372 憤死或いは噴死?



 「じゃあ明日はニールセン村だからな。近いから9点鐘に時計台前なー」

 「「わかったわ」」

 「じゃあなーばいばい」

 「「ばいばーい」」


 荷物もないリアカーにシャーリーとミリアを乗せて爆走したんだ。だからあっという間に村に帰ってきた。

 2人はひたすらきゃーきゃー叫んで喜んでいたけど。


 まだ午前中。

 どうしようか。ああ、妹や弟、隣のちびっ子たちとも遊ばなきゃな。そうだダム湖でも作りに行くかな。


 「こんにちはー。アンナいるー?」

 「いるいる!アレクなんにゃ?」

 「アレクお兄ちゃん!」

 「デイジーちゃんもいまちたか。アレクお兄ちゃんとアンナお姉ちゃん、チャミーお姉ちゃんたちみんなで遊びに行きまちゅか?」

 「行くにゃ」

 「そうでちゅか。じゃあさっそく行きまちゅよ」

 「ねぇアレク」

 「なんだアンナ?」

 「デイジーに話すときだけなんで変態になるにゃ。アレクはスキダケドその話し方は変態みたいでイヤにゃ」

 

 え〜!どこが変態なんだよ!?それと途中がゴニョゴニョして聞こえなかったぞ。


 「おばさん、デイジー連れて遊びに行くからねー」

 「わかったわーアレク君お願いねー」


 裏の方からおばさんの声だけ聞こえていた。洗濯かな。

 2人をリアカーに乗せてジャンの家からチャミーも乗せ、最後に家のスザンヌとヨハンもリアカーに乗せたんだ。


 「母さんみんな連れて遊びに行ってくるね。暗くなるまでには帰るから」

 「わかったわー。気をつけてねー」


 母さんも奥から声だけが聞こえる。やっぱ洗濯かな。


 リアカーには即席座席を発現した。2列のベンチシートにジェットコースターみたく安全バーを装着したんだ。

 リアカーの前列に乗るのはスザンヌとヨハン、ジャンの妹チャミー。後列にはアンナと妹のデイジーの5人だ。

 いつも手を繋いでいるヨハンとチャミーはなんとリアカーの中でも手を繋いでいた。くそっ!


 「お兄ちゃんなんかワクワクする」

 「アレクお兄ちゃん私もワクワクする」

 「お兄ちゃん僕もワクワクする」

 「「私もにゃー」」

 「みんなしっかり掴まってろよ」

 「「「うん」」」

 

 みんな初めて乗る乗り物に大はしゃぎだけど、本当はこんな使い方はしないんだよ?


 「お兄ちゃんどこへ連れてってくれるの」

 「川の上流に行くぞ」


 そう。のんのん村にも作った貯水池をうちの村にも作らなきゃいけない。うちの村の場合は川から水路を引いた噴水公園があるけど、元々が荒地だからな。渇水の影響はもろに受けるんだ。

 だから川のさらに上流に貯水池っていうかダム湖を造ることにしたんだ。ここはヴィンサンダー領でも最も貧しいエリアだからね。正確な土地の所有者なんてものもないし、だいたい周りには人どころか魔獣さえもいないからね。


 ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ‥


 きゃー

 きゃー

 あははは

 





 ハァハァハァハァハァハァ‥


 爆走したよ。あー疲れたー。


 川の上流部に来た。うん、やっぱり人の気配どころか魔獣の気配さえないな。

 澄んだ川は大きな石がごろごろとするいわゆる渓流だった。


 春3月。

 陽春どころか初夏を思わせる暑さだ。やっぱこの夏は雨が降らないんだろうな。

 川は流れも速くなく水深も膝ちょっとくらいで子どもたちが水遊びをしても危なくない。

 ひんやりした水温が心地よい。足を浸してたんだけど、そのうち誰かれ言うことなく服を脱いで水遊びをする5人だ。


 きゃーきゃー

 きゃーきゃー

 きゃーきゃー




 えっ!?







 アンナ‥‥おま‥‥














 ブーーーッッッ!





