381 奇襲



 「冒険者の若者よ、ちと集まってくれんかの」

 「どうしたよ執事殿」

 「執事殿どうしたんだい?」

 「なんだい執事の爺さん」

 「お主ら3人に弓を扱える者はおるかの?」

 「ジェイブは?」

 「俺は昔かじった程度だな。といってもチューラットを射るのでさえ難しいがな」

 「「ププッ」」

 「なんだよ!じゃあフランクリンは?」

 「あー俺はぜんぜんだめだ」

 「じゃあゲイルは?」

 「俺は弓矢に触ったこともない」

 「なんだよ!俺のほうがマシじゃねぇか」

 「「ちょっとだけな」」

 「では決まりよの。ジェイブ殿この弓を持ってくれんか」

 「あ、ああ‥」

 「これより200メル先に岩場があろう」

 「「「ああ」」」

 「あそこに賊の手勢が潜んでおるからの」

 「えっ?!」

 「「「そうなの?」」」

 「執事殿は見えるのか!」

 「見えるというか‥‥居るじゃろ。冒険者として大成するならこれくらいはわからんといかんぞ」

 「「「執事殿すげぇ!」」」

 「‥‥まあよい。50メルほど進んでからじゃ。150メル先の賊に向けてジェイブ殿が矢を射掛けられよ」

 「執事殿よ。さっきも言ったように俺の矢は当らんねぇぞ?まして150メルなんて距離は届きもしねぇや」

 「大丈夫じゃよ。この弓には魔法を付与しておるからの」

 「「「魔法の弓矢!」」」

 「「「すげえぇぇ!」」」

 「だからのこの弓矢は『勇敢ある若者が射る矢は悉く敵を討たん』と伝えられておる伝説の弓矢なんじゃよ」

 「「「伝説の弓矢!」」」

 「「「すげえぇぇ!」」」

 「そ、そうなのか。ちなみに執事殿、この弓は買うと高いのか?」

 「そうよの5,000万Gくらいかの」

 「「「ご、ご、ごせんまんG!」」」

 「そんな伝説の弓矢なら俺でも当たるかな?じゃ、じゃあやってみるかな」

 「「いいなぁジェイブ」」

 「今回の依頼が無事に済んだらジェイブ殿にはこの弓矢を差し上げるからの」

 「えつ?!執事殿そんな高い弓矢を俺にくれんのか!」

 「ああ差し上げよう。ご主人様を無事にアネッポまで守ってくれたら感謝の気持ちで差し上げようの」

 「ヨッシャー!俺頑張るわ」

 「「いいなぁジェイブ」」



 「(ププッ。サンデーさんそんな便利な魔法の弓矢があれば俺が使いたいよ)」

 「(でもさすが先生よね。彼もうヤル気になってるわよ)」

 「(じゃあ俺ちょいと先に行ってジェイブさんの代わりに賊を射ってくるからね)」

 「(わかったわ。お願いねアレク君)」

 「(うん。先生が考えたおもしろい作戦だからね)」

 「(あっ、アレク君!)」

 「(なに?)」

 「(後ろから射られないようにね)」

 「(あー大丈夫。たぶん50メルも飛ばないし、先生に憑いてるシルフがしっかり補正してくれるから)」

 「(プッそうなのね)」


 気配を消して敵に近づく。これもまたキム先輩に教えてもらったスキルだ。




 【 賊ゼニコスキーside 】


 貴族然とした服装。細面の商人の男が横柄な小声で賊に指示をだす。アネッポ商業ギルド所属ゼニコスキーである。


 「ケケケケケッー。お前たちサンデー商会が来たざますよ。ミーが聞いてたとおり馬車が2台に護衛の馬が3頭ざますよ」

 「「「へーい」」」

 「サンデーはお前らが好きにしてもいいざます。でも荷物はミーのものざます。絶対に触るとダメざますよ。ああサンデーが身につけている宝石も絶対に触っちゃダメざますよ。


 ‥‥おい!お前!いいか!触んなよ!触ったら殺すぞ!


 あらいけない。ついついお下品な言葉をしゃべってしまったざます。お下品なお前たちに交わってしまったからざますね。あーヤダヤダ。ケケケケケケッ。あ〜あとはあれよ。馬も金になるから触っちゃダメざます。馬には傷をつけてもダメざますよ」

 「「「へーい(けっ気色の悪い守銭奴め)」」」

 「あと少しざます。合図と同時に一気に方をつけるざますよ」

 「「「へーい(たまにはお前も戦ってみろってんだ)」」」




 【 アレクside 】


 えーっと悪い賊の親玉は‥‥うんコイツかなあ。服がなんか高そうだもんな。顔はねこロボットのス◯夫君が大人になったみたいな奴だな。よし手のひらくらいにしとくか。


 シュッ!


 ザクッ!


 よーし手のひらに命中!





 【 再びゼニコスキーside 】


 ケケケケケケッ。ミーにいっぱい土産を持ってきてくれたざますよ。サンデーちゃんが持ってきてくれた馬車2台。コイツらを雇った金は充分過ぎるくらいペイできるざます。その上サンデーちゃんの身代金をミカサ商会から払ってもらえりゃ万々歳ざます。このままヴィンサンダーの「お館様」にも上手く取りいりゃあミーもホセの旦那に次ぐサウザニアNo.2の商会の座も見えてくるざます。アネッポと2つ拠点の大商会ざますよー。ケケケケケケッ。







 (もうすぐざます。もうすぐお宝が転がりこんでくるざます)








 (噂どおり馬も大きくて立派ざます。これも金になるざますね)








 (きたきた来たー)






 サンデー商会の馬車を今か今かと待ち構える賊の群れ。

 そこに。

 雇い主のゼニコスキーに予想もしなかったことが起こった。彼の手のひらにいきなり矢が刺さったのだ。


 シュッ!


