384 合流



 その後は1点鐘もかからずに領都アネッポに到着したんだ。


 「ハンスの兄貴着きましたぜ」

 「兄貴おつかれーっス」

 「兄貴」


 「ププッ。いいわね『ハンス君』慕われてて」

 「ほんにのぉ『ハンス君』や」


 フフフフフ

 ワハハハハ


 「やめてーーーーー」


 鉤爪の3人がすっかり俺に心酔してるみたいなのはすっごく居心地悪かったけど。



 海辺の街アネッポは案外人も多く栄えている印象のあるアザリアの領都だった。ぱっと見、海の魚や塩などの産業を中心に経済が回ってるみたいに見えるんだよね。まさか奴隷の集積地だとはな……。

 ああ奴隷制度はもちろん俺は反対だよ。


 街はヴィンランドとは比べるまでもないけど、サウザニアと比べたら‥‥うん、どっこいどっこい。いやこっちのほうが栄えてるかな。やっぱちょっぴりサウザニアの負けかな。

 アネッポには海の匂いが街の中にまで漂っていたよ。



 「止まれ。許可証かギルド証明を提示しろ」

 「はい。こちらを」

 「まさか‥‥サンデー商会‥‥」

 「必要であればわが主人を馬車から外へ出させますが?」

 「ひ、必要ない。し、失礼致した。お通りください」


 門の前では入門に際して騎士団に誰何されるかと思ったけど、呆気なく領都内に入ることができたんだ。しかも仮面のままなのにね。まあ襲ってきたのは「賊」で被害者は商人の俺たちだもんな。スムーズに領都内に入れたのは当然のことか。

 それにしてもサンデー商会の威光っていうかサンデー商会は有名なんだな。サンデーさんは猫仮面なのに‥馬車の中からスルーパスだった。馬車の外から見えるサンデーさんの纏うオーラってどうよ!?なにあの大物感!犬仮面のテンプル先生もだけど。


 「ププッ‥狐の仮面の子だけ‥コ・モ・ノねー。オーラの欠片もないわ。ねーシャイニーもそう思うでしょー」

 「や、やめようよシルフィ。そんなこと言ったらアレク君がかわいそうよ‥」

 「シッシッシ‥」


 シルフィが腹を抱えて笑っていた。えーっとねシャイニー、それって何気に傷つくんだよ……。




 「サンデーさん、テンプル先生。これからどうするんですか?」

 「そうよの。宿に馬車を預けたらロジャーの到着を待ってから領主の下に行くことになるかの」


 犬の仮面を付けたままのテンプル先生が言った。


 「あら意外。テンプル先生ロジャーさんの到着を待たれるんですね」


 猫の仮面をつけたままのサンデーさんも言った。


 「そりゃあサンデーちゃん、こんなおもしろい話をロジャーが参加する前に終わらせたら奴が怒るじゃろうて」

 「フフフ。もう先生ったら」


 ん?先生はロジャーのおっさんと面識があるのかな?


 「テンプル先生はロジャーのおっさんと面識があるんですか?」


 狐の仮面をつけたままの俺も聞いてみたんだ。


 「面識っていうか‥その‥まぁ‥アレク君のいうとおりじゃの。ワハハハハ」

 「そっか。さすがテンプル先生だ。ロジャーのおっさんも知ってたんだ」

 「「ワハハハハ」」


 「アレク君って中原の歴史とか王国の戦史とかあんまり‥‥なんだよね?」

 「ん?なにサンデーさん?」

 「んんん。なんでもないわ。フフフフ」

 「あはははは」

 「「フフフフフ(ワハハハハ)」」


 ん?歴史?戦史?なんだろう?