 そこには一矢纏わぬアンナの姿がいたのだ。俺はそれを1秒見た。そう1秒だ。俺は心のシャッターを連写したのち、大量の鼻血を出して倒れたんだ……。


 「アレク!」

 「お兄ちゃん!」


 ちびっ子たちの声を耳にしながら意識が遠のいていく俺だった……。


 ヤバいヤバい。幼なじみの裸を見て出血多量とか洒落にならないぞ!幼なじみに変態になって襲われたなんてニャンタおじさんたちにチクられたら殺されるわ。





 「アレク大丈夫にゃ?」


 目が覚めたら服を着たアンナがいた。


 「ああアンナ‥俺は‥」

 「アレクはたくさん血を吐いて倒れたにゃ。すごく心配したにゃ」

 「‥‥」


 (ああ良かった。血を吐いたことになってんだな。でもなぜかスザンヌが白い目で見てる気がするけど)


 「あ、ああ。大丈夫大丈夫。本当にごめんごめん。いや、ありがとうありがとう」

 「なんで謝るにゃ?なんで感謝されるにゃ?」


 ああ俺はこんな純真無垢なアンナを邪な想いで見てしまったんだ。でも‥‥すごかったなぁ。ボッキュンボーンだよ!えへへ。あっ、ヤバい!思い出しただけでまた鼻の奥が……。


 「俺まだちょっとだけ横になるわ」

 「うん。そうするのがいいにゃ」


 そう言ったアンナが俺の頭を撫でながら歌を歌っていた。相変わらず歌が上手いよなアンナは。







 渓流の深みに手を入れて雷魔法を通していくとおもしろいように渓流魚が浮いてきた。日本のアマゴ(ヤマメ)みたいな魚だ。


 「お兄ちゃんいいよー」

 「競争だにゃ」

 「負けないよ(負けないにゃ)」


 「いくぞーサンダー!」



 お昼には捕った魚に串を刺して炙って食べた。塩は常備している特製アレク塩だ。


 「おいしいねー」

 「おいしいにゃ」

 「肉もうまいけど魚もうまいにゃ」


 やっぱり猫は魚が好きなんだろうか。




 「このあたりにするかな」

 「ディーディーちゃんどう思う?」

 「はいアレクお兄さん。いいと思います」

 「じゃあこのへんにしようかな」


 そこは周囲からみて谷になった部分だ。


 「ノームいるー?」

 「なんじゃ人の子?」

 「なんじゃ?」

 「なんじゃ?」

 「このあたりを沈めて水を貯めたいんだけどいいかな?」

 「いいぞ」

 「いいぞ」

 「じゃあ手伝ってくれる?」

 「おいさおいさ」

 「人の子の手伝いは何百年ぶりかのぉ」

 「「おおよ」」

 「じゃあいくよー」

 「「「おいさおいさ」」」


 「ダム湖!」


 ズズッ‥


 ズズズズッ‥


 ズズズズズズッ‥


 ズズズズズズズーッ‥


 リズ先輩みたいな重力魔法(グラビティ)が発現できたらもっと早くできるのにな。

 俺の場合土を掘っては側面を圧縮していくスタイルだ。


 結局ダム湖はそこそこ大きなやつを作ったよ。池じゃなくって湖サイズでね。深さも最深部では30メルくらいはあると思う。


 「「お兄ちゃん(アレク)‥‥」」

 「(ディーディーちゃん‥‥)」

 「(ヨハンちゃん、お兄さんは本当に信じられないくらいにすごいわ‥)」




 「じゃあ帰るよー」

 「「「はーい」」」


 遊び疲れたのか、帰りのリアカーはとっても静かだった。みんな寝てるみたい。やっぱ遠足の帰りのバスや電車といっしょだな。お土産の魚も3家族分獲ったしね。




 ▼




 「じゃあ行ってくるよ」

 「いってらっしゃい」


 夜遅く。っていうか深夜。

 温泉の掃除に行った。いつもはジャンやベンなど男の子たちが日替わりで掃除をしているそうなんだ。せめて春休みくらいは俺も手伝わなきゃな。

 さてと。今日は女湯の掃除だったな。


 「掃除でーす。誰かいませんかー。入りますよー」

 

 しーーーん


 ああ残念。

 やっぱラッキーすけべみたいな展開にはならないよな。

 湯を抜いてから女湯の掃除をする。


 ゴシゴシ ゴシゴシ ゴシゴシ‥


 鍛治仕事もそうだけどこういうふうに無心になれる仕事っていいよなあ。

 小1時間の掃除のあと。再び湯を張った。湯量も豊富な「デニーホッパー村温泉」はすぐに湯もたまるよ。

 役得だ。夜中に誰もこないし、1番風呂に入るか。




 あーいい湯だよ‥





 さて帰るか。

 そこに。

 温泉から出た俺と温泉に入るシスターナターシャが扉の前で。


 「あらアレク君?」


 そこには本物の大人の女性がいた。隠すそぶりの無さはやっぱり俺がお子さまだからだろう。

 それでも俺からすれば‥‥

















 ブーーーッッッ!


 本日2度めの出血多量。さすがに転生前の風景が走馬灯のように流れたよ……。






 翌朝の9点鐘。

 俺が時計台前に現れなかったのは当然である。わが家に迎えに来たシャーリーとミリアの2人は2度も鼻血を出して倒れたという話を聞いて呆気にとられていたという。




 ―――――――――――――――


 


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