506 伝播



 「コジロー」


 「おやっさん‥‥」


 何かを言おうとするコジローさんを手で制しながら悪党の親玉が口を開いたんだ。


 「俺はゼンジー一家の主ゼンジーだ小僧」


 「俺は帝都学園3年生アレク」



 くーっ。こっからまた闘らなきゃならないのかよ。なんで負けたんなら負けたって認めないんだよ。

 負けるのわかってて親玉諸共玉砕するなんてナンセンスだよ!意味ないじゃん!


 大人対大人なら面子の問題もあるのはわかるけど、俺学園の3年生だぜ。まだガキだぜ。そんなガキに面子なんて関係ないって。

 ごめんなでいいじゃんか。めんどくせぇなぁ大人って。



 「だそうですぜ。おやっさん」


 「クックックッ‥‥

 わははははは‥‥」


 わはははははは

 ガハハハハハハ

 あはははははは



 堪えきれない親玉の笑いはやがて大笑いとなって周囲の怖い人たちを取り囲んだんだ。

 怖っ!顔の恐いおっさんばかりが笑ってるよ!



 「坊主に詫びよう。若頭キュウたちの不始末は親の俺の不始末だ。悪かった」


 「もういいよ。俺もやり過ぎた。ごめんなさい」


 「坊主、お前は躊躇なくキュウの手脚を斬った。

 そのくせ高いハイポーションと魔法を発現してキュウを治した。

 聞かせてくれねぇか?お前の本心はどっちだい?」


 「‥‥どっちも俺だよ」


 「ほう。それはどういう意味だ?」


 「妹を、家族をやるっていう奴にはやられる前にこっちからやる。

 話が通じないんなら実力行使。身体でわからせるだけじゃないの?」


 「それでキュウを斬ったと。じゃあなんで治したんだ?」


 「だって手脚ないままじゃかわいそうじゃん。俺がやっといて言うのもなんだけど」


 「なるほどな。じゃあ坊主、なんで挨拶に来ない?海洋諸国人がいるんならそのへんのことはわかるはずだ。

 なんで仁義通してみかじめ料を払わない?」


 「俺がそっち側の人間なら挨拶なり金払って守ってくれなんて言うよ。

 だけど俺は、俺たちは、普通の一般の学園生だ。

 あんたたち悪事を働く奴らに挨拶する道理もなければ守ってくれなんて言う気もない。

 それが気に入らなきゃ‥‥かかってこいよ。1度は警告したからな」


 「これがその答えか」


 「ああそうだよ。

 奴隷商バァムにも警告はしたよ。それでも奴はおれの仲間に手を出した。だったら答えは簡単じゃん。根こそぎ潰すだけだ。」


 「お前はその歳で‥‥これまでそうやって物事を解決してきたのか?」


 あれ?なんか話しやすい爺さんだな。


 「いや違うね。もっとガキのころは悪意を持つ奴らにいいようにやられてたよ。

 力をつけなきゃ話は通らないことも知ったんだ。

 だから剣も体術も魔法も鍛えた。金がなきゃ物も買えないから金も作った。


 でも‥‥それは俺の思い上がりだった。

 何より大事なのは俺自身の強さじゃない。

 仲間みんなの強さなんだよ。仲間を守ることなんだよ。

 俺が思い上がってたらちゃんと叱ってくれる仲間がいることなんだよ。


 だから、仲間を傷つける奴がいたら俺は仲間を助けるためにやれることをやる。

 たとえそのとき負けても‥‥必ず仲間が俺を助けてくれるからな」


 学園ダンジョンの仲間の顔が浮かんだんだ。


 「ガキだから青臭いこと言ったな。悪りい爺さん」


 「フッ。コジロー、そういうことか」


 「へい、おやっさん」

 

