甘味にはメイプルシロップを使用したよ。ここでもメイプルシロップが大活躍なんだ。


 メイプルシロップはかなり普及してきたけど、まだまだお高いものという印象があるんだよね。まして砂糖は庶民どころかよほどの豪商にしか手が届かないものなんだ。


 だから自然由来の果実の甘さを砂糖レベルの甘さを持つメイプルシロップで補完したイチゴージャムは「夢の甘さ」を持つジャムなんだ。


 そんな甘さを持つジャムがいっぱいに詰められたやわらかい菓子パンのジャムパンは‥‥大反響となること必至だね。



 ・揚げパン 200G(400G)


 ジャムパンと並ぶ甘いパンの双璧となるものが揚げパンなんだ。


 これはパンを油で揚げるという工程そのものがまだ帝国国民には初めてのもの。


 本物はシナモンと砂糖を揚げパンに塗していくんだろうけど、ここでもメイプルシロップに活躍してもらうよ。シナモンは元々あったらね。

 マヨネーズみたく細い口で絞り出すスタイルのメイプルシロップ瓶を作ったんだ。これならメイプルシロップも少量で済むよね。


 この甘ーい揚げパンも衝撃をもって受け止められるだろうな。



 ・バゲット(小) 150G(300G)

 ・バゲット(大) 200G(400G)


 バゲットは堅いタイプとやわらかいタイプの2種類を用意したんだ。


 堅いタイプは堅いといってもその堅さはこの世界ではやわらかい部類に入ると思うけど。


 やわらかいタイプは元の世界でいうところのソフトフランスパンというもの。これはサンドイッチにしてもうまいパンだよ。


 どちらも全粒粉のパンだから茶色いって思うんだけど、みんなは真っ白、真っ白っていうんだよね。だったら今後発売予定の食パンの白さにはもっとびっくりするだろうね。



 「安っ‼︎」


 「安すぎよ!」


 「「「安〜い!!」」」


 今回のパン工房で発売するこの値段。高いかどうかを狂犬団員100人にアンケートをとったんだ。100人にはもちろん試食用を提供して。


 「大いに高い・高い・適正・安い・大いに安い」


 5段階評価。

 そしたらね、購買で売る学園生価格も、販売所で売る一般市中価格もともに「大いに安い」という回答がほぼすべてだった。よかったよ。これは狙いどおりだ。



 「団長、学園内なら団長の意向どおりで問題はないけど‥‥パン工房の販売所はたいへんなことになりますよ」


 パン工房スタッフの女子団員が言ったんだ。


 「私もそう思う」


 「「あー俺もだ」」


 「「私もー」」


 「「絶対変な人もでてくる」」


 そんな中おギンが言ったんだ。


 「しばらく女性だけとか未成年者だけとか販売層を分けたほうがいいかもしれませんよ団長」


 「「「私もそう思うわ」」」


 それは他の女子団員もそろっての見解だった。

 揉める前に、女子だけとか未成年者だけとか、北区民とかを細分化して発売する。そこまでのことかなぁって思ってたんだけど、団員の言うとおりに悪い方向でパニックになったらたいへんだもんな。

 

 「じゃあさ、学園内の購買は当初1か月は1人1個の制限にしようよ。もし余るようだったらもう1度並んでもらうことにして。

 『整然と並ぶ』ということを学園生も一般の人もともに学んでいってもらおうよ」


 「そうですね団長」


 「慣れるまではパン工房以外の男子団員が行列の整備にあたりますよ」


 「それいいねドン兄ちゃん」


 「じゃあさ、並ぶのはこんなふうに一列×50人が‥‥」



 並ぶという行為に整然さを求めた青雲館パン工房のそれ。

 このパンを求める行列は帝都で一般化するのに当初は時間がかかったんだ。


 なぜ整然と並ぶ?

 何をするのも実力差があって当然だろ?

 強い者が手に入れられるだろ。


 なんでも実力主義。

 それは帝国のあまり良くない思想なんだよね。


 先々になるけどパン工房の「整然と並ぶ」というスタイル、それは他にも伝播していくんだ。

 整然と誰もが平等に並ぶ。横入りはしない。弱い人は優先する。


 たったこれだけのことが当たり前のこととして認知されるのには時間がかかった。それでも実現できたのは帝国だからだろうな。それは間違いない。


 悲しいかな、王国の王都で同じことは‥‥うん。できないな。

 ヴィヨルド領に次いで、俺が帝国を好きになるのに時間はかからなかったよ。


 





 「購買のパン、今日からだってよ」


 「うちのクラスの子、パン工房だから言ってたわ。めちゃくちゃ美味しいつて」


 「ノートや鉛筆と同じで学園生価格なんでしょ?」


 「街中の半額らしいぜ」


 「だいたいその街中の値段でさえ信じられないくらい安いんだけどな」


 「「ってことはやっぱり‥‥」」


 「「そうよ、やっぱり‥‥」」










 「「「並ばなきゃ!」」」



 一般に先だって。

 午後からの購買(コンビニ)には4店舗どの購買にも1列50人の行列が6列以上できた。

 5列めには立て看板を掲げてるパン工房担当の狂犬団員。


 『1人2個まで。これ以降は売切れの可能性が高いですよー』


 『1人2個まで。これ以降は‥‥』




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