365 トマスとマイケル


 「おいお前ら起きろ。着いたぞ」

 「えっ?!もう着いたの?」

 「ふあぁぁよく寝た。マジ?2点鐘くらいじゃん!」

 「「早っ!」」


 きゃーきゃー言ってはしゃぎまくっていた2人。小1時間もしたらはしゃぎ疲れたのか、急に静かになったかと思ったら2人とも夢の中だった。あーこれ旅行のバスや新幹線に乗るのと同じだな。

 で、起きたら目的地。うん、これは理想的だよ。


 ゴロゴロゴロゴロ‥


 村の東門入口に来た。


 「ああ君は鉄級冒険者だったな」

 「おお鉄級の坊主」

 「ちーす」


 西門に居た見覚えのある騎士さんが2人ともいてよかったよ。やっぱり俺はまだまだ子どもだから鉄級冒険者って言っても不審な顔をされるんだよな。


 マリー先輩やビリー先輩はもちろん、サミュエル学園長にもいろいろ相談したんだ。今後の俺の所属について。

 で、今の段階で俺が取るべき形は、何年か分からないけど俺自身が強くなるまでは助けてくれる人の力を借りるべきだという結論に達したんだ。

 だからアレクというデニーホッパー村の出身者はいるけどその男はヴィヨルド領領都学園に所属するアレクであり、ヴィヨルド領の領都ヴィンランドギルドを主な活動地としている鉄級冒険者のアレクであり、商いでもヴィヨルド領領都ヴィンランドの商業ギルド並びに王都ミカサ商会傘下のアレク工房だと周りからは思われるよう活動をしていこうと思っている。

 なんかね、人の褌で相撲をとるじゃないけど、他力本願だとは思うよ。でも今の俺は堂々とデニーホッパー村民だと言えないから。それを言ったら、必ず村や家族は悪意に晒されることになると思うから。それは悲しいことだけど今の俺の力ではどうしようもない。だから今後起こり得る悪意に俺自身の力で抗えるようにように、早く強くならなきゃな。


 門番の領都騎士団員さんがミリアをみて驚きの声をあげたんだ。


 「えっ?!ミリアお嬢?」

 「お嬢!」

 「あー!トマスさん、マイケルさん久しぶりー」


 それはミリアのお父さんの部下だったトマスさんとマイケルさんだった。


 「まさかトマスさんたちも‥」

 「ええ。スミス団長に近い者たちは皆飛ばされましたよ」

 「ごめんねトマスさん、マイケルさん‥」

 「なぜ?団長はぜんぜん悪くないんですよ。ましてやお嬢は何にも悪くないじゃないですか」


 トマスさんに続けてマイケルさんも声をあげた。


 「団長やお嬢はぜんぜん悪くないですよ。悪いのはあの‥‥まあヤメトキマス」


 マイケルさんがお手上げのポーズをして半笑いをした。


 「で、お嬢はなぜデニーホッパー村へ?」

 「うんシャーリーとアレクは領都の後期学校の仲間なの。だから今年の春休みの間はこの村で過ごすの」

 「ああそうでしたか。ここは良い村ですよ。人も良いし食いものもうまい。なにより温泉が最高ですよ」

 「お嬢、ここの温泉は最高ですよ。ややこしい領都なんかより俺はもうずーっとここに居てもいいくらいですよ」

 「こらマイケル。お前って奴は‥」

 「へぇーそんなに良い村なんだ」


 なるほどな。この人たちはミリアのお父さんの部下なんだな。だからミリアをお嬢って呼ぶんだ。

 ミリアのお父さんと同じで現領主の支配する体制にそぐわない真面目な騎士団員たちは飛ばされたんだな。まあデニーホッパー村としたら災い転じてなんとやらだ。

 でもちょっぴり残念なこともあるんだよな。だって入場門テンプレだったら袖の下を求めてくるような悪い騎士がいるじゃん。でもそんな悪い騎士がいないのはね、やっぱちょっぴり残念なような気もするけど……。


 「そうだアレク、シャーリー紹介するね。この人たちはトマスさんとその部下のマイケルさん。父様の腹心だった騎士団の人よ。あと村を守る騎士団の人たちも父様の部下だった人たちだからみんな真面目だよ」

 「「よろしくお願いします」」

 「私はトマスだ。君は、えーと」

 「アレクです」

 「よろしくな鉄級のアレク坊。俺はマイケルだ」

 「アレク君はヴィヨルド学園の生徒なのかい?」

 「はい。修行をかねてヴィヨルドに行ってます」

 「すげぇなアレク坊。学園生かよ!」

 「あはは。一応そうです」

 「そうかい。じゃあアレク君も20日くらいは村にいるんだね」

 「はいそうです。えーとトマスさん、マイケルさん。手が空いたときに俺に稽古をつけてくれませんか?」

 「ああそんなことくらいいつでもいいよ」

 「俺は鉄級のアレク坊の力もみてみたいな」

 「やった!じゃあこれから毎朝宿舎に行きます」

 「ああ。じゃあ朝の訓練にはアレク君も参加してもらおうかな」

 「いつでもこいよアレク坊」

 「はい。お願いします!」



 やったよ!

