383 狙い撃ち



 ガクンッ!


 ズズズーーーーーッッ!


 ズズズーーーーーッッ!



 充分に騎馬を引きつけてから土魔法を発現したんだ。そう学園ダンジョンで毎夜のように発現してた外堀と内堀の2重堀。これを馬が飛び越えられない、6メルくらいの幅で。深さは0.5メル程度だよ。浅いって?そりゃそうさ。だって馬が転けて骨折でもしたらかわいそうじゃん。

 でもこれで前後左右の賊をそれぞれ分断できた。歩行の賊は怖くないからね。


 「先生後ろはお任せします」

 「わははは。馬への気遣いも善きかな『ハイル君』。よし任された」

 「ほれジェイブ殿。魔法の弓矢を射んか。こっちの騎馬じゃ」

 「あ、あ、ああ‥」


 「(お、おいジェイブ‥)」

 「(フランクリン、ゲイブ‥俺たちは夢を見てるのだろうか?)」

 「「(ああ‥)」」



 俺は正面の賊に矢を向けた。20騎のうち、2騎とその周りの5騎は明らかに服装が違ってたからね。私服なんだけどぼろぼろじゃない。

 よし。こいつら7騎を射るか。1騎はス◯夫君。もう1騎は騎乗姿は様になってるけど、どこぞのおぼっちゃまだな。私服がさらに高級だよ。あとの5騎は服の下に‥‥鎧だよ。

 あ〜あスネ夫君はもう2射受けてるんだよなぁ。これでゾンビ確定だよ……。


 「シルフィ鎧の5騎はお願い!」

 「フフフ。任せといて!ギッタンギタンよー!」


 ふんすと(ない)胸を張ったシルフィだ。


 ない? じーーーーーっ


 ヤバい!ヤバい!騎馬よりもシルフィのほうが遥かに危険だよ!


 シュッ!

 シュッ!

 シュッ!

 シュッ!

 シュッ!

 シュッ!

 シュッ!


 「いてえ!」

 「いたあぁぁぃぃぃ!」

 「「「うわっ!」」」


 おぼっちゃまとス◯夫君は手の甲に矢を射った。さすがに鎧を着込んだ5騎は上手く射られる自信がなかったからシルフィに補正をお願いしたんだ。


 「アレクあんたさっき‥‥ふん。覚えときなさいよ!」


 コワッ!怖っ!

 シルフィさんマジこわっ!



 ヒヒーーンッッ

 ヒヒーーンッッ

 どうどうっ!

 どうどうっ!

 落ち着け!

 落ち着け!


 いきなり地中から現れた2重の堀に大混乱となっている騎馬群。この隙を逃すものか。


 「『ハイル君』歩行の賊は倒してきてくれるかの。明らかな騎馬の賊もの」

 「はい先生」

 「よもやとは思うがこの状況で同情はせんことじゃよ。行き過ぎた優しさは仲間を危険に陥れるからの。冷酷なようじゃがやむを得まい」

 「はい先生。肝に銘じます!」

 「わかっておればよいのじゃよ。戦と同じじゃ。大局を観て動きなされ」

 「はい先生!」

 「では仮面を落とさぬようにな。期待しておるよ」

 「はい!」


 ああ、俺いつか本当にテンプル先生と旅をしたいな。


 「時期をみてあの2人には落馬でもして退場してもらうといいのおワハハハ」


 そんなテンプル先生の声を背に俺は正面の賊の群れに突っ込んだ。


 「突貫!ブースト!」


 グンッ!

 ダッッ!


 姿勢は低く、背負う刀に手を合わせつつ突っ込む俺。


 「「来るぞ!」」

 「気をつけろ!」


 内堀を飛び越え、騎馬の腹を潜り一気に歩行の賊をなで斬りにしていく。


 ザンッ!

 ザンッ!

 ザンッ!


 グハッ!

 ううっ!

 がはっ!


 トップスピードで賊を斬っていく。


 斬ッッ!

