364 スミス・シュナウゼン
「アレクーここよ」
「アレク久しぶりー!」
教会(学校)の中庭で2人の女の子が手を振っている。
ブラウンのショートボブ。飛び跳ねる活発な小柄な女の子。えー!元々可愛かったけどミリアってますますかわいくなったな。
それはやっぱりシャーリーにも言えることで。村ではなんとも思わなかったけど、昼間の違う環境で見ると、金髪ですらりとしたシャーリーもかわいいんだよな。
てか、2人並んでバックに教会の絵図。めっちゃ映えてる2人にびっくりだよ!
「お、お前ら‥‥いつのまにそ、そんなにかわいくな」
「「えっ?!」」
「な、な、な、なんでもねーよ!久しぶりだなミリア!」
(アレク‥赤くなってる。かわいいじゃん!そっか私もかわいいのか‥)
(昨日は言わなかったのに!でも聞いたぞアレク。かわいくなったって言ったよね!)
教会の前にはシャーリーとミリアの仲良しコンビ。そして軽く会釈をする見知らぬ男女がいた。
農民の子どもに自然と頭を下げられる大人‥‥うん、ミリアのご両親だろうな。
モンデール神父様並に背が高いお父さん。いかにも武人然とした筋肉質な身体に短く揃えた髪、意志の強そうな目元が印象的だ。若干頬がこけてみえるのは牢屋に入れられていたせいなのかな。ブラウンのロングヘア。ミリアによく似た美人なお母さんは常識的で控えめな印象を受ける。活発なミリアはお父さんの血を受け継いだのかな。
「こんにちは」
「「こんにちは」」
「ああ、君が噂のアレク君だね」
「あ、はい。デニーホッパー村出身、農民の子アレクです」
「娘と仲良くしてくれてありがとうねアレク君」
「いえミリアさんによくしてもらっていたのはシャーリーと俺です」
「今日は娘たちの護衛を兼ねてデニーホッパー村に連れて行ってくれるんだってね、アレク君」
「はい、村への行き帰りは俺が責任をもって同行します」
「おぉーアレクまるで冒険者じゃん!」
「何言ってんのミリア。今日私も知ったんだけど、アレク鉄級冒険者になってたんだよ!」
「ええ、アレクマジ?」
「ああ一応な」
「あれでしょ。私も噂で聞いたんだけどヴィヨルド学園全体でも10傑に入ったんだって?」
「まあな」
「すごいねアレク!」
「道中も安心ねあなた」
「ああ。これはたしかに安心だな」
「おじさん、おばさん、村の周りもアレクが発現した高い塀に守られてるから王都並に安全なのよ」
「そうなのねシャーリーちゃん」
「そうかい(あの城壁を作ったのがこの少年なのか!)」
「じゃあミリアのお父さん、お母さん20日ほど娘さんを連れ歩きますから。許してください」
「(えっ?!娘さんをください?)」
「(えっ?!やっぱりアレクは私たち2人を‥ハーレム‥)」
「「(でもいいか‥)」」
そんなミリアとシャーリーを他所にアレクとミリアの両親の挨拶が終わる。
「じゃあ時計も置いたし、出発するか。ちょっと待ってて」
そう言った俺は時計をしっかりと固定していた鉄を外し、その場で長椅子1台を発現した。
「出よ長椅子!」
発現した長椅子をリアカーに装置した。
車のリアシートの要領だね。硬くてお尻が痛くなるんじゃないかって思うけど、この時代の馬車でさえ同じように揺れまくるからな。まあ明日からは布シートをつけるけど。
「「「‥‥」」」
シャーリーもミリアも、ミリアのご両親も絶句しているけど、なんで?俺が土魔法を使えることは2人とも知ってるよな?金も同じようなもんだよ?
「「アレク‥あんた‥」」
「あなた‥」
「ああ‥規格外だな‥」
「そうだ!ミリア今夜村の温泉に入ろうね」
「えっ?!温泉ってお風呂よね?」
「さすがお貴族様よねミリアは」
「王都でお風呂がある宿に初めて泊まったわ。でもあのお風呂ってめちゃくちゃ高」
「あのねミリア村の温泉はねいつでも好きに入れるし、この中庭より大きいのよ!」
「えっ?!」
「それもね去年アレクが発現したの。今じゃ村の名物よ」
「楽しみねー」
「そうよ楽しみよ」
「そうだぞ2人とも20日間はお前らが嫌だって言っても連れ回してやるからな」
「「(やっぱりアレクはハーレム‥)」」
「うん!楽しみ!」
「楽しみね!」
「じゃあ行くぞ!」
「父様母様、行ってきます」
「ああ楽しんできなさい」
「皆さんに迷惑をおかけしないようにね」
「はい!」
「じゃあミリアのお父さんお母さん失礼します」
「「よろしくねアレク君」」
「はい」
「行くぞ。しっかり掴まってろよ」
「「うん」」
ゴロゴロゴロゴロ‥
デニーホッパー村に向けて出発するアレクとシャーリー、ミリアの3人だ。
ゴロゴロゴロゴロ‥
領都サウザニアを出てすぐ。人目も気にしなくてよくなった。
「そろそろ飛ばすからな、2人ともしっかり掴まってろよ」
「「うん」」
「シルフィ頼んだよ」
「ええアレク」
ビュンッ!
