413 トマス・アイランド



 「海洋諸国代表トマス・アイランド選手対ヴィヨルド冒険者ギルド代表狐仮面ハンス選手、始め!」



 いつのまにか俺の名前が狐仮面になってたんだ。なんかね‥‥よくない?カッコよくない?


 「カッコいいねーーーアレクー」


 シルフィさんが生暖かい目を俺に注いでくれてるよ。カッコいいのに……。




 「またヴィヨルド相手かよ、めんどくせぇな」


 「ああ、めんどくさいヴィヨルドの2人めだ」


 「狐仮面、お前冒険者ギルドの推薦だってな」


 「ああそうだ」



 ここからはトマス選手にだけ聞こえる小声で話したんだ。


 「(ついでに言うとお前の兄貴、キム先輩にはいろいろ世話になったよ)」


 「なに!?」


 「(聞いてないのか?ああたぶんお前、仲も良くないんだろうな。てかトマス、お前はキム先輩にまともに話すこともできないんだろう?

 ああ拗らせ坊っちゃんか)」


 「なにー!うるせぇー!何も知らない他人がとやかく言うな!」


 「(そりゃそうだな。だいたいキム先輩はふだんからふつうに口数少ねえからな。クククッ)」


 「お、お前は兄貴とそんなに‥‥」


 「(ああ。俺は索敵の仕方から俺のようなチビの闘い方まで懇切丁寧に教わったよ。笑える無駄話もたくさんしたしな)」


 「‥‥」


 「(お前がキム先輩を苦手なのはコンプレックスのせいなのかは俺は知らない。だけどお前の兄貴は最高の男だよ)」

 

 「‥‥」


 「(まあ話すよりも闘るか。

 キム先輩の足下にも及ばない俺が、さらに俺の足下にもお前がお及ばないってことを今から教えてやるよ)」


 「なにをーーッ!」


 いきなり憤怒の形相になったキム先輩の弟トマスだ。


 ここからはわざと周囲に聞こえるような大きな声を出したんだ。


 「どうした?かかってこいよ。ああそうだったな。卑怯者のお前は相手が油断してないと吹き矢でさえも撃てなかったんだよな。

 一旦後ろ向いたげようか?クックック」


 「くそっ!どこまでも馬鹿にしてくれるなぁ」


 「フッ。お前みたいなガキに時間かけるのもったいねぇや。じゃあ俺から行くぞ?それでもいいのか?」


 「なめるな!」


 フッッッ!


 トマス選手が腰から吹き矢を手にして口にあてがったのに待って。俺も肩に下げた矢を連射する。


 シュッ!


 シュッ!


 「ぐはっ!」





 「な、なぜ当たらない?」


 「そんなへたれ吹き矢はカンタンに避けられるじゃん。モーリスもカンタンに避けてただろ。当たるもんかよ!」


 俺は余裕で避けたよ。だってトマスの目線、吹き矢の角度を見たらどこに飛ぶかなんて初見から丸わかりだもん。逆に下手くそだったらどこに飛ぶのかわかんないよ。


 でももしキム先輩がここにいたら、その目線や吹き矢の角度でさえブラフだろうな。


 「トマス、お前もキム先輩と同じ毒耐性があるんだよな?」


 シュッ!

 シュッ!


 シュッ!

 シュッ!


 ザクッ!

 ザクッ!


 ザクッ!

 ザクッ!


 「あうッッ」

 「んんッッ」


 さらに連射。合計6本の矢が肩と脚に刺さる。


 「あーこれか。ゴブリンの毒矢な。お前たぶん初めてだよな。でも毒耐性あんだろ?俺やキム先輩がダンジョンで受けまくった毒な」








 ガクガクガクガク‥

 

 みるみる青い顔となるトマス。


 「トマス。キム先輩は身体中にこの矢を受けてても変わらず動いてみんなを助けてくれたぞ」


 「あ、兄貴は‥‥」


 「お前は俺のダチのモーリスに卑怯な手で勝ったよな。だけどキム先輩は負けまくってた俺に飽きずにずっと教えてくれたしずっと助けてくれたぞ?だから俺は強くなれたよ」


 「くっ。そ、そんなこと知るかよ!これでも喰らえ!」


 ぽいっ!


 トマス選手はモーリスに使ったように、胸元に手を入れてゴルフボール大の玉を俺に向けて放り投げたんだ。


 パアアアァァァッッッ!


 即座に煙が広がら‥‥‥‥ない。


 「ゲイル(疾風)!」


 忽ち煙は消えた。


 シュッ!

 シュッ!


 ザクッ!

 ザクッ!

 

 「トマスお前さ。毎回毎回お前の卑怯な技に付き合ってくれる奴なんていないぞ?」


 「う、う、うるさい!うるさい!うるさい!」


 「それこそ負けたり死んだりしてからもまだ文句言うのかよ?」


 「そ、それは‥‥」


 「ここからはキム先輩に学んだ速さでお前を屈服してやるよ。よく見てろよ!」


 俺は腰の脇差をぬいてトマスに急接近する。

 

 突貫、ブースト、さらに足に纏った魔力を速さのみに特化。変幻自在にも見える高速アタックだ。


 「1人め」


 「2人め」


 「3人」


 「4人」


 「5人」


 トマスに向けて刀を振り下ろす。刺突。左から薙いでは右へ移動して右から薙ぐ。

 正面から一気に後方へ。後方から一気に正面へ。瞬時の移動。

 刀は背で斬り、刺突はチクッと刺すくらい。


 「6人め」


 「7人」


 「8人」


 「9人」


 「10人」



 ただでさえ毒が回って弛緩する身体は視覚情報も反射神経も即座に伝えきれない身体だ。

 俺との格段の速さの差にトマスは愕然としていることだろう。


 「動いてみろよトマス」


 「くっ‥ハァハァハァハァ‥」


 「キム先輩は身体中にその矢が刺さったままでみんなのためだけに動いたんだぞ!」


 「ハァハァハァハァ‥‥」


 「俺にさえ歯が立たない今のお前がキム先輩を語るなよ!」


 「うっ‥‥」


 「俺はなトマス、キム先輩のすごい技術を聞ける環境にあるお前が正直羨ましいよ」


 「えっ?!」


 「弟のお前がキム先輩を好きか嫌いかなんて関係ない。

 ただ強い相手からどうしたら強くなれるのかを聞けるお前がなぜ聞かない?なぜ実践しない?ずーっと拗らせ坊っちゃんのままか?」



 実戦だったら何回倒したことだろう。


 「まだ闘るか?」














 「‥‥いや。俺の負けだ」



 「冒険者ギルド推薦の狐仮面ハンス選手の勝ちです。

 これにより決勝戦は狐仮面ハンス選手対エルフ族のナダル・スカイ選手に決まりましたー。明日がいよいよ決勝だよー」




 準決勝。

 トマスとの闘いが終わって。


 「狐仮面‥‥いやハンス。あとで少し時間はあるか?」


 「ん?いいけど」


 「お前のダチのモーリスに詫びたい」


 「わかった」


 「明日は必ず勝てよ」


 「ああ。必ず勝つよ」



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