 斬ッッ!

 斬ッッ!


 刀で切り結ぶなんてことはしない。それぞれに一撃のみ。ただ時計回りに駆け抜けていく。


 ザスッッッ!

 うわぁぁっ


 騎馬の賊には下から刺突を加えていく。


 「仮面のクソがっ!」

 「くらえ!」


 ビュッッ!

 ビュッッ!


 鎧を仕込んだ騎馬の賊から槍の攻撃を受ける。

 が、これも気配と視覚、全身に纏った瞬時の魔力の移動のみで攻撃を受けることなく避けきっていく。


 ザンッ!

 うっっ!


 鎧に跨る賊の足の腱や伸びてきた槍の腕はついでに斬らせてもらうよ。


 斬ッッ!

 斬ッッ!


 「なんだコイツは!当たらないぞ!」

 「早すぎる!どうなってる?!」


 騎馬と騎馬、歩行と歩行の間をトップスピードのまま斬り抜けていく。

 それはリズ先輩との間で培われた魔力受け渡しの訓練と、あおちゃんから学んだ体内魔力の流れの把握とその結実。これが自然に身体の動きとなって現れていく。


 回避、攻撃また回避。

 攻撃、回避また攻撃。


 それら瞬時の判断が、最善の解答となって実践されていく。脳からの司令を受けるまでもなく反射的に行動となって現れていくんだ。四肢含む全身に脳が付いてる感じ?俺自身が魔力の流れを把握した上で、最善の解答となって体現されていくんだ。賊の動きもゆっくり捉えているよ。

 学園ダンジョン後半の成果が今現実の実践となっている。

 てかこの程度の相手なら野生の魔獣のほうが難しいかな。かといって油断はしないけど。


 「テンプル先生アレク君ってあんなに強かったんですね‥」

 「サンデーちゃんや、アレク君はあれでも実力の半分もだしておらんぞ」

 「すごい‥」


 よし。賊全体に戸惑いと恐怖が行き渡った。


 ズズズーーッッ!


  ズズズーーッッ!


 瞬時に内堀と外堀を埋め戻して賊の逃げ道を用意した。あとは賊の頭に恐怖を刷り込むだけだ。


 「土遁、アースクウェイク!」


 ドンッ !

 グラグラグラ‥

 

 ドンッ !

 グラグラグラ‥


 馬の足下。地面直下に地揺れの縦揺れを発生させる。


 うわあぁっ!

 うわあぁっ!

 うわあぁっ!

 うわあぁっ!


 ドスンッ!

 ドスンッ!

 ドスンッ!

 ドスンッ!


 馬もろとも。或いは馬から振り落とされる賊たち。

 咄嗟のことに馬自身が4つの脚で立っていることさえできない。無論騎乗の賊に馬を制御することなんてできるわけがない。


 「ううっ‥何が起こっている?!」

 「これはLevel3どころの魔法じゃないぞ‥」

 「あの狐仮面も鬼神の如き強さだ‥」


 ここまで。

 賊たちに考える間もなく降りかかる災難の連続だった。

 そしてテンプル先生が犬の仮面をつけたまま一歩前に出た……。















 「まだやるかの?」


 そのテンプル先生の言葉が契機となった。



 「引け引けー!」

 「「あわわわ」」

 「「引け引けー!」」

 「ヒーッヒーッ!」

 「逃げろー!」
















 「「先生さすがです!」」

 「なんのなんの。よくやってくれたのはアレク君じゃよ」

 「すごいわ。先生とアレク君の連携!」


 わははは

 ふふふふ

 あははは


 そんな中、鉤爪の3人も馬を降りて俺たちの前っていうか、俺の前にやってきて跪いたんだ。














 「「「ハンスの兄貴!」」」




 ―――――――――――――――




 いつもご覧いただき、ありがとうございます!

「☆」や「いいね」のご評価、フォローをいただけるとモチベーションにつながります。

 どうかおひとつ、ポチッとお願いします! 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る