 「(おい執事殿が話されているのは『救国の英雄』殿のことだろうか?)」

 「(どういうことだ?)」

 「(いや名前が一緒なだけで違う人物のことだろう)」

 「(そりゃそうだよなぁ)」

 「(爺さんだぞ)」

 「(ああそうだな)」

 「(絶対そうだよ)」

 「「「(うんうん)」」」




 ▼




 すぐに貴族街らしき大きな屋敷ばかりがあるエリアに進んだんだ。そんな一角にある大きな宿屋に着いた。馬車も預けたよ。宿屋は石造りの立派な外観のホテルだった。

 目と鼻の先の高台には領都アネッポの領主様のお屋敷が見える。宿屋1階の喫茶室でお茶をしているうちにロジャーさんも到着したんだ。


 「老師」

 「ロジャー‥‥まあお主なら息災かの。ワハハハハ」

 「老師もまぁ‥‥見てのとおりか」

 「なんじゃその年寄りに失礼な物言いは!先ほど賊に遭うたばかりなんじゃぞ。死にかけたわ!」

 「死にかけたって‥どうせ爺さんが骸だらけにしたんだろうが!」

 「口が減らん奴じゃのぉロジャーは」

 「へいへい死にかけましたか。何事もなくてよかったな」

 「そうじゃ。そうやって年寄りは労わるもんなんじゃぞ」

 「へいへい」


 わはははは

 ふふふふふ

 あはははは

 ガハハハハ


 「(本物だ‥)」

 「「(ああ本物だ‥)」」

 「(夢じゃない。英雄だ‥)」


 鉤爪の3人は直立不動のまま固まっていた……。



 「ロジャーさん。紹介しておきますね。こちらの3人はサウザニアギルドの鉄級冒険者『鉤爪』のお3方です」

 「「「は、は、初めましてロジャーさん」」」

 「ジェイブです」

 「フランクリンです」

 「ゲイルです」

 「「「鉤爪です!」」」

 「お前らが鉤爪か。よくサンデーさんと老師を守ってくれたな」

 「「「め、め、めっそうもありませんっ!さっきも死にかけた俺たちが守ってもらいました」」」

 「ん?老師に?」

 「い、いえ。ロジャーさんとこのハンスの兄貴にです」

 「‥‥?」

 「プッ。あ、ああ。ロジャーさんもわからないでしょ。こちらの狐さんが『ロジャーさんとこのハンス君』ですよ。ププッ」

 「あ、ああ『ハンス』。ご、ご苦労だったな。ププッ」

 「ちーす(また帰ってからタイラーのおっさんと2人で俺を笑い者にする気だな!くそっ!)」


 「あ、あのロジャーさん」

 「なんだ鉤爪?」

 「執事殿を‥その老師って‥いったい‥」

 「ああお前らウチのハンスと一緒で大方この犬の仮面でわかんなかったか。

 老師はベルナルド・テンプル。大戦時モンク僧たちをまとめたテンプル騎士団って言えばわかるか?」

 「「「テ、テンプル騎士団!」」」

 「あ、あの王都騎士団、テンプル騎士団、冒険者の3共闘伝説の‥」

 「お、俺たち執事殿とか執事の爺」

 「「「失礼しましたー!」」」


 いきなりテンプル先生の前で土下座をした鉤爪の兄ちゃんたち。ん?なんで?



 ▼



 「んで老師。仕掛けは済んだのかい?」

 「ああロジャー。予想外に大物も釣れたわい。アネッポの領都騎士団員もな」

 「そりゃ良かった」

 「じゃあこのまま行くかい?」

 「そうしようかの。煩わしいことは早く片付けて今夜は美味い飯と酒でもいただこうかの」

 「いーねー老師」

 「そうじゃろロジャー」

 「もう2人とも」

 「「「わはははは」」」


 パンパン


 大きく手を叩いたロジャーのおっさん。宿屋のオーナーさんらしい人が慌てて飛んできた。


 「お呼びでしょうかロジャー様」

 「ああご主人。すまんがこれからすぐに向かうとご領主様に前ぶれを頼む」

 「は、はい。かしこまりましたロジャー様」

 「それとご主人、帰ったらうまいもんと酒を頼むな」

 「ははー」


 ばたばたと途端に慌てだした旅館のスタッフさんたち。


 なんかこんなの見るとロジャーのおっさんって偉いおっさんなんだなって思うよ。


 「ハンス。もうちょっとだけ手伝っていけ。暗くなる前には好きにしていいからな」

 「はいはいわかりましたよ」

 「はいは1回でいいっていつも言ってるだろワハハハハ」

 「はーい」


 なんか知らないけどもう少しで任務終了だ。今夜中に早く村に帰らなきゃな。


 あっ!せめてアネッポの美味いもんくらい食わせてもらわなきゃ。




 ―――――――――――――――




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