397 2年めの武闘祭
あっという間に秋になった。そしてあっという間に武闘祭となった。
今年も6学年1800人の中から自分の力で勝ち取った10傑が学園ダンジョンに行くことになる。俺は今年も10傑になる。絶対に。
週に2、3度。レベッカ寮長に教わる体術の練習も欠かさない。毎日やれないのは成長期の体術のやり過ぎは成長の妨げになるらしいからなんだ。
「アレク君体術もだいぶよくなったわ。これなら体術だけでもそこそこいけるんじゃない」
「うん。でも寮長俺小さいし体重も軽いから」
「それは仕方ないわよ。まだ成長期前なんだから。その代わり速さがあるわ。速さだけなら学園でトップクラスよ。6年生だってアレク君にはぜんぜん敵わないわよ」
「そうだね。たしかに俺速さだけは自信があるよ」
「でもねアレク君」
「何?寮長」
そう言ったレベッカ寮長が真剣な顔をして言ったんだ。
「いいアレク君。あなたは去年までの先輩マリーさんを受け継がなきゃいけないの」
「それって寮長‥」
「ええ。目標が10傑に入ることじゃダメなのよ。
圧倒的な力でこれから5年間学園の頂点として君臨しなさい。そしてあなたに挑んでくる1799人のための目標であり続けなさい。
これはマリーさんから受け継いだ、あなただけがやり遂げなきゃいけないことなのよ」
「わかったよ寮長」
「わかったのならいいわ。でも頂点に立てなかったらわかってるわね?」
くすっと笑ったレベッカ寮長が獲物を前に舌舐めずりする蛇のように見えた。
「えっ?何?まさか罰ゲームかなんか?」
「違うわよ!もっといいことよ!失礼ね!
頂点に立てなかったアレク君をあたしが慰めてあげる。ご褒美ちゅうをあげるわね!」
「あははは‥‥それだけは‥‥」
武闘祭。
去年は対戦相手のスタイルに合わせて闘う闘い方だったけど今年は違う。レベッカ寮長の言葉から俺自身に誓ったんだ。
俺の持つ魔力、剣技、体術、その力のすべてを使って全力で勝ち上がるって。
準々決勝ではあの獅子獣人の女傑ライラ先輩とあたった。もちろん勝ったよ。さすがに2年続けてライラ先輩のブラを剥ぐ真似はしなかったよ。俺変態じゃねーし。
でもね。
なぜか俺勝ってからの記憶がないんだよね……。
準々決勝、2年1組のアレク選手の勝利です。ここまで圧倒的な強さで勝ち進んだアレク選手。
ここでも5年1組No. 1獣人女子のライラ選手をまったく寄せつけませんでした。強い、実に強いアレク選手です。
おおーっ!
アレク選手とライラ選手が固い抱擁で互いの健闘を讃えあっています。素晴らしいですねー。闘い終われば互いの健闘を讃えあう姿は。
ん?
ブシューーーーッッ!
たいへんです!
アレク選手がいきなりライラ選手を前に大量の血を吐いて倒れました!いったいなにがあったんでしょう?
大丈夫ですかアレク選手?
大丈夫ですか?
えっ?なに?
ありがとうございます?
ライラ選手いったい何が?
「知らないわ。いきなり私の胸に血を吐いて倒れたんだから。
そういや去年もこんな感じでアレク君鼻血を噴水のように出して倒れたのよね」
「セーラ‥」
「シナモン‥」
「アリシア‥」
「キャロル‥」
4人のクラスメイトが顔を見合わせ確信を持ってつぶやいた。
「「「変態よ‥」」」
決勝戦はシャンク先輩だった。シャンク先輩はさすがに一筋縄ではいかない強さだった。去年のタイガー先輩を彷彿とさせる木爪の鋭さだった。
「アレク君やっぱり君は強いね」
「いえシャンク先輩もやっぱり強かったです」
「今年もダンジョンよろしくねアレク君」
「はいシャンク先輩。うまいもん食べながら進みましょうね」
「そうだねアレク君。楽しみだね」
「はい先輩」
わはははは
ははははは
結果。2年続けてセーラと俺が下級生から10傑となった。
6年生7人、5年生1人、2年生2人だ。
えっ?モーリス?
うん、モーリスは出場自体を棄権したんだ。
「モーリス武闘祭だけでも出たらいいじゃん」
「ああ。でもな武闘祭に出たら‥‥きっと欲が出るからな。
俺はまだまだ自覚が足りないんだよアレク」
「モーリス。お前‥‥立派だよ。
よし、お前の分まで俺は頑張るからな」
「ああ頼んだよアレク」
学園ダンジョンの日程とロジャーのおっさんの結婚式の日程がダブってるんだよね。
モーリスは領主の次男なんだ。だから自分だけが自分の欲のためにダンジョンには行けないって。あいつなら今年は一緒にって思ってたんだけどな。
シャンク先輩、ライラ先輩を除く今年の10傑メンバー。1人同じ寮の先輩を除いてあまり知らない先輩たちだ。
それは最初の準備段階から顕著になってたんだ。
「今年の学園ダンジョンの総隊長、副隊長を含むさまざまな決定は年功序列、しかも人族6年生でいこうと思う。異議のある人は?」
「賛成」
「異議なし」
「「賛成だ」」
「ちょっといいですか。僕が知ってる慣例では10傑の1位が総隊長で2位が副隊長なんだけど?」
シャンク先輩が発言した。
「(チッ)」
「(獣人風情が)」
そんな独言が聞こえた。
隣に座るライラ先輩が唇を噛み締めて手をぎゅっと握るのが見えた。
上級生棟。10傑専用の部屋に嫌な雰囲気が漂ったんだ。
そんな雰囲気を気にもせずにその人族の先輩が発言したんだ。
「総隊長、副隊長を6年人族でいくのに賛成の人は挙手を」
「はい」
「はい」
「はい」
「はい」
「はい」
「ユーリお前?」
「種族も学年も関係ない。ヴィヨルドは実力主義のはずだ」
「(お前人族じゃねぇのか)」
「(チッ裏切り者め)」
「(だから平民の寮生は)」
それは男子寮の先輩だった。覗きになると人間が豹変するユーリ隊長だった。
「ではダンジョン前にもう1度採決することにする‥‥」
嫌な雰囲気のまま1回めの顔合わせが終わったんだ。
その後も……。
「あの‥先輩みんなで隊列の練習とか‥」
「ああ君ら下級生や獣人は君らでやってくれたまえ」
「一緒に‥」
「僕らは僕らでやるから。行こうかみんな」
「「「おお」」」
「シャンク先輩」
「心配しなくていいよセーラさん。そのうちみんなも気付くと思うから」
「おお。みんな気にするな。きっとうまくいくよ」
「ユーリ隊長‥‥」
「前から聞きたかったんだけどアレクは何でユーリ先輩をユーリ隊長って呼ぶの?」
「へっ?そ、そ、それはなセーラ‥‥内緒だ。でも困ったよな。こんなんじゃ集団行動もできないじゃん」
「「「‥‥」」」
「考えても仕方ない。俺たちは俺たちで修練するぞアレク隊員」
「はいユーリ隊長!」
「じゃあさアレク君、私と体術の練習する?」
「は、は、は、は、はいー。喜んで!」
「アレク隊員ずるいぞ!」
「あはははは‥‥」
ブシューーーーッッ!
「キャーーーッ!」
「チッ!この変態め!」
「「(セーラさんコワッ!)」」
ダンジョンを登る10日前。
トールの父親(シャンク先輩の叔父にあたる)が突然亡くなったんだ。
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