 騎士団の人と一緒に訓練ができる。いろんなタイプの人との稽古は対戦経験が増すからありがたいな。

 トマスさんはいかにも真面目そうだな。ミリアのお父さんみたいなタイプの騎士さんだ。明るいマイケルさんはムードメーカーなのかな。オニール先輩みたいだな。


 結局俺は20日間の間、騎士団の朝練につきあわせてもらった。まったく意図してなかったんだけど、このとき出会ったトマスさんとマイケルさん、ほかの領都騎士団員さんたちと知り合えたことが今後に影響を与えることになるんだけど、それはまだまだ先の話だ。



 ▼



 「さて‥‥」


 シャーリーと目配せをする俺。


 「「ようこそデニーホッパーへ」」

 「あっ、えーっと20日間お世話になります」


 ペコリと頭を下げるミリアだ。


 「じゃあまず教会へ行くよ。師匠とシスターナターシャを紹介するからね」

 「アレクの師匠ってディル神父様だよね?」

 「そうだよ」

 「父様が昔まだヴィンサンダー領の領都騎士団に入る前、上司だったんだよね、ディル神父様って」

 「俺昔の話は知らないよ。ただ師匠はめっちゃ厳しい爺さんとしか」

 「あーアレク、神父様の悪口言った!神父様に言ってやろ」

 「やめろシャーリー!それだけは絶対やめろ!いや‥‥お願いだからやめてくれ!」


 フフフフ

 ふふふふ



 ▼



 「すごっ!」

 「うわぁ!」


 村に入ったミリアは想像してた村との違い(良い意味でらしいけど)にとても驚いていた。やたらと「すごっ」とか「ほぉー」とか「へぇー」って言ってた。


 「ねぇーシャーリー、デニーホッパー村のどこが『荒れ果てた村』なのよ!どこから見てもステキな村じゃない!」


 あーなんか自分の村が褒められるのは嬉しいな。


 「うん。今はそうかもしれない。でもねミリア、私たちがこの村の初級学校に入ったころは今とはぜんぜん違ってたんだよ」

 「えっ?」

 「本当よ。水にも困るくらいで僅かに採れる芋でさえお腹いっぱい食べられることはなかったわ」

 「ああ。たまに捕れる一角うさぎでさえごちそうだったからな」

 「そうそう。だからチューラットのツクネがおいしかったんだよねー」

 「ふーん。でもこの光景からはまるで信じられないわね……」


 そう。それはわずか6、7年前のことなんだ。開拓村デニーホッパー村は石ころだらけの荒れ果てた土地はあたりまえだったんだ。シャーリーから水魔法を学んだのもこのころだ。水桶に手を入れて何日も何日も「ウォーター」「ウォーター」と繰り返し言ってたよな。



 「ほら教会に着いたぞ」

 「きゃー何ここ!すっごいステキ!」


 教会の前の噴水広場。たしかに絵になるよな。川から引いた水路は村の中心の教会まであるし、1人2人乗れる遊覧舟(手漕ぎボート?)まである。広場の周りには今じゃ何軒も屋台が出て活気もある。小さな村なのに観光客もいるし。


 「ほら神父様のとこに行くぞ」

 「行くよミリア。神父様にチクリに行かなきゃ」

 「あわわ。やめてくれよ本当に!」


 ふふふふふ

 あはははは



 その後、師匠とシスターナターシャにミリアを紹介した。シャーリーにはチクられなくてほっとした。


 「じゃあ師匠、シスター、暗くなる前に宿舎の食堂に来てください」

 「あら久しぶりにアレク君の手料理ね」

 「アレク、酒も用意しておけよ」

 「だめですよ神父様」

 「いや、ワシじゃなくてだな‥ナゴヤ村のシシさんたちのじゃな‥」


 (師匠シスターに怒られてやんの!わははは)


 「なんじゃアレク、お前そんなに修行を増やしてほしいのか!」

 「い、いえすいません(どんな耳してんだよ、この爺さん)」

 「アレク、お前性格までタイラーに似てクソ生意気なことをワシに言うようになったの」

 「痛い痛い痛い!頭ぐりぐり しないで!」


 フフフフ

 あははは

 わははは



 「じゃあシャーリー後は任せた。ミリアを案内してくれよ」

 「うん。アレクは?」

 「ああ俺はミリアとナゴヤ村の人たちの歓迎会の準備をするよ」

 「えっ!?アレク何にもしなくていいよー」

 「ああ。別に大したことはしないよ。ただせっかく村に来てくれたんだ。ミリアにもナゴヤ村の人たちにも村の美味いもんを食ってもらわなきゃな。だから移ってきたナゴヤ村の爺さん婆さんたちの歓迎会も兼ねてやるんだ」

 「ミリア、アレクの作るものは本当にびっくりするよ。たぶんお貴族様でもね」

 「もうシャーリーやめてよ!」

 「ああシャーリー。今日はお前も知らない甘いデザートもあるからな」

 「「甘いデザート?!」」


 やっぱり甘いものの反応は予想以上に高いよな。だって甘いものイコール高級品だし。手に入る甘いものといえばノスグリの実とかの野生の果実か稀に手に入る蜂蜜しかないもんな。砂糖はごくわずかのみが富裕層に出まわる嗜好品扱い。

 そんな中でのメイプルシロップの登場は革命的なんだ。単なる嗜好品に止まらない、政治的存在にもなり得るゲームチェンジャーなんだ。

 だからこそメイプルシロップの製造は自他ともに強さを誇るヴィヨルド領と冒険者ギルド、商業ギルドの官民1体のプロジェクトなんだ。

 おそらくデニーホッパー村のような地方の村あたりでも今年中には村民が買える甘味料がメイプルシロップ。まあ当初は高いだろうけどね。それでも買えなくはない値段設定となるはずだし。


 「夕方には宿舎に集合な。家じゃないからね。シャーリーのおばさんはたぶん宿舎で接待してるだろうからおれが直接おばさんにも声かけとくから、シャーリーはおじさんと弟や妹も呼んで来いよ」

 「うん、わかった!」

 「じゃああとでな」



 ▼



 じゃあ夕方まで時間もたっぷりある。鮮度の良い肉を獲りにいくかな。


 「突貫!ブースト!」



 ―――――――――――――――


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