468 狂犬団(後)



 家を出て2つ3つと川を渡る度に街の様子が変わってきた。



 やがて下水道も形ばかりのものになってきた。

 辺りには何をするわけでもない老若男女が遠い目をして座っている姿も見えてきた。


 そして目的地の南区の教会に着くころには街の匂いもすっかり変わっていたんだ。

 それはちょっと前までのクロエの匂い。ゲロや糞尿が入り混じった強い臭いだ。


 「く、臭いわ!」


 「おやまあアリサ様には初めてのようだね」


 「‥‥」


 「ヒッヒッヒ。デーツ様は言葉も出ないかい」


 「アレクは‥‥」


 「こんなもんだろバブ婆ちゃん」


 「あんたはいったいどんな育ちをしたんだい?」


 「俺か?俺はここよりも酷い砂漠のような何もない農村の出だよ。ただ人だけは良かったけどな」


 「「「‥‥」」」





 教会の前にはたくさんの人が並んで炊き出しを受けていた。


 炊き出しの列を整理しているのは見覚えのある海洋諸国出身の学園生たちだ。

 大鍋の汁ものを取り分けているドンとトンの2人も見える。



 「ちょっ‥‥なによこれ‥‥」


 「これか。これが現実だよ。お前らが住むきれいな帝都にもこんなとこがふつうにあるんだよ」


 「「‥‥」」


 「そんでもな見てみろよ。デーツ、アリサ。

 クロエや俺らと変わらない歳の子どもたちが笑ってるだろ。

 こんな掃き溜めのようなとこでも笑っちゃいけないことなんてないんだよ」


 「「‥‥」」


 「不満だらけでも食えて安心して寝られる。しかも生きていけれる。

 お前らの今の幸せな生活は皇帝の父ちゃんのおかげなんだぞ」




 「あっ!団長ーー!」


 「「「団長ーー!」」」


 「「「団長ーー!来てくれたんすね!」」」


 「「「団長ありがとうございます!ハチから差し入れもらいました」」」


 「「「あざーす!」」」


 ドンとトンも笑顔だ。


 「あとで神父様を紹介しますね」


 「ああ。もちろんあとでいいからな」


 「(それとドンとトン。お前らさすが海洋諸国人だな。この辺にややこしい奴らが1人もいねぇじゃん)」


 「(へへっ。団長のご家族が来るって聞きましたからね。掃除は昨日のうちにしましたよ)」


 「(さすがだよお前ら)」


 「「あざーす」」


 「団長の妹さんっすか?」


 おぶっている子を見ながらドンとトンが言った。


 「かわいい子っすね!」


 「なんて言う名前っすか?」


 「どっちもかわいいだろ。こいつがアリサ。おぶってるのがクロエだ」


 「「あははは‥‥」」


 ドンとトンがクロエに近づいて言った。


 「クロエちゃん。俺いつもクロエちゃんのお兄ちゃんに世話になってるドンって言います」


 「俺はトンって言いいます」


 「キャッキャッ」











 「えっ?!」


 「「?!」」


 「おいお前ら!?

 クロエがどうしたんだ?」


 「えっ?どうしたって団長。クロエちゃんが俺たち見て笑ってくれてるだけっすけど?」


 「それがどうかしたんですか?」


 「キャッキャッ」














 「お、お前ら‥‥

 ドン。トン。ありがとう」

 

 「へっ?団長へんですよ?」


 「なんでクロエちゃんが笑ったくらいで泣いてるんすか?」


 「な、なんでもだよ!クロエがかわいいから泣けてくるんだよ!なあアリサ」


 「え、ええ‥‥」



 

 ▼


 



 「じゃあお前らまた明日な」


 「「「お疲れーす団長」」」













 炊き出しが終わり後片付けをするドンとトンを中心の海洋諸国出身の学園生たち。


 「クックック。トン言えねー。俺団員のみんなに言いたくても言えねー」


 「ああドン兄ちゃん。まさか団長があんな顔するとはな」


 「あートン様。俺それ聞いたことある。たしかオークの目にも涙だ!」


 ワハハハハハ

 わははははは

 ガハハハハハ



 「よーし!明日からまた狂犬団団長の覇道の旅だ」


 「「「おおー!」」」







 帰り道。

 背中のクロエが左手をアリサと繋いでいる。右手はおぶっている俺の右手の小指をしっかりと握っている。


 「クロエちゃん今日は楽しかったでちゅねー」


 キャッキャッキャ


 たぶんシルフィがクロエの横を飛んでいるのか肩に座ってるのが見えるんだな。

 背中越しにクロエの笑い声も聞こえるよ。


 「夜ごはんは何を食べまちょうかねクロエちゃん。何か食べたいものはありまちゅか?」

































 「プリン」


 「!」


 「!」


 「!」


 「!」


 「そっかーク、クロエちゃんはプ、プリンを食べたいでちゅか!

 ア、アレクお兄ちゃんもプリンが‥‥た、食べたいでちゅねーうっうっうっ‥‥」


 「アレクあんた涙と鼻水まみれで汚い顔さね。クロエ様婆もプリンが食べたいさね」


 「わ、私も食べたいわクロエ」


 「僕モ食ベタイ」


 「さあ早く帰るわよ!

 アレクあんたの変な汁がクロエに付いてるから先にお風呂に入れてあげてよね!」


 「変な汁言うな!涙と言えアリサ!」


 「汁よ汁!しーるっ!」


 「涙だ!」


 「汁よ!」


 「涙だ!」


 「汁!」


 「涙!」


 「しーるっ!」


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