412 選民思想



 午後の第2戦が始まった。これでベスト4が出揃う。



 「獣人国代表ライル・ビースト選手対エルフの里代表ナダル・スカイ選手でーす」



 ライル選手はライラ先輩と同じ獣人最強の獅子獣人だ。

 獣人国は中原ではほぼ唯一と言っていい、獣人が国を治めている国だ。

 

 中原の東部、深い山々の先。黒い森並みに危険な魔獣が多い森を潜らないとたどり着けない奥地に広がるのが獣人国だ。

 言葉は悪いが辺鄙な場所かつ他国から狙われるような大した資源もないのが幸いした。建国以来数100年を大過なく過ごせているらしい。


 「デカっ!」


 しかし男の獅子獣人はほんとデカいよな。筋肉モリモリでバッキバキだよ!伸ばした金髪はまるでたてがみのようだし。


 その雰囲気は俺が最初にタイガー先輩に抱いたものに近いものがあった。そう、強者そのものの雰囲気だね。


 それでも俺とシルフィの見立てでは俺と決勝戦で闘る相手はライル選手じゃない。対戦相手のあいつだ。

 エルフの里代表ナダル・スカイ選手だ。


 ナダル・スカイ


 5年生くらいなのかな。でもエルフだから実年齢とのギャップはあるのかもしれないけど。


 すらりとした長身に銀髪。いわゆるモデル系のイケメンっていうやつだ。


 「アレクと対極じゃん」


 はい。十二分に理解してます……。


 ちょっぴり冷たく感じる目元と皮肉っぽく感じる薄い唇が特徴的だ。全体像はなんとなく冷酷に見えるな。

 はい、もちろんこれは俺の僻みです。



 「勝敗はこれまでと一緒だよー。どちらかが負けを認めるか戦闘不能になるまでねー。じゃあ始め!」



 「よろしく」


 「フッ」


 ライル選手の伸ばした手に応えることもせず。ただ小馬鹿にした笑顔を浮かべたナダル選手だ。


 「‥‥」


 「どうした?かかってこいよ獣人」


 「そうか。礼儀もなしと言うわけだな。やはりエルフ族という奴か。仕方ない」


 ダンッッ!


 1足飛びに一旦距離をとったライル選手。


 「では参る!」


 ダンッッ!


 鉄爪を前に一気に接近するライル選手が鉄爪を振り上げる。


 シューッッ!


 地面から数10セルテ浮いたまま一気に後ろへ飛び下がるナダル。


 「シルフィ‥」


 「ええ。あの子に憑いてる風の精霊のせいね」


 それは先ほどのライル選手が1足飛びに下がったのと同じ。いやそれ以上にごく自然に見える後退だった。


 「危ない危ない。高貴なエルフの顔に穢らわしいケモノの爪痕がつくところだった。ケモノは油断ならないな」


 「ケモノ、ケモノと言うな。俺は誇りある獣人族だ!」


 「ん?ケモノはケモノだろう。だいたいケモノの分際で高貴なエルフの俺に気やすく話すことさえ失礼極まりないのだがな。フフフ」


 「お前‥‥嫌なところばかりが目立つエルフだな」


 「フン。ケモノ如きに好かれなくてもよい。じゃあ今度はこっちから行くぞ」


 「エアカッター!」

 「エアカッター!」


 見えない攻撃、エアカッターの連撃がライル選手を襲う。


 ザンッ!

 ザンッ!

 ザンッ!

 ザンッ!


 「うっうっ‥」


 ライル選手の両手両脚、脇腹が刀で薙いだように深い切り痕ができる。


 「エアカッター!」


 ザンッ!

 ザンッ!

 ザンッ!

 ザンッ!


 「エアカッター!」


 ザンッ!

 ザンッ!

 ザンッ!

 ザンッ!


 「エアカッター!」


 ザンッ!

 ザンッ!

 ザンッ!

 ザンッ!


 「エアカッター!」


 ザンッ!

 ザンッ!

 ザンッ!

 ザンッ!


 「エアカッター!」


 ザンッ!

 ザンッ!

 ザンッ!

 ザンッ!


 「エアカッター!」


 ザンッ!

 ザンッ!

 ザンッ!

 ザンッ!


 「エアカッター!」


 ザンッ!

 ザンッ!

 ザンッ!

 ザンッ!


 それは見るに耐えない、なぶり殺しに近いものだった。


 「エアガード!」


 ライル選手が近づこうとすれば強烈な逆風でまるで近づけさせない。それでも近づいてきたらまた自らが距離を置く。そしてまた風で切り刻む‥‥。


 「エアカッター!」


 ザンッ!

 ザンッ!

 ザンッ!

 ザンッ!


 「エアカッター!」


 ザンッ!

 ザンッ!

 ザンッ!

 ザンッ!


 「エアカッター!」


 ザンッ!

 ザンッ!

 ザンッ!

 ザンッ!


 「エアカッター!」


 ザンッ!

 ザンッ!

 ザンッ!

 ザンッ!


 「エアカッター!」


 ザンッ!

 ザンッ!

