380 テンプル先生



 ダッダッダッダッ‥

 ゴロゴロゴロゴロ‥


 鉤爪が乗る騎馬を先頭に2台の馬車が進む。馬車を操る御者はサンデー商会専属の人たちだ。サンデーさん曰く「下手な冒険者より強いの」だそうだ。


 馬って楽ちんだよなぁ。しかも俺と変わらないくらい速いし。

 (本当は俺のほうがもっと速いけど)

 これなら1日4、50㎞は余裕だよなぁ。

 でも平成令和と緩い時代を生きてきた俺にはね‥‥やっぱりおケツがめちゃくちゃ痛い。せめてクッションでも作ろうかな。サンデーさんもテンプル先生も普通に座ってるけど、俺には無理だなあ。やっぱり野営をするときにショックアブソーバー(ダンパー)を付けようかな。実は付けようと思って鉄を持ってきてるんだけどね。でもなあ。あんまり文明化を勝手に進めたらダメな気もしてるんだ。サミュエル学長ともそのへんの意見は一致してるよ。食べものはまだしもあまりに文明を進め過ぎたら良くないだろうってことなんだよね。戦争につながる可能性があるものなんか特にね。鉄砲、火薬の類いはこの時代に先立って普及させたらダメだってことは俺でさえ思ってるよ。うーん馬車のショックアブソーバーはやっぱりやめとこ。これも兵器に利用される可能性もあるからな。うん。ショックアブソーバーを装着していいのは俺が使うリアカーぐらいだな。



 「アレク君」


 テンプル先生が傍の小瓶を手渡して俺に言ったんだ。

 

 「何ですかテンプル先生?」

 「今日にでも賊が襲撃してくるじゃろ。アレク君はそのとき指示を出している賊の頭(かしら)にこの薬を塗った矢を射ってくれんかの。これは射られた身体が変色する魔法薬なんじゃよ」

 「テンプル先生俺これ知ってます!魔法塗料ですよね。学園で10傑を決める模擬戦のときに使いましたよ!」

 「おおそうかい。まだ使ってくれておったのかい」

 「まさかあの魔法塗料は先生が作ったんですか?」

 「ああ大昔になるがの」

 「すげぇ。さすがテンプル先生だ」

 「なに遊びで作ったやつじゃよ。じゃがなアレク君の知っとるやつとは違うぞ。すこーし改良したんじゃよ」

 「改良!なにそれ!」

 「今の魔法塗料はの、色が付くタイミングはワシの思うままなんじゃ。ワシの合図と同時に色が付くんじゃよ」

 「すんげぇーー!」

 「ワハハ。じゃろう。まさか襲ってきた証拠に使われるとは奴らも思うてまいて」


 すげぇな。その色が付くタイミングを選べるって魔法塗料は。


 「先生、色はピンク→赤→紫の変化ですか?」

 「そうじゃよアレク君。しかもだんだん色が変わっていくんじゃよ」

 「すげぇ!すげぇー!先生めっちゃ楽しみです!」

 「じゃろ。そしてな今回のは発色した色は1日2日じゃ落ちんのじゃよ」

 「えっ?それってまさか長いこと色が消えないんですか‥‥」

 「そうさのぉ。1、2年も落ちんかのぉ」

 「やっばっ‥‥」


 紫色のゾンビで1、2年過ごすのかよ。想像しただけで怖いや……。

 

 「フフフ、テンプル先生なんだか楽しそうですね」

 「ああ。こんな悪巧みは楽しゅうて仕方ないよワハハハ」

 「ははは。俺賊に同情します」

 「何を言うておる。その賊をなで斬りにしようと待ち構えておるアレク君のほうがよっぽど怖いわ」

 「いえテンプル先生のほうが怖いです」

 「いやいやアレク君じゃろ」

 「いえいえ先生です」


 ワハハハハ

 フフフフフ

 わはははは


 「そういやアレク君は精霊魔法を使えるの」

 「はい。俺に憑いてくれてるこの子はシルフィです」

 「よろしくねー先生」

 「シルフィちゃんか。可愛いのぉ」

 「やだ先生ったら!正直ね!」

 「ははは。ワシに憑いてくれとるこの子はシャイニーじゃ。この子もかわいいじゃろ」

 「「よろしくねシャイニー」」

 「よろしくねアレク君、シルフィ」


 テンプル先生に憑いているシルフ(風の精霊)のシャイニーは大人びた見た目の綺麗系の精霊だった。もちろん見惚れてないよ。さすがに俺も学習したからね!