追い風を受けて一気に加速するリアカー。時計もない4輪仕様だから多少のスピードを出しても大丈夫だ。でも帰ったら揺れないようにサスペンションを付けるかな。
キャーーーッ!
キャーーーッ!
やめてーーー!
停めてーーー!
2人が悲鳴をあげてたのは最初だけだった。
きゃーーっ!
あはははは‥
もっとよーー!
もっと早くー!
途中からは笑い転げる2人だった。だからジェットコースターじゃないって!
▼
3人を見送ったミリアの両親が校長室を訪問していた。そこにはモンデール神父(学校長)と保健医のケイトがいた。
「モンデール神父様、先ほど娘のミリアがシャーリーさんと一緒にアレク君が曳く不思議な馬車でデニーホッパー村へ旅立ちました」
「ああそうですか。娘さんにはこれまでにない貴重な春休みとなるでしょうな」
「ええ。いきなり金魔法を発現したアレク君に私たちもびっくりしましたわ神父様」
「はっはっは。見ましたかアレク君の魔法を」
「ええ。驚きで言葉を出ませんでしたわ。しかもアレク君は剣でもヴィヨルド学園で有数の腕前だとか?」
「ええ。我がサウザニア学校の生徒では手も足も出ない学園の1800人中の第3位ですよ」
「まさに規格外ですな」
「はっはっは。規格外、そう規格外ですなアレク君のあの魔法と武力は」
「神父様。つかぬことをお伺いしますが‥‥」
「ああ、大丈夫ですよ。この部屋はケイト先生がシールド魔法をかけておりますからな。どのような話をされても大丈夫です」
「はい。では……。私には初めて見る彼の姿に、10年も前にお隠れになったわが殿の面影を覚えました。しかも彼のあの優しげな目元は奥方のセーラ様の生き写しのようで‥彼はいったい‥」
「はっはっは。広い中原には似た人間がいるといいますからな。第一、親方様が亡くなられてすぐにご子息のショーン様も後を追うように亡くなられましたからな」
「さようでございますな‥」
「まあそれは置いておいて此度のスミス様の窮状お察し致しますぞ」
「はいお恥ずかしいかぎりです。まさかこの歳で騎士団を放逐されるとは思いもしませんでした。それもこれも私の不徳の致すところでしょう」
「王都でも『あの親方様』にしてやられたとか」
「はい‥私にとって親方様は今もアレックス・サンダー様のみなれば、承服しかねることも多々‥。
ただ昨年にお伺いをしたディル副長、ああディル神父様からの言葉だけを心の支えに挫けずに民を思い精進しております」
「ディル師はなんと?」
「はい『あと10年。この先何があろうが、あと10年辛抱せい。この領はある日激的によくなるぞ』と」
「はっはっは。さすがはディル師!」
「モンデール神父様?」
「はいスミス様。私もディル師と同じ言葉を貴方に贈りたいと思っておりますよ」
「やはり‥それはあの子が‥」
「さてなんのことでしょうかな」
「いえ、口が過ぎたようです。それでは私はこれにて」
「ああ、スミス先生。このあとケイト先生の案内にて学内を見学なされよ。それと諸々は副学校長から話がありますからな」
「えっ?それは一体‥」
「騎士団をご勇退されたスミス・シュナウゼン様は明日よりヴィヨルド教会学校の教育武官、スミス先生としてお勤めいただきます。これは法国の法皇印を戴いた女神教教会からの正式な任官状です。すでに王都の教育界、法曹界にも許可を得ておりますからな。ディル師の命と思って諦めてくだされよ」
「あ、あなた‥‥」
「モ、モンデール神父様‥‥」
「ああ、ご息女のミリアさんの学費等に関しては今後卒業まで一切かかりませんからな。これは先ほどのアレク君からの要請が身を結んだもの。真面目な学生が得られる奨学金制度です」
「な、なんと私たちは彼に礼を言えば‥」
「何も言わなくて構いませんよ。逆に何か言われると藪蛇を突くことになりますからな。はははは」
「「‥‥仰せのままに」」
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