 ザンッ!

 ザンッ!


 「エアカッター!」


 ザンッ!

 ザンッ!

 ザンッ!

 ザンッ!


 離れた位置からライル選手を切り刻み続けるナダル選手、いやナダルのクソ野郎だ。


 いつしか全身が血塗れとなるライル選手。


 そこにさらに。


 シュッ!


 シュッ!


 シュッ!


 シュッ!


 ザクッ!


 ザクッ!


 ザクッ!


 ザクッ!


 時おり弓矢を射る。

 それも手首、足首、肘、膝などライル選手の運動可動域を司る関節ばかりを狙っての矢。



 「あいつら趣味悪いな」


 「ええ。エルフはもちろんだけど精霊の子

 もね。風の精霊の風上にも置けないわ‥」


 ガクガクガクガク‥


 「くっ‥‥くそっ‥‥」


 ライル選手の動きがついに止まった。


 「なんだケモノ。もう動けないのか。仕方ない。手助けしてやるよ。踊ってみろ」


 「ファイアボール!」


 ゴオオオォォォッ!


 ライル選手の足下に火の玉を着弾させるナダル。咄嗟に動くライル選手。するとそこにまた別の火の玉が。


 「ファイアボール!」


 ゴオオオォォォッ!


 「踊れ踊れ。ハハハハもっと踊れよケモノ」


 「ファイアボール!」


 ゴオオオォォォッ!


 「ファイアボール!」


 ゴオオオォォォッ!


 「ファイアボール!」


 ゴオオオォォォッ!



 アキレス腱といわず、足の甲、膝の関節部に遠慮なく突き立てられる弓矢がライル

 選手に残るなけなしの体力を奪っていく。



 「ハァハァハァハァハァハァ‥」











 そしてついに。


 











 ドウッッッ。


 その場に倒れ伏したライル選手。


 「勝負あったか?ぴくりとも動かないライル選手です。

 この勝負ナダル選手の勝ちです!」



 「フン。勝つのは当たり前だろ。ああ、ケモノはついでに燃えるゴミだな」


 「ナパーム!」


 それはレベル4。面制圧に使う火魔法だ。


 ゴオオオオオオォォォォォッ!


 ライルが高温の炎に包まれた。


 

 「いくらなんでもやり過ぎだろ!

 いくぞシルフィ!」


 「ええ!」


 ダッ!


 「ゲイル(疾風)!」


 炎の中のライル選手をこのまま放っておいたらマジでまずい。


 ゲイル(疾風)で炎を飛ばしてすぐに救出。


 「ウォーターヒールボール!」


 そのまま水球に身体ごと包む。

 この水球には多少の回復作用もある。


 「狐仮面助力に感謝する」


 「「急げ急げ!」」


 「「早く医務室へ!」」


 あとは回復専門のプロに任せておけばいいだろう。




 「おい。てめーやり過ぎだろ!」


 「はあ。ヒューマンが精霊連れてるかと思ってたらお前だったか?」


 「勝ち負けに殲滅する必要がどこにあるんだ!」


 「フッ。弱い者は駆逐するのみだ。ましてケモノ風情のどこに遠慮する必要がある?俺は高貴なエルフなんだぞ?」



 ああコイツは海洋諸国のトマス・アイランドと同じか。自身の力に酔ってる奴。他者を認めない奴だ。


 「わかったよ。じゃあ明後日の決勝、俺と闘るとき覚悟しとけよ」


 「フッ。ヒューマン如きにどう覚悟する?こんな大会なんか俺の圧倒的な力で優勝してやるよ。お前はその前の踏み台しかならん」


 「そうかよ。じゃあその人族の踏み台に手も足も出ずにやられたらどうするんだろうな。楽しみにしてるわ。じゃあ明日な」





 あーくそ!こんなムカつく奴は話せば話すほどますますムカつくわ!ムキーー!


 「アレクそれはモテないちゃんの僻みだよ!アハハハハ」


 「さーせん。シルフィさん」


 わかってる。シルフィがわざと言ってることくらい。


 「いいアレク。かぁーっと頭に血が上ったときほど笑って一旦落ち着くんだよ」


 「そうだねシルフィ」


 「明日あのエルフはびっくりするわ。


 バカにしてるヒューマンが並のエルフより遥かに強い魔力を持ってるってことに。それとあの精霊の子にも格の違いをみせつけてあげるわ」


 「俺の魔力って増えたのかなあ」


 「ええ。そこらのエルフより断然ね」


 「そっか」


 3歳からほぼ毎日欠かさずニギニギやってたからな。


 「魔力は増えたわ。同じくらい変態さもね!」


 「はい‥‥」


 そこはやめてくれよ……。俺も最近自分が変態なんじゃないかって不安になってきてるんだから。




 ▼




 「(タイラー狐のお面付けてて正解だったな)」


 「(ああロジャー。あの馬鹿、剣だけにすれば良いのに土に風に水まで発現させやがったからな)」


 「(まああと2日このまま狐仮面を取らなきゃバレないって)」


 「(そうだな)」



 ―――――――――――――――



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