 「なるほどのぉ。

 そういやコジローから聞いたんじゃがアレク、メイプルシロップはお前が作ったのか?」


 「ああ。でも俺は忙しいから何もしてないよ。王国ヴィヨルド領の帝都騎士団と冒険者ギルドと商業ギルドの3つが協力してやってくれてるよ」


 「お前‥‥金なら唸るくらいあるだろうな」


 「俺?知らないよ。興味もないし。毎日家族と美味しい飯が食えて、仲間と楽しくやれりゃあそれで十分じゃん」


 「なるほどな」


 「では改めて今回の件はゼンジー一家の、わしゼンジーの手落ちだ。詫び料はいくら要る?お前の要るだけ用意するぞ」


 「いいよ。爺さんが今言ったように金はほしくないし、あんたたちと馴れ合う気もないから」


 「わはははは。そうか。よし、では今後はお前の建物と子どもたちにわしらゼンジー一家は一切手を出さんからな」


 「ありがとう。爺さん、俺馬鹿だからさ、気が合う人とは仲良くなりたいんだよね。

 だからただの隣人のガキとして遊びにいくよ。いいかな?」


 「おお!いつでもこいアレク」


 「ありがとうゼン爺さん!」


 「ゼン爺さんか‥‥

 昔孫がそう言いおったわい」


 「ん?そのお孫さんは?もう大人になったのか?」


 「抗争でな。見せしめに息子夫婦ともども殺されたよ……」


 「そっか……」


 「アレク!お主なぜ泣いておる!?」


 「な、な、泣いてねぇよ!目にゴミが入っただけだよ!うっうっうっ‥‥」





 「ゼン爺さん。今度お孫さんの墓教えてくれよ。俺の作った菓子食ってもらいたいから持ってくよ」


 「ああ。楽しみにしとるぞアレク」


 「うん!じゃあ帰るよ。

 コジローさん、俺昼からは奴隷者の屋敷の跡に青雲館って学校作ったからさ。いつでも来てよ」


 「アレク‥‥ってことはその建屋は?」


 「うん。俺が発現した」


 「わははははは。わかった。明日にでも寄らせてもらうわ」


 「うん。じゃあそのときに」


 「行くぞ子狸!」


 「ガッテンだ団長!」


 なんか恐い顔したおっさんたちとコソコソやってる子狸がいたよ。




 「コジロー、気持ちのいい坊主だのアレクは」


 「はっはっは。あいつは馬鹿ですが人たらしですからね」


 「例えば誰だ?」


 「帝都に来たばかりなのにアレクサンダー前陛下をオヤジと呼んでるそうですよ。ペイズリー閣下には剣を習い、あの賢人会にも顔を出してるそうですよ。うちの若は弟と公言してますし」


 「なるほどの。先が楽しみな坊主だな」


 「ええ。あいつの歩く道はどこに向かってるんですかね」


 ワハハハハ

 わはははは


 「ではわしらも裏社会のもんが坊主に迷惑をかけんようにせねばの」


 「はいおやっさん。でないと潰される一家が増えて逆に困りますよ」


 「そうだな」










 「ハッ!お、俺は‥‥」


 「「若!」」


 「「若頭!」」


 「目を覚ましたかキュウ」


 「おやっさん!」


 「よかったな‥‥」









 「そうか‥‥俺はあの小僧に生命を救われて手足まで戻してもらったのか」


 「いくぞ!」


 「「「了解でさぁ」」」


 「「「そうこなくっちゃ」」」


 「いかん。いかんぞキュウ!2度とアレクに顔を見せることはまかりならん。破ったら破門だ!」


 「おやっさん!?」


 「アレクとわしらは住む世界が違う」


 「‥‥」


 「それとなキュウ。わしはお前にも謝らなければならん」


 「えっ?」


 「ウチのゼンジー一家、昔は任侠を重んじておった。弱いもん、子どもや獣人に手を出さんことを守っておったんだよ。

 それがな、息子たちを殺されてからわしが一家を先鋭化してしまった。コジローはそんな俺が嫌になって去ったんだよ。


 悔しいがあの坊主、アレクのおかげで目が覚めたわ」


 「「おやっさん!」」


 「キュウお前は強い。その強さを弱いよもんのために使ってくれんか?」


 「へい!」


 「ゼンジー一家。これからは弱いもんを虐げることはせん。帝都の裏社会で任侠道を貫くぞ!」


 「「「へい!」」」




 ▼




 「団長」

 

 「なにおギン?」


 「うちの草が言ってましたけど、危ない人たちの間で団長は狂犬団の組長って呼ばれてますよ!」


 「なんでたよおギン!なんでそうなるんだよ!」


 「あっ、学園では字が読めないゴブリン王だって」


 「クッ‥‥」





 狂犬アレク伝説。

 またこんな2つ名がこっちの帝国でも通用し出したんだ。なんでだよ!







 狂犬団とゼンジー一家の関わり。それはまだまだ先のお話……。



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