 ザクッ!


 「えっ?!なにこれ?!・・・いたぁい!いたぁい!ミ、ミーの手に穴がぁぁぁぁぁぁ。

 チキショー!

 てめえら誰かポーションか回復魔法はねぇのか?!」

 「そんなもんあるわけないっしょ。まして回復魔法なんて発現できる奴なんざこんなチンケな盗賊にいるわけもないでさ」

 「くそー!てめえらなんとかしろ!いたぁい!いたぁい!いたぁぁぁぁぁぃぃぃぃぃ!」


 そんな商人ゼニコスキーのそばでは新たな矢が襲ってくる。


 シュッ!


 ザクッ!


 シュッ!


 ザクッ!

 

 「「うわあっ」」


 相次いで2人の賊の腕に矢が刺さる。


 「いたぁぃぃぃ!

 くそっ、くそっ、くそーーーっっ!

 たかが鉄級3騎が!大金を生むミーのお手手に穴を開けやがって!弓を扱う奴は1人だけざます。てめえらミーの仇をとりに行ってこい!」

 「(仕方ねえな。こんな奴でも雇い主だからな)よし。てめーら行くぞ」

 「「「へい!」」」


 シュッ!

 シュッ!

 シュッ!


 「うわっ」

 「痛っっ」

 「くっっ」


 瞬く間に賊20人中の5人に矢が刺さる。


 「くそっ。こ、これじゃ割に合わん。ひ、引けー」

 「てめえら勝手に引くな!」

 「「引けー」」

 「「「引けー」」」

 「ミーを置いていくなあああぁぁぁ!」


 蜘蛛の子を散らすように逃げて行く賊20人と最後尾を逃げていくゼニコスキー……。

 

 あっそういやテンプル先生はもう少し怒らせろって言ってたもんな。よし、お尻にも1射いっとくか。


 シュッ!


 ブスッ!


 「いたああぁぁぁぃぃぃぃぃっ!

 クソーっ!クソーっ!クソーっ!

 冒険者てめぇぇぇぇぇ!

 サンデー商会てめぇぇぇぇぇ!

 ミーに傷をつけたことぜったい許さないぞぉぉぉぉぉ!

 覚えてやがれぇぇぇぇぇーーーーー!」







 「やったな!ジェイブ。すごいな魔法の弓の威力は!」

 「ああ放ったと同時に賊に向かって矢がすごい速さで飛んでいったよ!」

 「「「すげぇな。伝説の弓矢は!」」」












 「シャイニーおつかれー。上手かったよー」

 「えへっ。アレク君も手の甲に当てたの上手かったわね。あと‥‥ププッ。お尻に当てたのも良かったわ」

 「ワハハ。でもビリー先輩のほうが俺より断然上手かったんだよ」

 「フフフ」

 「わはは」





 ▼





 盛り上がる鉤爪の3人にバレないように馬車の中に戻った俺。


 「アレク君ご苦労様」

 「アレク君ようやった。賊の腕や手の甲に上手に当ててくれたの。お尻にも‥‥クックックようやった」

 「賊の腕に当てたのはシャイニーですよ」

 「いやいや手の甲を狙って当てる技量はなかなかできることじゃないわい」

 「あはは。でも先生さすがにこのくらいは俺でも簡単ですよ」

 「いやいや重畳重畳」

 「先生次は何を?」

 「皆逃げていったからの。おそらく今日はもう何もないじゃろうな」

 「明日ですかね」

 「いやおそらく明後日じゃろう。あの親玉は烈火の如く怒っておったからな。おそらく大枚叩いてでも賊を集めてくるじゃろうな。ひょっとするともっと大物を連れてきてくれるかもしれん」

 「楽しみですねー先生」

 「ハッハッハ。そうじゃの。たぶん次に来るのはアザリアに入ってからじゃろうな。領都アネッポの手前。山を抜けた平地あたりで待ち構えておろうな」

 「先生なぜですか?」

 「20人で失敗しておるからの。アレク君が最初に射かけた親玉の男、ありゃたぶんアザリア領の力ある商人じゃろうな。それがお尻にのおワハハハハ。うまくいけばさらに親玉を連れてくるわい。

 今ごろ彼奴の親玉に報告に行っておるわ。親玉にしたら我らに逃げられたら困るじゃろ。しかもじゃ。彼奴は奇襲のはずが奇襲を受けておる。尻も痛いしの。ワハハハハ。おそらく彼奴は3人の鉄級冒険者はひょっとして強いんじゃなかろうかと思うわの」

 「でしょうね」

 「怒りに燃えつつも商人じゃからの。だから失敗はできぬと算段しとるわ。それはすでに間違えた判断なんじゃがの」

 「そうなんですね」

 「おそらく次は正攻法で来るじゃろうな。40人か50人、うまくいけば100人引き連れて待ち構えておろうなワハハハハ」

 「楽しみねーアレク君」

 「テンプル先生。先生なんかめっちゃ悪い顔してますよー」

 「ワハハハハアレク君もな」

 「「「ワハハハハ」」」


 テンプル先生が越後屋の悪徳商人のような顔になって笑ってた。

 先生コワッ!


「楽しみー」ってサンデーさんは遠足の前の日のようにキラキラした顔で言ったんだ。

 なんで綺麗な人って戦闘狂なんだろう……。

 サンデーさんもコワッ!


 

 ―――――――――――――――



 いつもご覧いただき、ありがとうございます!

「☆」や「いいね」のご評価、フォローをいただけるとモチベーションにつながります。

 どうかおひとつ、ポチッとお願いします! 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る