 「あらアレク君はひょっとして雷魔法を発現できるの?」

 「シャイニーちゃんなんでわかるの?」

 「あのねアレク君からは雷を発現できる人に特有のピリピリ感を感じるのよ。エルフでも雷魔法を発現できる人は今やごくわずかでしょ。雷魔法を発現できるアレク君みたいなヒューマンはもう100年はいないんじゃないかしら」

 「へぇー。」

 「雷を発現できる子はみんなピリピリってしてるのよ」

 「へぇーピリピリ?」

 「そうピリピリよ」


 それって身体に帯電してるってことなのかな。俺の頭にデンキウナギが浮かんだ。ニョロニョロしてピリピリするデンキウナギだ。


 「なにそれ!アレク怖っ!」


 あーやっぱシルフィは俺の頭を覗けるんだ……。


 「ほおアレク君は雷魔法を発現できるのかい」

 「はいテンプル先生。まだちょっぴりですけど」

 「そうかいそうかい。シルフが憑いとって雷魔法も発現できるヒューマンか。永いこと生きとるワシも会うたことがないのぉ。

 アレク君ちょいとワシと手を繋いでくれんか?」

 「いいですけど?」


 俺はテンプル先生と手を繋いだんだ。テンプル先生の手は大きくて温かい手だった。皺とタコだらけの手は俺が大好きな人たちに共通してる手だ。しばらく目を閉じていたテンプル先生が呟くように言った。


 「なるほどのぉ‥」


 穏やかな笑顔を浮かべて俺とシルフィを優しげに見るテンプル先生だった。なぜか先生とシルフィは笑顔で頷きあっていたけど。


 「サンデーちゃんや。良い子を紹介してくれたの。サンデーちゃんもアレク君と会うべくして会うておるからの」

 「テンプル先生それってどういう意味なんですか?」

 「サンデーちゃんがワシと会うたのも縁。ワシがアレク君と会うとのも縁。サンデーちゃんがアレク君と会うたのも縁なんじゃよ。ワシらは輪廻の中で会うべくして会うとるんじゃよ」

 「「??」」


 俺にもサンデーさんにも、テンプル先生が言った言葉の意味はよくわからなかった。それでもその出会いには何か意味があるものだってことはわかったんだ。



 「!」

 「!」


 「テンプル先生!」

 「わかるかのアレク君?」

 「はい先生。200メル先の岩場。人族が10人ほど待ち構えています」

 「よきかなよきかな」

 「えー?テンプル先生、アレク君、私ぜんぜんわかんないんだけど」

 「ははは。護衛してくれとる人族の若者も1人も気付いておらんからサンデーちゃんが気付かんのも仕方ないわな」


 そう言ったテンプル先生は先頭を駆ける鉤爪の3人を停めてから独り言のように俺に言ったんだ。


 「ワシはてっきり野営中に襲ってくるものとばかり思うておったがの。彼奴ら少し油断し過ぎておるの。数が少な過ぎじゃ。よし。少し彼奴らを怒らせるかの」


 「さてアレク君少し仕込もうかの」

 「はい先生?」


 そう言ったテンプル先生がいたずらっぽい笑顔を浮かべたんだ。先生は何を仕掛けるのかな?


 「楽しみねーアレク」

 「ああシルフィ。楽しみだねー」


 ビリー先輩の師匠だもんな。そのまま倒したりはしないよな?もしかして鉤爪に何かさせるのかな。絶対何か仕掛けるんだよ。ああめっちゃ楽しみだな。



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